【盲信者】vs【軽業の武闘家】
『さぁ、ついにAブロック一回戦も最終試合! 激しさの割に未だ犠牲者は一人ですが、これより繰り広げられる第四試合で二人に増えないとも限らない! 注目の一戦、両者入場!』
これまでの二試合とは比較にならないほど破壊され尽くした闘技場の修繕が終わった頃、お手洗いや飲食物の購入、そして闘技者への賭け金の入金を済ませた観客たちが戻って来たタイミングで、Aブロック最終試合を飾る二人が現れる。
『圧倒的な回復力を誇る【光癒】をその痩身に似合わぬ暴力で壊れた己の肉体を癒す為にのみ使うという狂気を孕んだ修道女! 触らぬ信徒に祟りなし! 【盲信者】、ウルスラ!』
かたや、まるで戦場を駆け抜けて来たようなボロボロの修道服に身を包み、両目を布で覆ったまま微笑む修道女。
『もはや誰一人も彼には期待していない! だが資格を得てしまったからには出さないわけにもいかない! 今回こそ何かの勢みで一回戦突破なるか!? 【軽業の武闘家】、ユアン!』
かたや、実況からの酷評にブツブツ文句を言いつつも己の頬を叩いて気合いを入れ直す、いかにも若輩の武闘家。
己が信ずる神に祈りを捧げていたり、どういうわけか頻りに皇帝の方へ視線を遣っていたりと仕草は違えど、勝利へ向けたやる気に満ち満ちているのは疑いようもないものの。
二人の雰囲気とは裏腹に、会場はあまり沸いていない。
これまでの熱狂が嘘だったように、誰も彼もがボソボソと二人に対する空恐ろしさや呆れから来る呟きだけが流れる。
しかし、それも当然と言えた。
ウルスラは見目こそ麗しくとも、試しの門の突破方法があまりに流血的だったせいで観客たちはドン引きしており。
ユアンに至っては、もう彼の出自がどうであれ一度も勝利した事のない〝弱い武闘家〟への興味など皆無だったから。
……閑話休題。
「教導国家だか聖神々教だか知らねぇが、アンタにゃ踏み台になってもらうぜ? アイツを見返してやる為の踏み台にな」
入場後はそのまま所定の位置につくのが本来の流れになっているのだが、ユアンはその流れを無視して位置についているウルスラに対し、さも強者かのような振る舞いを見せる。
実際にはスターク曰く、『弱卒ではない』程度の凡人。
こうして上から物を言えるような立場にはない筈だが、あくまで己を大きく見せんとする彼に、ウルスラは顔を上げ。
「……小さな器に大きな驕傲、貴方のような落第者さえ我らが神たるあの御方は見捨てる事なくお救いになるでしょう」
「ッ、言ってくれンじゃねぇか……!」
実力差を見抜いているからか、或いは言動の幼稚さを嘲っているのかは定かでないものの、いかにも殉教者じみた言の葉で以て憐れんでくる眼前の修道女に青筋を立てるユアン。
……この時点で格付けは済んでいそうだが。
それでも、ウルスラの言葉を借りるなら──。
『Aブロック二回戦へと駒を進める最後の一人が決定する重要な一戦! 大方の予想通り【盲信者】が勝利するか、それとも圧倒的な差のある倍率を覆して【軽業の武闘家】が勝利するか! 一回戦第四試合、今──……ゴングですッ!!』
あの御方のみぞ知るところ、なのかもしれない。