表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

百日紅⑤

腰あたりまで伸びた、豊かな黒髪。

薄桃をまとった白い肌。スラリと長い手足。

花びらの様な口許に、柔らかな薄紅の頬。


一目見れば、誰しも呼吸を忘れるような美しく華やかな珠々子。それ以上に、慈しみ育まれてきたのが溢れ出ている少女。


そんな彼女が、当主の椅子に着座している。

座敷にいる大人たちを圧倒する、静けさで。


「お集まり、ありがとう」


珠々子が労いを伝える。

大人たちは、彼女の労いに様々な反応をこぼしている。

その反応に、珠々子は心の扉を閉ざした。


「望月か大石、それか京都の藤野ですかの」


珠々子をよく知る大人が、彼女を援護するように言った。


その声に、座敷が冷水を撒いたかのような静まりを見せた。


「結城のお姫さんぞ!?」


一人の大人が声を上げた。

その男は、珠々子の祖父の父の最後の弟子で、結城家家臣の家に生まれた老人だった。


その言葉に、大人たちが小さな声でざわめく。


「ただ一緒に育っただけです」


珠々子がその老人を見つめ、静かに言った。

その真実を知っている者など、ほとんど居ない。


彼女の眼差しと声に、老人は口をつぐみ、視線を落とした。


渡辺と珠々子の乳母は、少女と老人の言葉ではなかったやり取りを見つめ、密かに胸を痛めていた。


「大石はいくらなんでも年が離れすぎてましょう、医者としてはいい跡取りじゃが」


「京都の藤野は血も歳も良いけど、遊びにうつつをぬかしがちだからのお」


「望月は、一番優秀な五男坊が七つほど上やったかの?」


「東京で勉強しとる(ひさし)か」


年寄りどもが、(にわか)にざわめいている。


「祐輔さんの弟子じゃろ、望月の五男坊は」


その言葉が、結論となる。

年寄りたちの目が、珠々子に集まった。


「・・・」


言葉なく、珠々子が頷く。躊躇(ためら)いもせずに。


南部鉄器の風鈴の音。

珠々子はそれだけを、耳で探していた。

正面を見据え、微動だにせず。


どれ程時間が経ったのか、少女が視界に気をやった時、座敷に集まっていた者たちが全て、いつの間にかに去り終えていた。


閉じられた襖。

両側にそれぞれ控えていた、乳母と渡辺も居ない。


そう知った刹那。

少女の眉間と頬に強ばりが走る。


「・・・(てる)ちゃ・・・んっ」


珠々子の呼吸音に混ざった声。

かすかに乱れる湿った呼吸。


それでも、彼女は涙を押し(とど)めていた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ