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第二話 マッドショット命中

 放課後はいつも寄り道もすることなく寮に帰る。

 エンデリシア高等学園では全生徒だけでなく、教師などを含めた学内の人間全員が寮に入ることを義務付けられている。

 寮はいくつも存在し、寮によって入寮の条件は異なっている。

 俺が住んでいる寮はクラス『セナ』の人間なら誰でも入ることができる寮だ。ようするに平民が入る平凡な寮というわけだ。

 金のない平民クラスはたいていクラスごとに割り振られた寮に入寮する。貴族であれば豪華な寮に男女別館、王族ともなれば一人で一棟まるまる貸し切りなんてのもある。

 それに比べると貧相な建物だが、それでも俺達からすれば十分すぎるほどきれいなわけで、少なからず配慮してくれるこの国の王の人柄が垣間見える。


「いやあ、今日も疲れたな」


「嘘をつかないでください。エルスくんはほとんどの授業で寝てたじゃないですか」


「なんだバレてたのか」


「バレてますよ。なぜかテストの点数はいいから教師も目を瞑ってますが、あんまりいい行いではありませんよ」


「先生たちにもバレてんの? 一度も起こされないからうまいこと騙せてると思っていたのにな」


「堂々と教科書立ててバレないわけないでしょ」


 絶対にバレてない自信があったのだが、どうやら今までの居眠りは見過ごしてもらっていただけらしい。次からは目を開けたまま寝る作戦で行こう。


 そんなことを考えながら、俺はいつものようにメリアスと帰宅していた。

 他の連中は放課後は課外活動に勤しんでいる。魔法や武術の練習をしたり、魔導具や素材に関することを研究したりと様々な活動をしているらしい。

 俺はというと、前世の記憶が残っている分、今では忘れられた知識を持っていたりして人前では研究ができない。そのうえあまり大きな成果を出すと、プライドの高い貴族連中に目をつけられてめんどうなことになりかねない。

 そんな理由もあってどこの活動にも参加していないのをいいことに、いつも放課後はメリアスと適当に時間を潰している。

 ちなみにメリアスは俺がどこの活動にも所属していないので、同じく無所属だ。


「さてと、そんじゃ今日もやりますか」


 ここ最近は寮の裏の林で、『完全自立型魔導具』の制作に放課後の時間を費やしている。

 説明しておくと、一般的な魔導具が使用者の魔力を注ぎ込むことでそれを消費し作動するのに対して、使用者の魔力を消費することなく作動する魔導具のことをそう呼んでいるのだ。つまり使用者がコストを払う必要なく作動できる魔導具。さらに言えば、特定の条件下で自動的に作動する魔導具のことでもある。

 もちろん魔導具というからには魔力は消費する。その魔力はどこから持ってくるかというと、周囲の地面や空気、火や水などの生物以外の自然のものを使う。

 現代の自然魔法科学においては、自然界に存在する魔力は人や動物や植物、魔物などの生物にしか宿らないとされ、なんの要因もなく命の宿らないものには同じく魔力も宿らないとされている。体内から放出された魔力が大気中を漂うことはあるが、それらの生物を介さず魔力が自然に宿ることはない。つまり、近くの物から魔力を取り込み魔導具を自動的に発動させることはあまりにも効率が悪いということだ。

 だが、この話に考慮されているのは魔力だけだ。魔力が生命体にしか宿らないのであればできないと言われている魔導具の全自動化だが、マナならば話は別だ。詳しい説明は省くが、マナはこの世界のいたる所に存在している目に見えない力のことだ。マナは自然界のあらゆる場所から自然発生し、命を育んだり、自然現象を発生させたりと様々な働きがある。そしてこの力こそ、魔法を発動させるための魔力の素でもあるのだ。このマナを取り込み魔導具内で魔力を発生させれば、魔導具の全自動化は成功する。


「試作品第6号ですね」


 俺は腕の太さほどの筒状の魔導具を地面に突き刺す。


「前回は暴走して大爆発したからな。もう泥だるまになるのはごめんだぞ」


 成功すればスイッチを押すと土属性の初級魔法『マッドショット』が発動し、空高く泥の弾が打ち出される仕組みだ。

 前作の試作品第5号は作動はしたものの動作が止まらなくなったあげく、自らを犠牲に辺りに大量の泥を爆散させる泥爆弾となってしまった。

 本来なら魔力を込めれば一発打ち出すものだが、自立型になると周囲のマナをどんどん取り込み、最後は許容量を超えて爆弾になってしまった。だから今回の6号には改良したストッパーを取り付けた。これでスイッチを押せばマッドショットが一発打ち出されて止まるはずだ。


「押すぞ」


 メリアスが見守る中、俺は魔導具のスイッチを押した。


「………………」


「………………何も起こりませんね」


「おかしいな。どっか回路ミスったか?」


 なんの反応もない6号を一度回収しようと俺が近づいたとき。


 バシュッ!!


「うおっ!!」


「だ、大丈夫ですか!?」


 メリアスが慌てて俺のもとに駆け寄ってくる。俺は驚いて思わず尻餅をついた。まさかこんな時間差で作動するとは。これも改良の余地があるみたいだな。


 ベチャ!!


「ギャッ!!」


 林の奥の方からそんな悲鳴が聞こえてきた。どうやら飛んでいったマッドショットが誰かに直撃したらしい。まさかこんなところに人がいるなんて思ってもいなかった。


「エルスくん、誰かに当たったみたいですよ!」


「…………うん、知ってる」


「早く謝りにいかないと!」


 メリアスはそう言って声のする方へと走りだした。

 とんずらしてしまえばいいものを馬鹿正直なやつだ。

 そう思いながら、メリアスのあとを追いかける。


「もう! なによこれ!」


「すみません、大丈夫ですか!」


 メリアスが声をかけた先には女の子が座り込んでいた。


「ちょっと! これあなたたちがやったの!? せっかくの私の貴重なお昼寝の時間をよくも台無しにしてくれたわね!」


 肩まである白い髪と同じくらい白い肌、深い蒼の瞳をした女の子が、真っ赤な頬を膨らませ、顔に泥をつけたまま涙目で激高していた。

 

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