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丘の上の家に

 パイクとシルドは、どうやら身体の大きさは特に関係なく一定量の食事で満足するようで、持ち帰り(テイクアウト)用の軽食とはいっても中々の量があった海の幸も、その小さな身体に全て魔力として吸収されたらしかった。


 しばらく港で気持ちの良い潮風にあたりながらパイクたちに食後の休憩をさせた後、再び二体を一人乗りの竜覧船りゅうらんせんへ姿を変化させて乗り込み、フェアトの目的である六花の魔女が住むという丘の上の家を目指す。


 やはり一人乗りの竜覧船りゅうらんせんは珍しいのか、その港から飛び立つ際に目立ってはいたものの、イザイアスの件で人が掃けていた事もあって問題なく出立できた。


 町を歩く人々はおろか、その人々を数十人ほど乗せられる大きめの船さえも小さく見える高度まで飛び上がったパイクたちは、トリィテから教わった方角へと滑空しながら飛びつつ竜覧船りゅうらんせんへの擬態を解除する。



 普通の姿の方が飛びやすいから──かもしれない。



 その後、段々と高度を下げた事により一行の目的地である海がよく見える丘の姿が見えてきた事で──。


「──お、あれか……?」


 相も変わらず仰向けに寝転がっていたスタークだったが、パイクが高度を下げた事に気づいて下を覗き込み、常人より優れた視力で丘の上の家を視界に映す。


「えぇ、おそらく──ただ、あれは……」


 一方、視力は至って平均的であるフェアトにも同じ光景が見えてきたものの、どうやら彼女はその光景に引っかかりを覚えているらしく、その正体には気づいていながらも理由までは分からない為に口を噤んだ。


「……なぁ。 あたしの気のせいじゃなけりゃあ──」


 そして、フェアトが抱いていた違和感はスタークも少し遅れた感じていたようで、『んん?』と首をかしげながらもその違和感を確かなものへと変える為に妹に意見を求めんとし、目を離さぬまま二の句を待つ。


「……気のせいじゃないと思いますよ。 あの家……というか、あの家の周囲の風景も含めて──」


 すると、フェアトはゆっくりと首を横に振り、されど姉の発言を肯定する旨の言葉を口にしつつ、自分たちが抱いていた違和感の正体を明かすべく一拍置く。



「私たちが住んでた場所に──似すぎてますから」



 ──そう。


 空を行く二人と二体の視界に映るその丘は、つい先日まで双子が母親とともに家族三人で暮らしていた辺境の地の美しい花畑に──瓜二つだったからだ。


 加えて、その花畑の中心に建つ家の外観でさえ酷似しており、もはや合わせ鏡と言っても過言ではない。


「偶然……って事はねぇよな。 いくら何でも」


「単なる偶然でここまで似ないと思いますが……」


 スタークとしても本当に偶然そうとは思っていないのだろうが、あくまで可能性の一つとして口にしたという事はフェアトも理解していたからか、至って真剣な声音で返答しつつ、『どうします?』と意見を求める。


 一瞬、スタークは珍しく何かを思案するような素振りを──見せようとしたものの、やはり頭を使う類の面倒ごとは御免だったらしく溜息をこぼしてから。


「……まぁいい、降りてみりゃ分かるだろ。 パイク」


『りゅー!』


 いかにも短絡的な結論とともにパイクに降下の指示を出し、それを受けたパイクは再び空を滑るように高度をぐんぐん下げて丘の上の家へと向かっていく。


「全く……シルド、貴女も」


『りゅっ!』


 そんな姉に呆れてか、同じように溜息をこぼしながらもフェアトはシルドに指示を出し、シルドは短く一鳴きしてから姉に追従するように滑空していった。


 港町からは離れた位置にあるこの丘も、ちゃんとヒュティカに属しているのだとトリィテは教えてくれたが、それにしても随分と離れているように感じる。


 おまけに、この丘と港町の間にある森には魔物が出没する事も多く、こちらから仕掛けなければ──或いは縄張りに侵入さえしなければ大丈夫とはいえ、それでも自衛の手段を持たない人間では危険だろう。


 これでは、いざという時にヒュティカの人々が六花の魔女を頼るなど難しいのではないかと思うかもしれないが、どうやら六花の魔女が常時【サーチ】と呼ばれる魔法を行使しているゆえに問題はないのだそう。


 【サーチ】──それは、術者に応じた八種の属性や内在する魔力、或いはその技量によって効果も範囲も大きく変化するという探知用の支援魔法の一つである。


 例えば──火属性なら生物の熱源を探知し、風属性なら自然に吹く風を利用して生物非生物を問わず察知する事ができる優れた支援魔法であると言える。


 六花の魔女が行使する六種の【サーチ】の範囲は──ヒュティカ全域であり、もう少し本気を出せば東ルペラシオで起きた事象を全て把握する事も可能だとか。


 つまり──今、こうして花畑に着陸したスタークやフェアトたちの事も当然ながら把握されている筈。


「っと、到着──さて、どうする? ノックするか」


 それを知ってか知らずか、パイクから飛び降りたスタークは全く持って遠慮なしに家に近づきつつ、すでにノックする為の手を準備しながら問いかける。


「……えぇ、お願いし──いや、待ってください。 やっぱり私がやります。 やらせてください」


「……好きにしろよ」


 一瞬、『自分の事を忘れていたらどうしよう』と悲観的な考えの極致に達しかけたフェアトだったが、それでも『先生に逢いたい』という気持ちの方がやはり強かったらしく、それを察した姉は扉の前を譲った。


「……ふーっ」


 見るからに緊張した面持ちで扉の前に立ったフェアトは、ノックしようとしていた手が僅かに震えている事に気づき、もう片方の手で抑えながらも息を吐く。


 それもその筈──六花の魔女に向けている感情は姉に向けているそれとはベクトルが違えど、その大きさだけで言うのなら大差はなく、ともに過ごした時間を考えるなら、こちらの方が重大なのかもしれない。



 ……この緊張もやむなしと言えるだろう。



 そして、いよいよとばかりに顔を上げて──。



 ──こんこんこん。



 控えめに──本当に控えめにノックする。



「はぁい、ちょっと待っててくださいねぇ」


「……っ」



 すると大して間を置く事もなく、どこか気の抜ける間延びした女声とともに扉が開き、そこから姿を現したのは──どこからどう見ても魔女だと分かる三角帽子と黒いローブが特徴的な妙齢の女性だった。



 腰まで届くだろうかという長く美しい銀髪に、この世の全てを見透かしているかのような菫色の瞳を細めて笑みを浮かべた女性は、一も二もなく目の前の少女の頭に手を伸ばし、優しい手つきで撫でながら──。



「おや、やっぱり貴女でしたか。 私の可愛い教え子」



 どうやら誰が訪ねてきたのか【サーチ】で分かっていたのだろう、『自分の事を忘れていたら』というフェアトの不安を一瞬で吹き飛ばす旨の言葉を発した事で。



「……っ! “先生”……!」



 半年ぶりに出逢えた嬉しさからか、もしくは覚えていてくれていた嬉しさからか──或いはその両方か。



 フェアトは六花の魔女に、ぎゅっと抱きついた。


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