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地母神の福音

ここから二話は過去の話になります。


 ──そもそも、【聖女】とは。



 戦争、災害……そして十五年前に起きた魔王の出現といった、この世界の生命が滅亡の危機に瀕しうるような事態に陥った際、下界への手出しができない天上の神々が適性を持った()()()()者に神託を授ける事で誕生する、極めて神聖な力を得た女性の事を指す。


 十八年前、弱冠十六歳にして聖女に選ばれたレイティアは、ほぼ同時期に【勇者】として神々に選ばれていた十八歳の青年、“ディーリヒト”や志を同じくした仲間たちとともに魔王を討つ為の旅に出た。


 気の休まる暇もない魔族との戦いの日々の中、神々に選定されたという共通点があってか知らずか、レイティアとディーリヒトは互いに惹かれ合っていく。


 とはいえ【聖女】は清らかな身体でなければその力を行使する事ができず、だからこそ魔王を討ち滅ぼして平和になったその時は、と誓いを交わしていた。



 だが、そんな二人の誓いは──叶わない。



「【光蘇リザレクション】! 【光蘇リザレクション】!! 【光蘇リザレクション】!!!」



 ディーリヒトと魔王が相討ちとなり、ほぼ同じタイミングで力尽きたのを見たレイティアは自分の身体を癒す事も後回しにして、仰向けに倒れる勇者に対し死した者の魂を呼び戻す魔法、【光蘇リザレクション】を行使する。


 この世界において魔法を行使する際には、その魔法に八つの属性いずれかを纏わせる必要があり、今回の場合であれば【リザレクション】という魔法に対してレイティアが唯一得意とする光の属性を纏わせていた。



 八つの属性には、それぞれに適した魔法がある。



 火と雷は攻撃に。



 土と氷は守備に。



 風と闇は支援に。



 そして──水と光は回復に。



 ……尤も、『適している』というだけであって、雷の魔法が回復に使えなかったり、光の魔法が攻撃に使えなかったりするわけではない。


 例えば同じ【リザレクション】であっても、雷の属性を纏わせた【雷蘇リザレクション】は瀕死の生物の心臓を死なない程度の微弱な雷で刺激して蘇生させる魔法となる。


 レイティアは生まれつき光の属性だけに強い適性を持っており、それもまた聖女に選定された理由の一つではあったものの、どういうわけか魔法を確かに受けている筈の勇者や仲間たちが目を覚ます気配はない。



 その理由を、レイティアは分かっていた。



「っ、ひ、ぅ……っ! 【光蘇リザレクション】っ! 【リザレ──」



 それでも、レイティアは止めどなく溢れ出る涙を拭い、かたくなに勇者や仲間たちを蘇らせようとする。



 ……()()()()だと、分かっていても。



『──レイティア……もう、おやめなさい』



「っ!?」



 その時、必死に効かない魔法を行使し続けていた彼女にかけられた優しくも力のある声に、レイティアは思わず手を止めて大きな穴の空いた天井を見上げる。


 彼女の耳に……いや、彼女の脳内に直接届いたその声は、レイティアが崇拝してやまない女神の──。


「この、声は……【地母神】“ウムアルマ”様……?」


『えぇそうですよ、私の可愛いレイティア』


 レイティアの力無い声音で地母神ウムアルマと呼ばれた姿の見えない女神は、そんな彼女と対照的に喜色が微かに漏れ出ているその声で返事をしてみせた。


『魔王討伐、本当にお見事でした。 私も含めた神々は皆、貴女たちの功績を褒め称えていますよ』


 その後、ウムアルマは心から嬉しそうにレイティアと勇者と仲間たち……総勢五名の活躍を、その他の全ての神々とともに称賛していると伝えてきたのだが。


「……ならば、どうか……っ!」


 今のレイティアには、その福音に感謝する余裕などあろう筈もなく……何を差し置いても今は四人の英雄の命が失われんとしている事実を覆してほしかった。


 しかし、そんなレイティアの必死の懇願も、『残念ですが』というウムアルマの声に遮られてしまう。


『……聖女レイティア。 貴女と勇者……そして仲間たちにはあらかじめ伝えてあった筈です。 魔王に殺められた者の魂が、どういう末路を辿るのかという事を』


 ウムアルマは先程までとは違う真剣味を帯びた声音で、レイティアやディーリヒトを選定した時に、そして仲間が揃った時にも伝えた残酷な事実を仄めかす。


 仮に普通の魔族──いや、魔族を普通と称するのもおかしいのだが──に命を奪われたとしても、ある程度の魔力を有しているのなら蘇生は可能であり、ましてレティシアの魔法なら死後から数日が経過していたとしても問題なく蘇生してしまえるほどだった。



 ……だが、魔王によって命を奪われた場合のみ。



 その者の魂は……この世から塵一つ残さず消滅してしまい、たとえ世界で最も強く神聖な光の魔力を有する聖女であろうと、その力を聖女に与えたもうた神々であろうと蘇生させる事はできないと聞いていた。


 それはまさしく、かの魔王が天上の神々をも上回るほどの力を有していたという何よりの証拠だった。


「それは分かっています! ですが……っ、これから私は頼れる仲間も、愛する人もいない世界で……!」


 無論、レイティアがその事実を失念している筈もなかったが、それでも彼女は天上の神々へ向けて『どうか、どうか……!』と両手を組んで祈り続ける。


 ……無理もないだろう。


 何故なら彼女の家族は皆、神々による聖女の選定を悟った事で『先んじて聖女に絶望を』と考えた魔王によって命を奪われてしまっていたから。


 ……彼女には、もう何も残されていなかった。


『──聖女レイティア。 実は貴女に伝えなければならない事があるのです。 よく聞いておくのですよ』


「……」


 結局、レイティアの祈りは神々に聞き届けられる事はなく、ウムアルマが何やら彼女に伝える事があると口にしても、まともに顔を上げる事すらできないばかりか、満足に返事をする事さえできていない。




 そんな風に哀しみに暮れるレイティアを気遣うように、ウムアルマの口から発せられたのは──。




『レイティア、貴女の身体には今──』




『──二つの命が宿っています』




「……ぇ……?」




 地母神たるウムアルマがそのような嘘を吐く筈もないと分かっていてもなお呆然としてしまうほどに、レイティアにとっても荒唐無稽な話だった。

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