【魔弾の銃士】vs【神速の雷槍】
第一試合終了から、およそ十分ほどが経過した頃。
『第一試合の興奮も冷めやらぬ中、間もなく始まる第二試合の闘技者たちの準備が整った模様! 両雄、入場です!!』
正しく闘技場のシミと成り果てた元ロブフォスをスタッフが片付けたのも束の間、ようやくまともな心持ちで観戦できる試合が始まるという事も相まってか期待が高まり続けている観客たちに応えるべく、第二試合の出場者を呼び寄せる。
『美食国家随一の実力を持つ冒険者! 陸・海・空、相手がどこに居ようと二丁の拳銃から放たれる弾丸は決して標的を撃ち漏らさない! 【魔弾の銃士】、アルシェ=ザイテ!!』
かたや、腰に差した二丁拳銃に絶対の自信を持っていると見える、いかにも動き易さを重視した軽装の凛とした女性。
『エントリーも最速、予選突破も最速! 〝速さ〟という概念は彼の為にある! その槍の煌めきを見たのなら、すでに相手は貫かれているだろう! 【神速の雷槍】、アルゲス!!』
かたや、背負った槍と己の脚に絶対の自信を持っていると見える、どこを見ても黄金色に染まり切っている美丈夫。
優れた実力のみならず美麗な外見ゆえの人気も高く、そんな両者のファンと言っても過言ではない者たちからの黄色い声援が二人を鼓舞していた──……と言いたいところだが。
「……ふぅ……」
残念ながら、アルシェはそれどころではなかった。
フェアトより、聞かされていたからだ。
出場者の中に四体もの並び立つ者たちが居るという事を。
超常の力を持つ存在を相手取り得る可能性がある事を。
(どうなの? フェアト)
そして彼女は、さりげなくフェアトの方を見遣る。
もし、これから彼女が闘う事になる相手が並び立つ者たちだったとしたら、それを事前に合図すると言われたから。
すると、フェアトは対戦相手を見遣った後。
「……」
「!」
アルシェに視線を戻すやいなや、首を横に振ってみせた。
つまり、これから彼女が闘う事となる美丈夫は──。
(ただの闘技者、って事ね──)
元魔族でも何でもない単なる武人という事であり、なら変に気負う必要もないかと、まだ闘いが始まってもいないのに一息つきかけていたその時、目線を戻した彼女の視界に。
「──お初にお目にかかるな、【魔弾の銃士】殿」
「えっ? あ、えぇ、そうね。 よろしく……」
恭しい態度で手を差し伸べてきた美丈夫の姿が映り、すっかり思考が元魔族の存在に支配されていたアルシェは突然の事に戸惑いつつもその手に自分の手を重ねて握手を交わす。
「……何やら集中を欠いておられる様子だが……あまり舐めないでいただきたい。 いくら実績に差はあれど、我らは同じ冒険者。 貴女からすれば私など木っ端同然かもしれんがな」
「い、いやそんなつもりは──」
しかし、どうやら同業者でもあったらしいアルゲスは声色や目線から彼女の思考が別方向に行っている事を見抜き、まるで拗ねた子供のように自分を卑下し始めた事で、まさか観客を味方につけるつもりなのではと憶測したアルシェが否定しようと試みた瞬間。
「──えっ」
「木っ端には、木っ端なりの意地と得手があるのだよ」
『な、何と! 一瞬にして【魔弾の銃士】の背後を──』
司会者や観客の目があった筈なのに、いつの間にか彼はアルシェの背後に立って槍の鋒を彼女へ向けた状態で構えており、【神速の雷槍】の名に恥じぬ速度で後ろを取ったのだという事実に司会者やスタッフ、観客はどよめいたものの。
『──で、ではなく! まだ合図を出しておりませんので!』
「おっと失敬。 だが、これで分かってもらえたかな」
それはそれとして試合開始前の戦闘行為は流石に禁止されている為、司会者と審判からの注意を受けたアルゲスは大人しく、されど得意げな様子で所定の位置へと戻りつつ。
「誰一人、雷を捉える事などできはしないのだと」
「「「きゃー! アルゲス様ー!!」」」
そのまま像にしても映えそうなポーズで槍を掲げ、おそらく決めゼリフか何かなのだろう言葉を口にした途端、会場の一部から耳をつんざくほど甲高く黄色い声援が轟いた。
……だが、そんな【神速の雷槍】自慢の高速移動は。
(……遅くない?)
(遅くね?)
アルシェと、ついでにスタークにも捉えられていた。