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天才少年と、箱入り王女

 床石を浮上させているのは、シグネットの【光飛フライ】。


 対象とした生物、物質に光の粒子を集めて形成した白翼と光輪を付与、天使のような姿での飛行や浮遊を可能とする。


 かつて、かの聖女レイティアは魔族との戦の際に制空権を得るべく数万の味方や固定兵器へ同時に付与したというが。


 この【フライ】は数ある魔法の中でも属性を問わず非常に修得難易度が高い事に加え、もし仮に修得できたとしても操作や制御の難易度も高い為、有用さに反して使い手は少なく。


 ましてや生物に付与する場合と物質に付与する場合では魔方陣の構築から発動後の制御方法まで全てが異なる為、使い手であっても双方へ同時に付与する事は殆どないのだとか。


 そして今、僅か十歳のシグネットがさも当然のように自身と床石へ同時に付与している事にフェアトはもちろん、それなりに魔法に明るい観客や貴族たちも目を見張っていて。


「流石はソルシエル家の麒麟児、見事なものだ」


「お父様……」


 その中にはシグネットの生家であるソルシエル公爵家が属している魔導国家の王族、ネイクリアスとリスタルも含まれており、もちろん【魔法司書】の事を知っていたネイクリアスが彼の成長を褒める一方、リスタルの表情は明るくない。


「リスタル。 言うまでもない事だが、あの少年は──」


 それを知ってか知らずかネイクリアスはリスタルの肩に優しく手を置きつつ、矢継ぎ早にフェアトの足場を奪いながらも攻撃系魔法を発動する手も緩めぬ少年を注視させてから。


 シグネットについて何かを忠告せんとした、その時。


「──……私の()()()()()、その筆頭……」


「その通りだ。 勝つにせよ負けるにせよ、よく見ておけ」


「……」


 それを遮った王女の口から、〝シグネット=ソルシエルは王女の婚約者候補筆頭である〟という衝撃の事実が溢れた。


 魔導国家の王族は代々、〝同世代の貴族で最も魔力量が豊富であり、それでいて魔法の扱いにも長けている者〟の中から配偶者を選び、その貴き血統を受け継いできたのだが。


 王族の婚約者ともなれば必然、高位貴族から選ばれる。


 基本的には公爵家、最低でも伯爵家辺りから。


 ちなみに現国王ネイクリアスの亡き妻、リスタルの亡き母であった王妃もまた侯爵家の出であり、ネイクリアスが後妻を娶らない理由は彼自身が壮年であるという事以上に彼と同世代、或いは年下に〝魔力量や魔法の扱いに突出した高位貴族〟がもう残っていないからというのが大きかったようだ。


 ……閑話休題。


 以上の事から王位継承権を有しているのはリスタルしかおらず、ネイクリアスの事情もあれどリスタル以上に魔導国家の王城を意のままに操る〝錫杖〟を使いこなせる者も現れないだろう事を思うと、リスタルを女王として立太子させ、先述した高位貴族を王配として据える以外の選択肢はなく。


 幾人かの令息の中で最も有力だったのが、【魔法司書】。


 他でもない、シグネット=ソルシエルだった──。











 ──……という事を、この試合が始まる少し前に。


 リスタルは、どういう心境からかフェアトに伝えていた。


『私があの少年を見極めましょう。 未来の王配として相応しいかどうか……何より、リスタル様の隣に立てるかどうか』


『……うん、ありがとう』


 するとフェアトは何を思ったのか、この試合を通して天才少年の〝格〟や〝器〟を見定めると言い出し、そんな事を求めていたわけではなかったリスタルだったが、それでも自分を思っての発言だという事は分かった為、礼だけは述べ。


 そして、今に至る。


「ほらほら! 早くしないと場外負けになっちゃうよ!? いーのかな! 【六花の魔女】の教え子がそんな体たらくで!」


「先生は……あの人は、そんな低俗な煽りはしませんよ」


「ッ、いちいち癪に障るなぁ……!!」


 闘技場では、いよいよ半分を切った不安定な足場に取り残されたフェアトがシグネットと口論を繰り広げていたが。


 ……そんな事より、今はただ──。


(負けないで、フェアト……!)


 王都と自分を守ってくれた憧れの存在が、好きでも嫌いでもない婚約者候補に敗北さえしなければそれでいいという。


 王族にあるまじき、贔屓目な気持ちでいっぱいだった。

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