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双子待ちの騎士団

 一方その頃。


 仮の詰所としていた衛兵の屯所を清掃し、それから衛兵や自警団たちとともに昼食を摂った後、王都へと帰還するべく集合していたヴァイシア騎士団は──。


「……遅いな……まさか、何かあったのでは……」


 騎士団の長であるクラリア=パーシスを筆頭に、その仮の詰所の前で何某かの来訪を待ち続けていた。


「……私どもで探しに参りましょうか?」


「そう、だな……いや、やめておけ。 入れ違いになってしまっては面倒だ。 もう少しだけここで待とう」


「はっ、了解しました」


 すでに本来の出立予定時刻を過ぎてしまっている事もあって、これは流石の騎士団といえど苛ついてしまっても仕方ないと思われるかもしれないが、ヴァイシア騎士団の面々に怒りや呆れの感情は見られない。


(……おい、まだ待つつもりなのか? 団長は)


(いくらあの方の紹介とはいえなぁ……)


(()()()も未解決だというのに……)


 いや、数人は顔を顰めている事からもゼロだとは言い切れないが──やはり、その何某かを紹介した人物を信頼しているというのが大きいのだろうと分かる。



 たとえ、その何某かが一時間ほど遅刻していても。



 それから十数分後、騎士たちの人数と同じ数いる馬の中でも特に高貴な出で立ちの白馬に寄り添うクラリアに、その青い長髪を後ろに束ねた女騎士が近寄ったかと思えば、そのまま耳打ちするように顔を寄せて。


「──団長、お言葉ですが……本来の予定時刻を大幅に超過しております。 あの方からの紹介という事もありますし、お気持ちは分かるのですけれど……」


 首から下げた魔導式の懐中時計を開いて当初の出立予定時刻を過ぎている事を示し、ハッキリとは言わないが騎士たちにも不平不満が出始めていると告げる。


 あの方とは無論──六花の魔女、フルールの事。


 フルールは何もクラリアとのみ交流しているわけではないようで、もれなく魔法の使い手でもあるヴァイシア騎士団の面々にも慕われているらしかった。


「“リゼット”……そうだな、これ以上は難しいか」


 実のところ、その女性はヴァイシア騎士団の副団長でクラリアの腹心たる女騎士“リゼット=アクトン”であり、そんな彼女に絶対の信頼を寄せていたクラリアは『君が言うのなら』と諦めからくる溜息をこぼし。


「諸君、私の独断で待たせてすまなかった。 念の為にフルール殿に一報入れてから王都へ帰還を──」


 まずは不満を抱える部下たちに向けて謝意を示してから、その手に【光伝コール】の魔方陣を構築しつつフルールへの連絡が済み次第、出立すると伝えようと──。



 ──した、その時。



「──……ぁああああああああ……!!」


「!? 総員、警戒態勢を──なっ!?」



 突如、少女の悲鳴らしき大声が響いた事により騎士たちは団長の指揮の下に周囲を警戒し、その声が空から聞こえるのを察したクラリアが上を向くと同時に。



「──っし! 到着!」


「「「……!?」」」



 あの高度から落ちてきたとは思えないほどの軽やかさを持って、その背に同じくらいの少女を背負い、わざわざ着地する寸前にクルンと縦回転した少女が騎士たちの目の前に着地し、それを見た騎士たちの誰しもが突然の事態に驚いて言葉を失ってしまっていた。


 尤も、クラリアだけはフルールから待ち人たる双子の特徴を聞いていた為、少女たちを見た瞬間に『間違いない』と言わんばかりの確信を得ていたのだが。


「い……っ、一回転する必要がありましたか!?」


「ただ単に着地するだけじゃつまんねぇだろうがよ」


「そんなファンサービス誰も求めてないんですよ!」


 そんな中、背負われていたフェアトは姉が完全に無駄な動きを見せた事を咎めるも、どうやらスタークは先程の着地に面白さを求めていたようで、それを聞いた妹は『誰に向けてるんですか!? 騎士団の方にですか!?』と声を荒げて姉の行動の阿呆さを指摘する。


「……取り込み中すまない。 少しいいだろうか?」


「ん? あー……あっ! あんた騎士団長か!」


 その時、傍から見ても無益な口論を繰り広げる双子を止めなければと考えたクラリアが声をかけると、スタークは割り込んできた彼女を見て少しだけ唸ってから──ようやく騎士団長だと思い出したようだった。


「あ、あんた……!? 団長に向かって無礼な──」


「いや、いいんだリゼット。 下がっていろ」


「う……りょ、了解しました……」


 それを聞いたリゼットはスタークの無礼な物言いにカチンときたらしく、その腰に差した長剣の柄に手をかけようとしたところをクラリアに止められる。


「ややこしくなるから姉さんは黙っててください!」


「……わーったよ」


 一方、姉が喋るとトラブルを招くだろう事は予想できていたフェアトは姉を叱りつけ、それを受けたスタークは面白くなさそうに舌を打ち、そっぽを向いた。


「申し訳ありません、後で言って聞かせますので」


「え、あ、あぁ大丈夫だ。 気にしていないよ」


 そして、スタークとは対照的な恭しい態度で頭を下げてきたフェアトに面食らったクラリアは、ふるふると首を横に振りつつ彼女の謝罪を受け入れる。


「申し遅れました、私はフェアトです。 こちらは双子の姉のスターク。 六花の魔女、フルール先生から私たちについてのお話がいっている筈なんですが……」


 その後、頭を上げたフェアトは自分と姉の名前を告げてから、フルールに聞いていた『話は通してあるから』という旨を確認するべく控えめに声をかけた。


 先生──という言葉に騎士の何人かは引っかかりのようなものを覚えていたが、それはそれとして。


「あ、あぁ……私がヴァイシア騎士団、第十五代団長のクラリア=パーシスだ。 フルール殿から話は聞いているよ、王都への帰還に同行させてほしいと──」


 クラリアはフェアトに対して握手する為に手を差し伸べながら、その手をとったフェアトに微笑みかけつつフルールから話を聞いている事を明かし、その内容を改めて部下たちにも聞こえるように説明しようと。



 ──したのだろうが。



「──ちょっと待ってくれよ、クラリア」


「うん? どうした、“ハキム”」



 突如、団長の声を遮ってまで話に割り込んできたのは、クラリアが“ハキム”と呼んだ長身で強面こわもてで赤みがかった短髪が特徴的な、いかにも歴戦の騎士だった。



 彼の名は──“ハキム=ファーノン”。



 かつて、弱冠十三歳という史上最年少での騎士団の入団を成し遂げた神童であり、将来は必ず団長になると豪語していたのだが、そこへ現れた更なる才を持つ少女──クラリアにその座を奪われた哀しい男。


 それゆえ、ハキムは普段からやたらとクラリアや自分に知識で勝るリゼットに絡む傾向にあるようで。


「ハキム! いち隊長の分際で団長を呼び捨てなど!」


「黙ってろよ腰巾着」


「なっ、何だと!?」


「そこまでだ! ハキム、何が言いたい?」


「ちっ……いいか、クラリア。 それとお前らもだ」

 

 そんな二人の間に割って入ったリゼットが団長を敬わない彼を咎めるが、どうやら副団長のリゼットとは犬猿の仲であるようで微塵も悪びれる様子はなく、わざとらしく舌を打ちつつ団長とリゼット、そして騎士たちだけでなくスタークたちの注目も集める。


「俺らは()()を抱えてる状態で派遣された。 で、さっさと王都に戻んなきゃいけねぇ中で遅刻してくるような餓鬼どもの同行を許すつもりか? 俺は反対だ」


「あぁ……?」


 そんなハキムが言う事には、どうやら王都ジカルミアではヒュティカにてイザイアスが起こしていた凶事と同じかそれ以上の厄介事が発生しており、三十人という小規模で派遣されたのも残りの騎士たちを王都に残してそちらの案件を解決させる為だったらしい。


 それを聞いていたスタークは、ハキムが何気なく口にした『餓鬼』という発言にも、その傲慢を絵に描いたような物言いにもカチンときてしまっていた。


「……まぁ、一理あるな。 ハキムに同意の者は?」


 その一方で、ハキムの物言い自体は正論だと考えていたクラリアが、その他の騎士たちに双子の同行に反対意見があるかどうかを問いかけると、おずおずと手を挙げる騎士たちの姿が数人ほど見てとれる。



 先程、団長の行動に不満を抱えていた者たちだ。



「そうか……しかし、私としては尊敬するフルール殿の顔を立てる意味でも許可を出したい。 そこでだ」


 自分の独断で出立を遅らせてしまった手前、彼らを諌める事は難しいだろうと考えた彼女は、まず自分の確固たる意思を告げてから、スタークたちを同行させる事の価値を部下たちに見せつける為にと──。



「スターク、フェアト。 私と手合わせをしようか」


「手合わせだぁ……?」



 騎士団長たる自分と同等か、それ以上の力があると示す事ができれば或いはと思いついて提案するも、スタークは全く要領を得ておらず首をかしげていた。



 では、フェアトはどうかと問われれば──。



(……どこかで見たなぁ、この展開)



 『何かを認められない者』と『手合わせ』という二つの要因に、ほんの十日ほど前に辺境の地で行われた強制的な母との手合わせを思い返していたのだった。


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