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寝ぼける姉に流される妹

三章のようなものの始まりです!


引き続きよろしくお願いします!

 港町ヒュティカの外れにある丘の上の魔女の家。


 そこに住む六花の魔女フルールと、並び立つ者たち(シークエンス)の序列一位アストリットに別れを告げた双子は、パイクとシルドに乗って二人が最初に訪れた港に向かう。


 そして、その港から数分ほど歩いた場所にあるという“ヴァイシア騎士団”の仮の詰所を訪ね、フルールが書いてくれた手紙も合わせて王都“ジカルミア”へ帰還する彼らに同行させてほしいと頼み込む予定だった。



 ──その、予定だったのだが。



 まず、大前提として──双子の姉スタークは、ひとたび眠りにつくと中々目を覚まさず仮眠と称していても六、七時間たっぷり寝てしまう事もあるようで。


 フルールたちと別れる際に『少し寝る』と言っていた彼女だったが、どうやら今回も例外ではなく──。


「──……さん! 姉さん! 起きてください!」


 すでに竜覧船りゅうらんせんへ擬態した状態のシルドから降りていたフェアトは、パイクの操縦席に乗り込みつつ弱々しい力で姉を揺すって目を覚まさせようとする。


 加減した攻撃魔法をパイクたちに使ってもらえば起きるのかもしれないが、そうでなくても傷つきがちな姉にフェアトとしてもそんな事はしたくないらしい。


『りゅー! りゅー!』


『りゅう〜……』


 人目が少ない場所に泊まったとはいえ擬態は解けないシルドも、スタークのせいで擬態を解くに解けないパイクも鳴いたり揺すったりして起床を促している。



 ──『ねーねー、早く起きてよー!』


 ──『このままだと動けないんだけど……』



 そんなニュアンスを込めて。



「ん、んん……?」


 すると、その甲斐あってかスタークがもぞもぞと身体を捩らせながら、ゆっくりと目蓋を持ち上げる。


「んだよ、もう朝か……? もうちょい寝かせて──」


 しかし、わざわざ確認せずとも分かるほどに寝ぼけてしまっており、つい数時間前まで魔女の家で睡眠を取っていた事も朝食をご馳走になった事も忘れて、あの辺境の地で目覚めたかのような反応を見せていた。


 そんな寝ぼけまなこの姉を見たフェアトは、いつもなら『仕方ないですね』と二度寝を許容するところだが今日に限ってはそうもいかない事情がある為に。


「朝どころか……! もうお昼ですよ! ただでさえ姉さんが遅起きなせいで間に合うか分からないのに!」


「はぁ……? 間に合うって何だよ、昼飯にか……?」


 てっぺんにまで昇りかけている太陽をビシッと指差したうえで、そもそもは余裕を持って出立する筈だったのにスタークが寝坊したせいで遅くなった事を責めるも、スタークはそれすら頭から抜けているらしい。


「っ、いつまで寝ぼけてるんですか!? 早くしないと騎士団の方たちが町を出てしまうって──」


 騎士団がこの町を出立するのは昼食後。


 フルールからそう聞いていたフェアトは、いよいよとばかりに先程よりも声を荒げて『今朝もあれだけ言いましたよね!?』と怒鳴りつけるつもりだった。



 しかし、そんな風に語調を強める妹に対して、スタークがゆっくりと腕を伸ばしたかと思えば──。



「あー……分かった分かった……ほら、来いよ」


「ひあっ!? ちょっ、ね、姉さん!?」



 その伸ばした腕を妹の首元に回しただけでは飽き足らず、その決して小さくない胸の辺りにちょうど妹の顔がボフッと埋もれるように抱き寄せた事で、フェアトは突然の事態に思考が真っ白になってしまう。



 桃色だったかもしれないが──それはそれとして。



「何を苛ついてんのか知らねぇが、お前も眠いんじゃねぇの? あたしが一緒に寝てやるから、な?」


「べ、別に苛ついては……っ、あぁ、もぅ……」


 もう夢の世界に片足を突っ込みかけていたスタークは、フェアトが自分のせいで苛ついているとは想像だにせず金色の髪をくしゃくしゃと撫でつつ微笑む。


(本当に急がなきゃいけないのに……せっかく先生に騎士団への手紙まで書いてもらっているのに……)


 一方のフェアトは、こんな時ばかり姉らしい表情を見せるスタークに心を揺さぶられてしまい、本来は心を鬼にしてでも姉を叩き起こさなければならなかったというのに、その姉からの誘惑に負けかけていた。


「いつまで経っても甘えん坊だな、お前は……」


「ふあっ……」


 そして、もう殆ど眠気に負けていたスタークの囁くような声が鼓膜を揺らし、フェアトが埋もれていた胸の辺りから香る落ち着く匂いが鼻腔をくすぐった事により少しずつだがフェアトの目蓋も重くなっていく。


(……駄目だ……この、甘くて優しい匂い……姉さんと一緒に寝てた時の事、思い、出し、て……)


 それからは、もはや大して抗う事もできずに段々と深い微睡みに落ちていき、かつて幼い頃に姉と同じベッドで寝ていた過去を脳裏に浮かべながら──。



 ぎゅっと抱きつき──眠ってしまった。



『りゅ、りゅ〜……?』


『……りゅー』


 そんな中、一連の流れを黙って見ていたはいいものの、パイクとシルドも双子に火急の用があった事は理解していた為、シルドが心配そうな表情で姉に声をかけるも、パイクは首を横に振り──溜息をこぼす。



 ──『急がなくていいのかなぁ……?』


 ──『……まぁ、いいんじゃないの』



 ……そんなニュアンスを込めて。


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