閑静すぎる王都
王都へと足を踏み入れる前に、ここまで自分たちを運んでくれた二頭の模型馬に礼を述べてから魔法を解除して崩した双子は、クラリアたちヴァイシア騎士団の後をついていく形で大きな門をくぐっていく。
そして、ヒュティカのような港町とも全く異なる王都の街並みに、その赤と青の瞳を輝かせようと──。
──したかったのだろうが。
そんな双子の視界に映ったのは、まるで幽霊都市かとばかりの不気味な静けさが支配し、『閑静』と称するのにも限度があるだろうというほどの都市景観。
東ルペラシオが王都、ジカルミアの人口は実に百万人ほどであり、これは東ルペラシオの総人口の四割近くにもなる、まさしく王都だと言える比率である。
だが、それも通り魔が現れるまでの話。
王都の中心に位置する王城から血管のように広がる通りには、すでに通り魔の被害に遭い他の街や村に向かおうとする者か、そんな人々の護衛目的か随分とまぁ重装備にも思える冒険者や傭兵くらいしかいない。
なまじ立ち並ぶ家々が港町のそれよりも格調高く見えるせいで、より一層の痛ましさを覚えてしまうと同時に、いかに通り魔の影響が大きいかを分からせる。
──【ジカルミアの鎌鼬】、という存在の脅威。
これが今のジカルミアの置かれた現状であり、そんな期待外れもいいところな景観を目の当たりにして。
「……気味悪ぃな」
スタークは思わず、そう独り言ちてしまう。
彼女たちの故郷であるあの辺境の地も、ほぼ無人だという意味で言えば大した差はないが、それでもあの地には人間や獣人、霊人を除いた多様な生命も精霊も存在していた為、僅かだが怖気を覚えるほどの静けさというのは双子たちにとって初めての体験であった。
「姉さん……もっとこう、言葉を選んでくださいよ」
それはフェアトとしても同意するところではあったが、すぐ隣にクラリアがいる事を考えて姉を咎める。
そんな中、他の騎士たちとともに騎士団の詰所へと帰還していったハキムに愛馬であるフェデルタを預けて双子と一緒に通りを歩いていたクラリアは──。
「……私相手に気を遣ってくれなくても結構だ。 今のジカルミアが不気味だというのも事実だからな」
「……っ」
その脳裏に、ほんの一ヶ月ほど前までは賑やかだった王都の様子を浮かべつつ、その残った右目に力を込めて細めながら不甲斐なさを露わにしており、それを見たフェアトは声をかけようとして──やめる。
──『それは貴女のせいじゃない』。
そんな言葉は──きっと何の慰めにもならないと。
──そう考えたから。
「……で? このまま王様がいる城に向かうのか?」
その時、重苦しい空気を変えるように声を挟んだスタークの、これからの行動についてを尋ねる旨の発言に対し、クラリアが僅かに潤んでいた瞳を拭い。
「っ、あぁ。 そのつもりだが……スターク、それにフェアトも私とともに陛下への謁見をしてもらいたいんだ。 報告を上げているとはいえ、『双子の少女に助けられた』──と言っても信じ難いだろうからな」
「それはそうでしょうね。 私は構いませんが……」
おそらく王都の中でも陛下からの信頼は特に厚い方だと自覚してはいるものの、それでも突拍子もない報告だった事も自覚している為に同伴を願うも、フェアトは何か心配事があるのかチラッと視線を横に遣る。
「? 何だよ」
他でもない、スタークの方へ。
すると、そんなフェアトの心配事を見透かしていたかのように、クラリアは軽く苦笑してから──。
「大丈夫さ、フェアト。 陛下は寛大なお方、十五歳かそこらの少女の言葉遣い一つで臍を曲げたりしない」
「そ、そうですか……? まぁ、それなら……」
基本的に誰に対しても敬語なフェアトと対照的な姉の粗野な言葉遣いでも、それを鬼の首でも取ったかのように咎める事はしない筈だと言い聞かせた事で、フェアトは不安げな表情を湛えつつも謁見を了承する。
「……? なぁ、さっきから何の話してんだ?」
「……何でもないので大人しくしててください」
「はぁ……? 何だそりゃ」
一方、二人が何の話をしているのか理解できていなかったスタークが割り込んで問いかけるも、フェアトは深い溜息をこぼして呆れ返っており、そんな妹の要領を得ない言葉で更に疑問を深めるスタークだった。
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『……』
それから、しばらく魔法で綺麗に舗装された人通りの少ない道を歩いていた三人を──何かが見ていた。
その何かは、この中の三人で言えば傍から見ると最も強そうなクラリアに──ではなく似たような顔立ちの二人の少女を次なる標的として狙いを定める。
──そう。
その何かこそ──【ジカルミアの鎌鼬】。
ハキムは──『性別も立場も時間も問わず』と言っていたが、まさにその通りだと言えるだろう。
まだ、日も暮れきっていない夕刻である。
そして、ヒュティカのそれらとは比べるべくもなく立派な家々の間──路地裏から少しだけ顔を覗かせた通り魔は双子を目掛けて飛び出す為に力を込めて。
『──ッ!!』
特に魔法も行使する事なく、どこからどう見ても隙だらけとしか思えない双子に特攻していくのだった。
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