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要求? 命令?

 あの二人の内、片方が並び立つ者たち(シークエンス)──。


『りゅっ!? りゅあ、りゅい!』


(……大丈夫、分かってますから)


 その発言を指輪の状態で聞いていたシルドは、『どちらが並び立つ者たち(シークエンス)なのかが伝わってなかったのか』と勘違いして振動したが、もちろんフェアトは重々承知の上である。


 必然、この試合の勝者になるだろう闘技者についても。


『バルト選手は言わずもがな、【万獣使い】ケイトリン選手も単独での登場となりました! これをどう見られますか?』


『試しの門を突破したのは従えた魔物の力ありきだと思っていましたが……独力で勝てると踏んだのかもしれませんね』


『しかし相手は歴戦の機械兵、果たしてどうなるか──』


 入場を終えた両者が睨み合い、このマッチアップの注目すべき点実況と解説が観客にも分かりやすく伝える一方で。


「バルト、って言ってたわよね。 貴方が〝先天型〟か〝後天型〟かなんて分からないし興味もないけど、わざわざ人前に出てくるぐらいだから話くらいできるんじゃないかしら?」


『……』


「……愛想がないわね、まぁいいわ」


 最初から全身機械なのか、それとも改造された生物なのかは分からないものの、どちらにせよ意識は消されている筈の機械兵を相手に、ケイトリンが一歩前に出て声をかける。


 流石に機械国家代表というわけではなかろうが、それでも魔闘技祭という一大イベントに出場してきた以上、最低限の言語能力やコミュニケーション能力くらいは残っている個体なのではと踏んだ彼女の声にバルトが返答する様子はない。


 しかし、ケイトリンは関係ないとばかりに指を差し。


「開始早々悪いんだけど、どうせ私が勝つんだから降参してくれない? こんなところで無駄に消耗したくないのよね」


「「「ッ!?」」」


『こ、これは……ッ!? ケイトリン選手、試合開始から僅か数秒での〝降伏要求〟!! いや、あの眉目秀麗かつ傲岸不遜な表情を見るに〝降伏命令〟と言って差し支えないか!?』


 試合開始直後の発言とは思えぬ、〝降伏要求〟を告げる。


 ……否、確かに〝降伏命令〟の方が正しいかもしれない。


 その自信たっぷりの表情を見れば分かるが、まず間違いなく自分の要求や命令が通らないなどと欠片も思っておらず。


 俄かに跪くだろうと確信しての発言だったらしいものの。


『……』


「ちょっと、聞いてるの?」


 未だ、バルトからの返答はない。


 何やら『ザザザ』と雑音のようなものは聞こえるが、その小さな音が聞こえるくらいの沈黙に支配されている事に気づいた彼女が我慢の限界とばかりに返答を促そうとした瞬間。


『──()()()()()()()。 コレヨリ戦闘形態へ移行シマス』


「は?」


 彼から返ってきたのは、何とも味気ない拒絶の意思と。


 一切の躊躇がない、戦闘に適した形態への移行宣言。


 しかし、ここで疑問が湧いてくる。


 却下、とは一体どういう事か。


 誰かと会話している様子もなかった筈だが──と、ケイトリンが首をかしげて困惑を露わにしたのはほんの一瞬の事。


(……あぁ、そういう事。 〝上〟に判断を仰いでたのね)


 魔法とは違う〝通信〟を図っていたのだと悟る。


 ここで言う〝上〟とは機械国家における機械兵の温床とも言うべき〝研究所ラボ〟か〝工場ファクトリー〟に居る彼の上司、或いは製造者であり、その何某かに『対戦相手が降伏を促してきたが返答は如何に』と問うた結果、返ってきた『論外だ』という答えを『却下』という簡潔な一言で伝えてきたのだろう。


(相手わたしを見て判断したのか、そんな後ろ向きな選択肢が最初からないのかは分からないけど……あぁもう! ただでさえ()()()()()のせいで〝厄介な任務〟抱えてるっていうのに……!)


 背教者、厄介な任務──気になる点は多々あるが、とにもかくにも降伏を促せなかったという事に変わりなく、それどころではないのにと悔しげな表情で歯噛みしたのも束の間。


『戦闘形態ヘノ移行完了。 交戦ヲ開始シマス』


『あ、あれは……ッ! 堅牢な試しの門を力任せに引き裂いたという、バルト選手を【鋼鉄の伐採者】たらしめんとする巨大で凶悪な丸鋸! それが全身という全身から展開された!』


「……悪趣味だこと」


 ガチャガチャ、キュインと露骨な機械音を響かせながら戦闘形態への移行を終了させたバルトは今、超高速回転する丸鋸を機械腕アームの先端や関節部ジョイントから展開した、まさに全身兵器に相応しい姿と化しており、それを見ていたケイトリンがドン引きしている事も構わず一歩、また一歩と前進し始めたが。


「降参前提で〝あの子〟は連れて来なかったんだけど……まぁいいわ。 貴方みたいな()()()()相手、私一人で充分だし」


『対するケイトリン選手は美しく燃ゆる己の髪を媒体とした炎の鞭を構える! 全身兵器を迎え撃つには心許ないか!?』


「……失礼ね、ただの鞭だと思ったら大間違いよ」


 たとえ魔物を傍に置かずとも一体の機械兵程度ならば何の問題にもならない、そう言わんばかりに紅蓮の鞭を構えるケイトリンと、今なお前進を続けるバルトの間合いが重なり。


『試合はすでに開始していますが、どうやらここからが本番の様子! 無数の丸鋸vs紅蓮の鞭! 制するはどちらか!』


「「「うおぉおおおお──」」」


 実況や歓声が沸き上がると同時に、ケイトリンが勢い良く振るった鞭とバルトが伸ばした機械腕が交差し、そして。


「──な、あ"……ッ!?」


「「「ッ!?」」」


 先に傷を負ったのは──……ケイトリンの方だった。


 交差した瞬間、鞭だけでなく胸の辺りも引き裂かれ。


 心臓には届いていないが、それでも充分な痛手を負い。


 強い痛みを覚えながらも新たな鞭を生成した、その時。


『……誰が〝ガラクタ〟だって?』


「ッ!? 喋っ──」


 会話を試みるも成立しなかった為、意識が完全に消された個体だと断定していたバルトが、あろう事か喋り出し──。


『俺からすりゃあ、お前らの方が余程〝不良品ガラクタ〟だぜ』


「〜〜……ッ!?」


 挑発までしてきたのだから、ケイトリンも流石に驚き。


 そして、全身の炎を更に燃え滾らせる。


 揶揄われていたのだと、悟ったから──。

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