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【無敵の矛】vs【榴弾戦車】

 試合時間に差はあれど、おおよそ予定通りの行程で終わったAブロック一回戦の後、少しの休憩を挟んだ魔闘技祭。


『Aブロック一回戦を勝ち抜いた四人の強者が出揃い、会場の盛り上がりも最高潮に達しております! その興奮が冷めやらぬ内に、幕開けと参りましょう! Bブロック一回戦!!』


「「「うおぉおおおおおおおおっ!!」」」


「「「わあぁああああああああッ!!」」」


 その間も会場を包み込むボルテージが下降する事は全く以てなく、その盛り上がりに中てられてか実況にも熱が入る。


 更に、歴代でも特に激しい闘いが繰り広げられている為か今回の魔闘技祭では例年と比較にならぬほどの掛金が投げられており、他国からの借用金を返済する分を除いてもなお武闘国家の国庫は過剰なほど潤うだろうと予想されていて。


「いやぁ、笑いが止まんねぇなァ! 魔闘技祭様々だぜ!」


「……隠せ、少しは」


 武闘国家の皇帝が加速度的に上機嫌となっていたり、それを見ていた魔導国家の国王が呆れていたりもしていたが。


『さぁ、もう待ち切れなくなっている皆様の声にお応え致しましょう! Bブロック一回戦、第一試合! 両者、入場!』


 それはそれとして、もう充分に温まっているだろう出場者たちを競い合わせるべく実況者が呼び込んだ瞬間、すっかり修復された闘技場の両端にある入場用の門が口を開ける。


『その破壊力は今大会……否、歴代大会でも随一! 大声で試しの門を破壊し、矛で魔法を相殺! その体躯に見合わぬ圧倒的な暴力で勝利を掴めるか!? 【無敵の矛】、()()()!!』


 かたや、身の丈ほどもある半透明な矛を背負い、全身という全身から身も凍るような殺気を放つ栗色の髪の美少女。


『相手が〝歴代一の暴力〟を誇る軽戦士なら、こちらは〝歴代一の重量〟を誇る重戦士! 体格差が物を言う事も多いこの魔闘技祭、結果は如何に!? 【榴弾戦車】、ハーマン!!』


 かたや、一歩進むごとに『ドシンッ!!』と腹の底に響く鈍い音を鳴らし、まるで会場を揺らしているような気さえしてくるほどの巨躯を惜しげもなく晒す犀型の獣人。


 両者はそのまま所定の位置につく──と思われたが。


『えっ? ちょ、ちょっと、あの……ッ』


 示し合わせたわけでもないのに所定の位置で止まらず闘技場の中心まで歩みを進め、まさかゴングを鳴らす前に闘いを始めてしまうのではと危惧した審判が声をかけんとするも。


「ふむ……あまりに細っこいな。 ワシは貴様が出演したという演目を観とらんから知らんが、まことに強者つわものなのかの?」


 先に口を開いたのは、ハーマンと呼ばれた犀獣人。


 スタークの倍近くはあると見える巨躯から飛び出た、そこまで年配というわけでもなさそうなのに随分と年季が入った口調による、おそらく煽りなのだろう文言の羅列に対し。


「試し合わせりゃ分かんだろ、いちいち言わせんなデブ」


「何ィ……?」


 年長者への敬意や配慮など一切ないスタークの返答を受けたハーマンは一瞬、〝デブ〟と言うにはあまりに筋肉質な全身を軋ませ、あわや本当にゴング前に闘いが始まってしまうのではないかと審判のみならず会場全体が息を呑む中。


「……ふッ、がっはっは!! こりゃ一本取られた! 貴様の言う通りよクソガキ、どちらが正しいかなどというのは!」


「試合で決める、だろ?」


「おぉとも! さぁ、開戦の合図を鳴らせぃ!!」


 ハーマンは怒るでも殴るでもなく呵々と笑い、さも『気に入った』とか『相手にとって不足なし』とか、そういった感情を顕わにしながら上機嫌で所定の位置へ戻り、それを見たスタークが呆れつつも彼に倣って位置についた辺りで。


『……あ、は、はいッ! それでは! 今、ゴングで──』


 ハーマンの一瞬の怒気に気圧されていたものの、ようやっと我に返った審判によるゴングが打ち鳴らされようとした。


 ──その瞬間。


「【投石器スリング──」


「【加重ヘビィ──」


 両者は、いつの間にか先ほどと同じ闘技場の中心に居て。


 またも示し合わせたわけでもないのに、ほぼ同じタイミングで頭を振りかぶるかのように上体を反らしたのも束の間。


「──頭突き(ヘッド)】ッ!!」


「──百判バング】ッ!!」


「「「うおぉおおおおッ!?」」」


「「「きゃあぁあああッ!?」」」


 スタークは突き上げるように、ハーマンは振り下ろすようにして両者ともに放った頭突きの衝突は──ハーマンは頭というより角だったが──先の【雷砲カノン】と同程度かそれ以上の衝撃を会場全体へと轟かせ、観客たちに悲鳴を上げさせる。


 二秒ほど額と角が触れたままの状態で睨み合っていた両者は、その位置から一回の跳躍で元の位置まで戻ったうえで。


「……ほッ、やるのぉクソガキ」


「テメェもな、クソデブ」


 触れ合った己の部位を撫でつつ、互いの強さを認め合い。


「「「う……ッ、うおぉおおおおおおおおッ!!」」」


 恐怖に駆られていた観客のボルテージを、再び蘇らせた。

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