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〝重量〟は〝硬度〟

 それから数分、闘いは熾烈を極めており──。


「ドテッ腹に風穴開けてやらぁ!! 【迫撃拳モーターノック】ッ!!」


「その程度ではのぉ!! 【加重伍判ヘビィフィスト】ッ!!」


 目にも留まらぬ速度で再び眼前まで接近、脂肪ではなく筋肉で肥大化した丸い腹を貫くべく放った基本中の基本となる拳撃に、ハーマンは同じ拳撃で以て応え、やはり相殺する。


「だったらコイツだ! 【円月輪踵蹴チャクラムシュート】ッ!!」


 瞬間、接近時と同等の速度で後退したスタークは逆立ちの姿勢に移行、両脚を大きく開いてからの高速回転を披露したのも束の間、斬撃を帯びた蹴りが両断せんと飛来するも。


「足りん! 足りんぞぉ! 【加重捌判ヘビィレイズ】ッ!!」


「〜〜ッ、クソが!!」


 その巨躯に似合わぬ素早さで斬撃の下に潜り込んだハーマンは、自慢の角で斬撃を思い切りかち上げる事で無傷突破。


 だが、この程度で心折れるような【無敵の矛】ではない。


「まだ終わりじゃねぇぞ!! 【銃乱打拳マシンガンノック】ッ!!」


「来ませぃ!! 【加重零判ヘビィバルク】ッ!!」


「うおぉおおおおらぁああああああああッ!!」


「ぬうぅうううう……ッ!!」


 三度の接近の後、軽く跳び上がる事で斜め上の角度からの急襲を狙い、一発一発が【迫撃拳モーターノック】に匹敵する無呼吸乱打を見舞うも、ハーマンは何らかの手段で肉体を更に強化。


 通常、スタークの乱打を真正面から受ければ吹き飛ぶどころか水風船のように破裂しながら血肉を撒き散らす筈だが。


『息もつかせぬ打撃の応酬! 片時も目が離せぬ攻防! これぞ武闘国家、これぞ魔闘技祭! 会場の熱気も最高潮です!』


「「「うおぉおおおおおおおおッ!!」」」


 残念ながらハーマンの堅固な肉体は破裂しない事はもちろん傷を負う事さえなかったものの、それでも最後の一発で闘技場の端まで大きく後退させた事で観客は大きく沸いた。


 ……これまでの四試合より分かりやすいのもあろうが。


 そんな大盛況の中、ドシンと闘技場の床石を踏み鳴らしながら中央へと戻ってくるハーマンの表情は決して暗くなく。


「良い打撃よのぉ、ワシを後退らせる者などそう居らんぞ」


「……テメェも良い硬さしてんじゃねぇか」


「当然じゃ! 〝重量おもさ〟は〝硬度かたさ〟ゆえな!」


「何だそりゃ……」


 かたや満足げな笑い声が、かたや不満げな舌打ちが響く。


 格言めいた言葉にさえ苛立ってしまうほどには思う通りに闘えていないスタークだったが、ここで一呼吸置き──。


(本気で殴って砕けなかったのはいつ以来だ……?)


 ふと、これまでの十五年間を振り返る。


 並び立つ者たち(シークエンス)以前にも、あの辺境の地での修行中に様々な生物や物質を殴ったり蹴ったりしてきたスタークだが。


 文字通りの全力で攻撃したのに倒せなかったのは、レイティアやキルファ、アストリットなどの本当の強者たちだけ。


 称号による何らかの力が働いているとはいえ、たかが獣人風情に転生した元魔族が、あの強者たちと肩を並べるほどの存在だというのか──と疑わしく思う気持ちもあったが。


(……面白ぇ、二回戦つぎの事ぁ一旦忘れてやろうじゃねぇか)


 それはそれとして、スタークもまた一人の武人。


 強敵を前にすれば昂るし、それが過去に勝ち切れなかった者たちに匹敵するというなら尚の事、闘志も湧いてくる。


 もはや次の試合の為の余力を残す事など──と、ここで力を使い切る覚悟を決める一方、観客席に座すフェアトは。


(……やっぱり、おかしい)


 ふと、開始時から抱いていた疑問に想いを馳せていた。


 フェアトは、ハーマンが賜った称号を知っている。


 どんな力が宿っているのかも、詳細に知っている。


 そして今、ハーマンはその称号に宿る力を──。


 ──……()()()使()()()()()()


 全力を出していないのは姉も同じだが、それについては次の試合を見据えていたからという論が成り立つ事を思うと。


(何らかの制約があるのか、それとも──)


 かつて姉が討伐した序列十四位、【月下美人】同様その称号自体に制約でも課せられているのか、それとも──。


 ──……()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(……考えすぎかな)


 と、色々巡らせていた思考を一旦止めて観戦に戻る。


 考えたところで、あの獣人に聞いてみないと分からないのだから無意味な事はやめようと思い至った結果だった。


 ……その一部が、的を射ているとも知らずに──。

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