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追悼の後に

 やはり──というべきか。



 いや、残念ながら──というべきだろうか。



 リゼットが息を吹き返す事は、なかった。



 騎士団で最も魔法の扱いに長け、それに加えて光属性にも高い適性を持っていたクラリアや、レイティアの魔力を受けて育ったパイクの【光蘇リザレクション】でも──。



 息を吹き返す事は、なかったのだ。



 一部の騎士たちは、ヒュティカに戻って六花の魔女に蘇生を依頼しようと提案するも、フルールに光の適性がない事を知っていたクラリアは首を横に振る。


 それからは、トレヴォンとの二回目の戦いが始まる前に出されていたクラリアの指示に従い、ハキムが騎士たちを統率する事により生存者の捜索を開始した。


 本来なら騎士たちを纏めなければならない筈のクラリアは──ただ、リゼットの手を握っているだけ。


 せめて、ジカルミアで埋葬する際には綺麗な状態にしてやりたいと口にしたクラリアによって、リゼットの真っ二つになっていた身体は【光癒ヒール】や【水癒ヒール】で修復され、さも安楽死したような姿になっていた。


 無機物でも癒す事ができるというのが【ヒール】の持つ便利な性質の一つであり、スタークの一閃にて砕けたクラリアの長剣を修理したのもその性質あってこそ。


 スタークは多少なり罪悪感があったらしく、『あたしがやろうか』とリゼットの修復を買って出ていたのだが、クラリアはそれを拒否して自分で修復をした。



 他の誰かに任せる事は──したくなかったから。



 数時間後、壊滅したレコロ村の消し炭と化した家屋や畑などの後始末を兼ねての生存者の捜索を終えた騎士たちを代表し、ハキムがクラリアに報告をする。



 だが、こちらも残念な事に生存者は──ゼロ。



 蘇生が間に合う見込みのある者すら、いなかった。



 それもその筈、殆どの村民は欠片も残さず喰い尽くされており、ちらほらと転がっていた黒焦げの遺体も騎士団との攻防の最中、補給食か何かかとばかりにトレヴォンが犬の形をした魔法で貪り喰っていたから。


 そんなハキムの報告を聞き終えたクラリアは、そっとリゼットから手を離しつつ立ち上がり──。



「──総員、黙祷」



 己が剣を胸元に立てた姿勢を取って部下たちに黙祷を告げると同時に自らも瞑目し、つい先程まで黒煙と塵旋風と轟々と燃える炎が支配していたこの場所は。

 


 一瞬にして、怖いぐらいの静寂に包まれた。



 無論、双子も同じように瞑目して死者を悼む。



 その姿は、かつて最愛の人と仲間を失った時の聖女レイティアや、かつて魔王を討ち倒すほどの力を持っていながらも救えなかった人々を見て自らの不甲斐なさを憂う勇者ディーリヒトに──よく、似ていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 次第に黒煙が晴れ赤らんだ空が顔を出し始めた頃。



 リゼットの遺体を布に包み、それを腐らせないようにスタークの──というよりパイクの【氷納ストレージ】で保存してもらったクラリアは、ここに辿り着くまで爆音波や水蒸気で負傷していた騎士たちに迎えを寄こし、この場所にリゼットを除く全員を集合させてから。



「──総員、傾聴。 これから発ったところで到着は深夜。 よって本日はこの場で野営を行う。 異論は?」



 先程は胸元に立てていた長剣を地面に突き立て、スタークたちも含めた全員の視線を集めつつ野営の指示を出し、それ以外に案があればと問うも異論はなく。


「よし、では取り掛かるぞ。 可及的速やかにな」


「「「はっ」」」


 それを見届けたクラリアが剣を地面から抜いて鞘に戻して声を飛ばすと同時に、ハキムを始めとした騎士たちは右の拳を心臓の位置に当てて呼応してみせた。



 心なしか覇気がないように見受けられたのは──。



 ──決して見間違えではないだろう。



 それから騎士たちが人数相応の大きな天幕を張ったり、トレヴォンの咆哮で喪失していた魔物や動物を間引きすぎない程度に回収して解体したりしている中。


「──姉さん。 私、調理の手伝いをしてきますね?」


「……あぁ」


 何もしないというのは流石に申し訳ないと思ったのか、フェアトがシルドの【土創クリエイト】で創った椅子から立ち上がりつつ騎士たちを手伝ってくると告げるも、スタークは彼女としては珍しく力無い返事をするだけ。


 そんな姉が抱えている想いを直感で察していたフェアトは、そのまま簡易的な調理場へ走っていった。



 その後、段々と準備が終了へと向かっていた時。



「──スターク。 少し、いいだろうか」


「……ん」



 騎士たちの視線が少しだが注目する中で、ゆっくりとした足取りとともに歩いてきたクラリアが椅子に座るスタークの前に立ち、『話がある』と暗に告げた事で、スタークは妹が座っていた椅子に目を向けた。


 それを了承と取ったクラリアは椅子に腰を下ろし。


「……先程は、ありがとう。 そして、すまなかった」


「……何の礼と謝罪だ?」


 しばしの沈黙の後、口を開いて二つの意味での謝意を示した騎士団長の声にスタークは問い返したが。



 ……何となく、その意味を分かってはいた。



「リゼットを魔の手から解放してくれた事への礼、そして君に人を殺めさせてしまった事への謝罪だ」


 クラリアは予想通りに『礼』がリゼットを元魔族の支配から救ってくれた事に対してであり、『謝罪』が勇者と聖女の娘に殺人をさせてしまった事に対してであると口にしつつ、深く深く頭を下げてみせた。


「……いらねぇよ。 少なくとも謝罪の方はな」


「しかし──」


 だが、スタークとしては彼女の謝罪など受けるつもりはなく、また受けていいような人間でない事も自覚していた為に頭を上げさせるも、クラリアは納得がいっていないようで再び言葉を紡ごうとしたのだが。



「あたしは──もう百人単位で人を殺してる」


「なっ!?」



 スタークの口から飛び出てきた、とんでもない発言にクラリアは思わず立ち上がってしまうほどに驚く。


 イザイアスでさえ、ヒュティカで殺めた人間や獣人や霊人スピリタルの数が五十にも満たない事を考えると、スタークの言葉を信じられないと思うのも無理はない。


 しかし、そんな風に思考を巡らせながら目を回すクラリアをよそに、スタークは彼女が自分たちの素性を知っているのをいい事に惨憺たる事実を語り出す。


 母である聖女レイティアが体術の練習台として連れてきた者たちを殺した事、後で聞いたら全員が凶悪な犯罪者だった事、気づけば百人以上も殺していた事。


「その全部が犯罪者じゃあるが、それでも殺人だって事に変わりはねぇ。 礼はともかく謝罪はいらねぇよ」


「……そ、そう、か……分かった」


 それらを少ない語彙力で簡潔に語り終えたスタークに、クラリアは言葉に詰まりながらも頷いてみせる。


 隣に座る勇者によく似た少女を、イザイアスと同じく咎人だと見做せばいいのかどうか分からなかった。


「……これから君たちは、ジカルミアで何を?」


「……元魔族探しってとこだな」


 しばらく沈黙が二人の周囲を支配した後、話題を変える為に王都で何をするのかと問いかけると、スタークはガリガリと髪を掻きながら低い声音で返答する。


「やはりトレヴォンだけではないのか──そうだ、スターク。 この事を【陛下】に伝えてもいいだろうか」


 それを受けたクラリアは、どうやら多少なり予想できていたらしく納得したように頷きつつ、この場で起きた尋常でない出来事を魔導国家の現国王に報告してもいいかどうかを確認せんと少女の顔を覗き込んだ。


「……陛下ってーと……あぁ、王様か。 そういう判断はフェアトに任せてっから、あいつに聞いてくれよ」


「そ、そうか。 分かっ──」


 陛下──という単語そのものに聞き覚えがないスタークだったが、それでも何とか国王の事だと思い出すも『面倒ごとは妹に』と決めていたようで、クラリアはそれを察して再び言葉に詰まりつつ頷こうと。



 ──した、その時。



「姉さん! クラリアさんも、ご飯ができましたよ!」



 思った以上に騎士たちと仲良くなり、あろう事か殆ど中心で調理を進めていたらしいフェアトが姉と団長を呼び、それが聞こえた二人は顔を見合わせて──。


「行こうか、スターク」


「……あぁ、そうだな」


 未だに力無く笑うクラリアの声を聞き、ようやく重い腰を上げたスタークも食事の場へ向かっていった。



 大きな焚き火の中心に置かれた大きな鍋で肉や野草を煮込んだだけの簡単な料理だったが、それでも料理が中々に得意なフェアトの手が加わった事で割と美味しくなっており、それをクラリアや騎士たちが涙を流しながら食べているのを見たスタークは──。



(……『人の死』ってのは──こんなに重いのか)



 ヒュティカに住んでいたトリィテのような、『身近な人間の死』を味わった者たちの感情を目の当たりにした事で、どうせ蘇生できるんだから大丈夫──という粗略的な考えを少しは改めようと思うのだった。



 いつもは小生意気な態度だというのに、ここぞという時は涙を流して自分を憂う──可愛い妹の為にも。


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