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双子の母親

 その後、とりあえず家に入れてから説教するのかと思いきや、二人は玄関に正座させられている。


「いやな? お袋、あたしらは……ほら、まだ遊び盛りな年齢だろ? だから少しくらい暴れちまうのも──」


 単純な力であれば劣りようもない筈の姉だが、それでもやはり若干の後ろめたさがあるのか、ボサボサになっていた短髪を掻きながら言い訳をしようとした。


「少しくらい、ですって……?」


 しかし、未だに仁王立ちの姿勢を崩さないまま二人の娘を見下ろしている母は、わなわなと身体を震わせながら段々と笑みを怒りの表情へと変えていく。


 そして、そんな母の周囲には……いくつかの球状で小さな光の粒子がふよふよと浮かんでおり──。


「あれのどこが少しだと言うの!? 貴女たちの動向は光の【精霊】を通して見ていたわ! そしたら崖から飛び降りるわ、そのまま妹に踵落としするわで……!」


『『『──♪』』』


「笑い事じゃないわよ!」


『『『──!?』』』


 母は特に姉の方を睥睨しつつ、あくまで二人の娘たちを心配する気持ちからくる小言をぶつけ出す。


 しかし、母の周りを飛ぶ光の粒子は何がおかしいのかクスクスと笑い声を上げており、それにカチンときた母が精霊に対して怒鳴った事で、ふわふわと浮かんでいた精霊たちは驚いて飛んでいってしまった。


 精霊とは……この世界のどこにでもいる超自然的存在であり、精霊が持つ力の大きさに差異はあれど、それぞれが八つの【属性】を司るという部分は共通。


 ちなみに、この世界に存在する属性の種類は──。


 火、水、風、土、氷、雷、光、闇の八つである。


 そして、精霊は対応する属性の適性を持たなければ存在を認識する事ができず、その力を借りて戦闘や生活に関する魔法に活用するといった事もできない。


 つまり、優れた光魔法の使い手である母は光の精霊たちと視覚を共有して娘の……というより姉の暴虐をリアルタイムで覗いていた、という事なのだろう。


 尤も、娘たちには『球状の小さな光の粒子』など。


 ……()()()()()()()のだが。


「お、お母さん? 確かにやりすぎだとは思いましたけど……ほら、見ての通り私は無傷で──」


 一方、自分の目には映らない精霊と母との諍いを見ていた妹は、あたふたとしつつも何とか母を宥めるべく腕を広げて健常である事を証明しようとした。


「そういう問題じゃないの! この際だからハッキリ言うけど! ()()()姉妹はあんな危険な事しないのよ!」


 だが、彼女も一人の親である以上、譲れないものがあるようで、他の人との関わりが限りなくゼロに近いからというのもあろうが、だとしても常識に欠ける部分が多すぎる娘たちを何とか諭そうとしたのだろう。


「「……普通の?」」


「えぇ、そうよ」


 とはいえ、どうやら娘たちも母の発言に思うところがあるらしく、いかにも双子といった同じタイミングで発せられた姉妹の呟きに対し、『いい?よく聞くのよ』と母は前置きしてから説教を再開する。


「知識を蓄えるのと同じくらい身体を動かすのが大事なのも分かるけれど、もう貴女たちも十五歳なんだから少しくらい節度を持って行動を──」


 長々と喋ってはいたが、要は『もうとっくに成人おとななんだから』という事を伝えたかったらしい。


 この世界では十五歳から立派な成人として扱われており、あらゆる職業に就く為の最低年齢も十五歳と定められているからこそ、母は『しっかりしてちょうだい』と言い聞かせようとしたのだろうが──。


「普通普通って言うけどよぉ……一体あたしらのどこが普通なんだ? なぁ、“フェアト”」


 どうやら、短髪の少女は『普通の姉妹』という言葉に強い引っかかりを覚えており、母の説教を遮ってまでフェアトというらしい妹の名を呼んで話を振る。


「えぇそうですね、“スターク”姉さん。 私たちは揃って普通じゃないです。 だって──」


 一つ結びの少女……もとい、フェアトはスタークというらしい姉の名を口にしつつ首を縦に振り、話を遮られてたたらを踏んでいた母に視線を向けたまま、二人は同時にゆっくりと立ち上がって──。




「今は亡き父親は世界を救った【勇者】で──」




「その勇者の伴侶であり、ひいては私たちの母親でもある貴女、“レイティア”は──」




「──元、【聖女】なんですし」




 至って真剣な表情と声音を持って、この三人にとっては周知の事実を改めて口にしてみせた。




「……っ」




 そんな娘の発言を受けた母は。




 ……いや。




 最期の最期まで悪である事を貫いた魔王を討ち滅ぼし、紛れもなく世界を救った英雄の一人である元聖女のレイティアは思わず言葉に詰まってしまう。




 ──『普通ではない』、という事実を。




 否定する事が、できなかったから。

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