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5話

“大丈夫かって……そんな訳ないだろ!”

軽々しく話しかけるな。

声を出さず、ただ躙り寄って来た者を睨めつけるように一瞥し、それが来た方と逆に向かって歩き出す。

“ま、待って!”

そいつはやはり何も言わず、少し戸惑いながら後を追ってきた。

向けられた憂心はただただ不快だ。

腹が立つ。

お前にはその口があるじゃないか!

何故声に出さない!

それとも何だ、声を掛けるのは躊躇いがあるのか!

項垂れている俺を追いかけるポーズさえすれば、『君を心配している』という事を察して貰えると!

“ふざけんなよ偽善野郎!俺がどれだけ苦しんでるか、どれだけ辛いか、どれだけ…………もう死んでしまいたいと思ってるかなんて……理解できない癖に…………”

込み上げてきた怒りで刀の柄を握り締める

ーーが、そんな気持ちは身体の力ごとすぐに失せ、俺はその場に崩れ落ちた。

それでもそいつは全く懲りる事なく俺に近寄ってきた。

“解るよ。”

何が解るんだよ!

“辛かったんだね。苦しかったんだね。”

口では幾らでも言えるだろ!

“違うよ、心から思ってる。”

だから、そんなの幾らでも

“私も、君と同じ能力を持ってるんだ。”

“……?”

突然の事で、何を言っているのかがわからなかった。

見上げるとそこには、俺と同じ涙を流し、それでも笑顔でこちらを見つめる人がいた。

“え、それはどう言う……って、そもそも何で会話が…………え?”

“『心盗み』は人の思考を読み取る力。それが2人いれば読み取り合う事で会話になるんだ。通じ合えるんだ!だからさ、一人で溜め込まないで!その辛さ、その苦しさ、私に少し分けてよ!それで一緒に乗り越えよう!”

出口に鍵を掛けられ、ただひたすら詰め込まれていた負の感情。

他人が、当たり前のように放った心を余すことなく回収し、自分の気持ちは淀んでいく。

自分はこれだけ苦しんでいるのだと気づいて貰えるだけで良かった。

そんな些細な願いは叶うことなく、心の重さは増す一方。

理解者は存在しないのだと諦め、このまま壊れてしまおうと思っていた。

"ごめん……さっき、ずっと酷いことを言い続けてた!何も理解できない奴だって…………ごめん。ごめん……"

彼女自身も、俺の抱えた負を感じ取り、相当の苦しさを喰らっただろう。

それでも俺の心に寄り添ってくれた。

彼女が開けてくれた錠。

溜め込まれていた感情は両目から溢れ出した。

彼女は一瞬戸惑った後、再び微笑み俺を抱き寄せた。

"安心して、もう独りじゃないから。私がいるよ。"

俺は無音で泣き叫んだ。




“あの…………、先ほどはどうも御見苦しいところを…………”

顔をそらしていても、何なら口を開かなくても考えが伝わる。

真っ赤になっているであろう顔を相手に見せなくていいというのは現状とても好都合で、こういう時ばかりはこの能力で良かったと思える。

彼女、篠塚沙穂は同じ高校生で、住んでいる地域は俺と全く別のところらしい。

どうやら俺たちと同じく、学校のホームルーム中にクラスごとゲームに参加させられたようだ。

ゲーム内の姿はいわゆる日本人顔で、黒く小さな目をしている。

光沢を帯びた黒い髪、赤いラインの入った黒色のセーラー服、黒のタイツに黒のローファー。

全身の黒は、僅かしか見えない彼女の雪のように白く繊細な肌を強調する。

“うん!大丈夫だよ!まあ……、そういう事もあるって!”

“やめて!それ今はただの燃料だから!”

彼女の気遣いの言葉で身体(主に顔)がさらに熱く赤くなる。

“まあまあ、もう終わったことだし!”

『切り替え!切り替え!』と手を叩き茶化す彼女に、照れ隠しで軽く悪態をつく。

そんなやり取りを何度かしているうちに、(能力のお陰でもあるだろうが)初対面とは思えない程に打ち解けた。

“それで、この後どうするかってのを決めなきゃいけないけど…………てか、そもそも行動って一緒に取ってくれるの?”

キョトンとした彼女。

“…………え!?そもそも一緒に動くものだと思ってたんだけど!?”

『高速身振り手振り』をしながら質問返しをされた。

慌てた様子が面白かったのと、何より当たり前のように言ってくれた嬉しさと心強さで口角が緩んだことを咳払いでごまかした。

“まあそれで、情報交換から始めたいんだけど…………そういえばずっとここに留まってても大丈夫なの?”

“それって…………死亡フラグなんじゃ…………”

彼女の顔から血の気が引いていた次の瞬間、民家に隠れていた時のガラクタ人形が電子音を響かせながら迫ってきた。

反射的に人形の来る方とは逆の方向へ逃げながら念を彼女に送る。

“ヤバいヤバい!あれ自爆するやばい奴なんだよ!早く逃げな…………え!?”

彼女、沙穂はその場に立ち止まったまま後方の俺に一瞥し、右手で後ろから前にひざ丈のスカートをはたく様に振り上げた。

チラリと露わになった黒で包まれた太腿。

そこに巻かれたホルスターから無骨な拳銃を1丁勢いよく取り出し、両手でホールドするように構えた。

敵を見据えた彼女が『見てて』と一言だけ俺に語りかけた後、3回の乾いた破裂音が辺りに響いた。

左肩、右脇腹、頭と被弾した人形は、体を構成していたパーツが外れ落ちていき、沙穂から2メートル程のところで崩れてガラクタの小山になった。

“これって…………壊せるんだ…………”

“そーだよー。フフッ”

不自然にもよく似合っている拳銃。

ひらひらとそれ見せびらかしながら近づき、見上げてくる沙穂。

爆破に恐れて逃げてしまった俺をドヤ顔で見つめてくる。

“また借りができちまった……”

羞恥心、罪悪感、その他もろもろの感情から、思わず彼女から顔をそらしてしまった。

“まあまあ、次ヤッてくれればいいから!あー、あとね、”

沙穂は何かを思い出したように翻り、先ほどまでいた方向へ銃をしまいながら小走りした。

彼女の向かう先へ目をやると、ガラクタの小山はいつの間にか消失しており、代わりに黒く四角いものが落ちていた。

彼女は笑顔を浮かべ、それをヨイショと拾い上げ、

“替えの弾倉がドロップするの!”

満面の笑みで右手のものを見せつけてきた彼女。

反射的に顔を反らし、湧き上がってきた感情を悟られる前に押し込み、オーバーに驚いて見せた。

“へー!すごいすごい!すごいね!”

“バカにしてない⁉”

少し睨みつけるように見てきた彼女に背を向け、身体を震わせ笑ってみる。

物理的に離れていれば小さな感情(きもち)は届かない。

どのような問題を引き起こやもしれぬそれを納めたところで振り返り、頬を膨らませる彼女にフッと一瞬微笑みながら歩み寄った。

“ホントにバカにしてないから!ドロップ品、もう少しよく見せてよ。”

まだ未確定の心は、胸の奥の奥へと仕舞っておこう。

まずは目標のゲームクリアだ。

2人並んでお互いの武装やらの説明をしあいながら、所々に傷の目立つ通りを進んだ。


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