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カセットテープは擦り切れない

作者: コモドモネ

「好き」だなんて陳腐な言葉では表せないほど、君の歌が好きだったよ。

 それには言葉に出来ない思い出が詰まっていた。

右の耳は彼、左は私。学校の帰り道、神社の階段でいつもそれを使っていた。

A面からB面へ、ひっくり返してまた再生ボタンを押すと凛とした声が耳を通って身体を駆け巡る。

思わず口ずさむと、彼は恥ずかしそうにはにかんだ。

『いつまでも続けばいいのに』

毎日願い続けたが、その想いが彼に伝わることもなく、彼はその2年後には東京へ行ってしまった。

『君と過ごしたあの時には戻れない。新しい扉の先、僕はもう行くよ。さよなら僕の……』

テープが擦り切れるその瞬間まで聞き続けた。学校を卒業し地元の大学に進み、何も未来を決められないまま地元で就職をして、世はCDが主流になっても私は繰り返し彼のカセットテープを聞き続けた。

いつか準備が出来たら彼に会いに行くつもりだった。

「何の?」

だけど、友人にそう言われ口を閉ざしてしまった。

そう、私はただの意気地なし。彼が歌手を目指していると知って、私は彼に歌詞を提供した。彼の最初のシングルは私が作った歌詞で作られていた。そしてB面にはカセットテープに入りっぱなしのあの曲が入っていたのだ。B面の曲は彼が自分で作った曲。私が世界で一番大好きな曲だ。最初からあれをA面にすればよかったのに、何故かそうしなかった。

その理由を聞く勇気もなく何年も経ち、私は彼の訃報を知った。

「どうしてって、そんなの知らないわよ。むしろあんたの方が仲良かったのに、何も知らないわけ?」

「……」

仲が良かったのは思い出の中だけ。実際は彼が東京へ行ってしまってから一度も連絡しなかった。

「このまま後悔を重ねるくらいなら、行けばいいんじゃないの?」

東京へ追いかけたって彼はもういない。だけど、目に見えない何かを恐れて彼に最後の別れを言えなければ、きっともっと後悔する。

「うん……」

 東京で彼に会う時は、私も何かのプロになっているんだって思ってた。だけど人生はそんなに甘くない。私は未だ何者にもなれずにいた。だけどそんなの関係なかった。そんなバカげたプライドなんて捨てて、彼に会いに行くべきだった。

「さよなら、僕の……」

彼の言葉でそのフレーズを聞いた時、恥ずかしくて、嬉しくて、素直になれなくて……。

 「ごめんなさい。遅くなったけど、私も今扉の前に立ったよ」

A面からB面へ。

すべてをひっくり返して、私はあなたに会いに行く。

さよなら。私の……

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