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刹那の襲撃

 それは、あまりにも一瞬の出来事だった。



 最初に反応したのは、剣になっていたパイク。



『──!!』


「ん? 何だ──」



 カタカタとスタークの腰に差さったままの状態で刀身を揺らして何かを伝えようとし、それに気がついたスタークが剣の方に目を落とした──その瞬間。



「──っ!?」



 スタークは、何かを予感して半歩だけ後退する。



 それは、直感──或いは本能だったという他ない。



 別に、スタークは自分に対して何らかの攻撃を仕掛けられた事を察して後退したわけではないのだから。



 だが、次の瞬間──。



 彼女は自らの予感が正しかった事を悟る。



 何故なら、フェアトと揃いの髪飾りで束ねていた彼女のサイドテールの毛先が──()()()()()()から。



 更に、その超人的と称して差し支えない動体視力により、とんでもない速度で自分の前を走り抜けようとする何かの姿をスタークはボンヤリと捉えており。



(……? っ!! そうだ、通り魔──)



 それが一体どういう存在なのか、どうして自分を襲ってきたのかも分からずに困惑していたスタークだったが、その一瞬で彼女は通り魔の話を思い返す。



 ──【ジカルミアの鎌鼬かまいたち】の話を。



(──逃がすか!!)



 ゆえに、その超人的な動体視力ですらハッキリと捉えられないほどに素早いらしい通り魔に、どこか一部でもいいと考えたスタークは咄嗟に片手を伸ばす。



 あわよくば身体の一部でも握り潰せればと、その開いた状態で伸ばしていた手を閉じようとするも──。



(っ!? くそ……っ!!)



 その驚異的な握力による一撃は──空を切った。



 もちろん通り魔が【ビルド】か何かを行使していた可能性もあろうが──それでも速度で劣ったのは事実。



 おそらく【ジカルミアの鎌鼬かまいたち】なのだろう何かは一瞬で姿を眩まし、どこかへと走り去っていった。



 時間にしてみれば、およそ三秒ほどの出来事。



 スタークが悔しげに歯噛みした──その瞬間。



 ──ドパァアアンッ!!



 と、スタークが手を閉じる時の音が鳴り響いた。



 随分と、遅れて。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぅわっ!?」


「なっ!?」


 当然ながら、そんなスタークと通り魔のやりとりを感知していた筈もないフェアトとクラリアは、その何かが破裂するかのような音に驚いてそちらを向く。


 無論、僅かながら外に出ていた王都民もざわつき始め、その殆どが音の発生源たるスタークを見ていた。


「ね、姉さ──」


 そして、この都市に住む全ての人々が通り魔に怯えているというのに、そんな轟音を鳴らして何がしたいのかと困惑しきったフェアトが声をかけようと──。



 ──した、その時。



『──!!』


「──ぅえっ!?」



 フェアトの声は、あらぬ方向へと向けられた奇妙にもほどがある左手の動きによって遮られてしまった。


「フェアト!? どうした、何があった!?」


「い、いえ……何でもないんです、何でも」


「そ、そうなのか……?」


 それを見て更に驚いたクラリアは『何事か』と心からの気遣いによる声をかけるも、この指輪の反応について話すわけにもいかず首を横に振るしかない。



 それどころではない──というのも大きいだろう。



(もしかしなくても……そういう事だよね……?)


 何を隠そう、パイクとシルドは並び立つ者たち(シークエンス)の存在を確実にではないとはいえ感知する事ができる。


 ゆえに、フェアトの左手が向いていた方向に、おそらく並び立つ者たち(シークエンス)がいたのだろうと理解していた。


 向いていたとか、並び立つ者たち(シークエンス)がいたとか、どうして過去形なのかと言えば──すでに彼女の持ち上がっていた左手が、くてんと垂れ下がっていたからだ。


「ま、まぁいい……それよりスターク、君は何をしているんだ? こんな往来で、あのような爆音を──」


 翻って、クラリアは何やら自己完結したらしいフェアトから視線を外した後、耳をつんざくような爆音の発生源であるスタークに事情を問い詰めようとする。



 だが、そんな彼女の咎めるような言葉は──。



「──通り魔に襲われた」


「な……っ、何だと!?」



 まるで何でもない事であるかのようにスタークが口にした衝撃の事実に遮られたものの、それを聞いたクラリアは先程の爆音の時よりも更に目を剥いていた。


 信じられない──クラリアは、そう言いたげな表情を浮かべていたが、そんな彼女に対してスタークは自分のサイドテールを片手で持ち上げ見せつけて。


「ほら、ここ見てみろよ。 削られてんだろ?」


「まさか……いや、そうか。 そうなのだな──」


 毛先だけが綺麗に丸く削り取られてしまったサイドテールを見たクラリアは、ブツブツと呟きながらも信じざるを得ないと判断したのか首を縦に振り──。



「──『王都民よ! たった今、通り魔による新たな被害が発生した! 可及的速やかに屋内へ避難を!!』」



 慣れた手つきで腰の長剣を抜き放ち、さも敬礼でもするかのように長剣を胸の前で立てつつ魔力を込めてから、その純白の光を纏う長剣を媒体として通信用の支援魔法、【光伝コール】をジカルミア全域に行使した。



 ──瞬間。



「──ひっ、いやぁああああああああっ!!」


「子供を、子供を中に入れるんだ!! 早く!!」


「も、もう嫌だ! 右手だけでも苦痛なのに……!」


「何を言ってるの!? ほら、早く立って……!!」



 まさに地獄絵図としか表現のしようがない、ジカルミアに住む人々の阿鼻叫喚な様子に、スタークもフェアトも言葉を失うほどに驚き困惑してしまっていた。


 見る者が違えば、『何を大袈裟な』と嘲笑うのかもしれないが──この都市で巻き起こっている事を知っているなら、そんな反応には決してならないだろう。


 先程まで不気味なほどの静けさに支配されていた王都は──たった一人の騎士の、たった一度の魔法による伝達で悍ましいほどの喧騒に支配されてしまった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 その時、王城に次ぐ高さを誇る時計台から喧騒という喧騒に支配された王都を見下ろしていた通り魔は。



『……?』



 分からない事があるのか、ただ首をかしげている。



 そんな通り魔の視線の先にいたのは被害者たるスタークでもなければクラリアでもなく、ましてや自分の接近に誰よりも早く気がついたパイクでもない──。



 スタークの双子の妹──フェアトだった。



 それもその筈、通り魔が狙っていたのは何もスタークだけではなく、フェアトも狙いの一つだったのだ。



 だが、スタークには寸前で躱されてしまうし。



 フェアトに至っては──そもそも通用していない。



 躱されるのはまだ分かる。



 今までだって、そういう事もなくはなかった。



 もちろん、ちゃんと後で削り取った。



 だが、効かないという事は一度だってなかった。



 ()()は──何だ?



 そんな事を声も発さずに考えていた通り魔は、フェアトに改めて興味深そうな視線を向けた後──。



 転移でもしたかのように、その場から姿を消した。


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