【女喰らい】が犯した直近の罪について
それは、今から一ヶ月弱ほど前──。
まさに、フェアトが例の二人を見逃してすぐの出来事。
その前日、ロブフォスはいつにも増して欲求不満だった。
三日ほど前、一人の女性を襲ったばかりだというのに。
美食国家の裏社会を転々としている関係上、灼熱の日差しに曝されて肌が文字通り焼けてしまわぬようにと厚手の服しか着ない女性を襲う事が必然的に多くなっていた彼は、『そろそろ水着姿の女とヤりてぇなァ』と思い立ったが為に。
奇しくも並の人間より優れた、ともすれば宮廷魔導師にも匹敵し得る魔力と魔法の実力を活かして【闇扉】を発動し。
もっぱら彼が動き出す時間帯である深夜、月明かりを頼りに砂浜で仲睦まじく戯れ合うカップル辺りを狙い、男を生かしたまま目の前で女を犯すという下劣極まりない行いに勤しむべく、砂浜の近くの船着場へ扉を繋げたはいいものの。
その船着場の近くにある砂浜に彼のお目当てであるところの男女は居なかったが、むしろ彼にとっては幸運だった。
そこに居たのは、二人の女性だったのだから。
毛色は違えど並び立つ者たちの序列九位や序列十五位と同様、数多くの女性を食い物にしてきた彼は一目で二人がただならぬ関係にある事を見抜き、ある部位を滾らせつつ接近。
勢いそのままに、おそらく攻めなのだろうボーイッシュな女性を攻撃、拘束した後、受けなのだろう愛らしい女性を先に犯すべく、騎士や近衛にも劣らぬ膂力で制圧を試みるも。
全く原理の分からない、謎の力によって足が止まり。
やはり原理の分からない謎の力によって、ひとまず逃走の選択肢を絶つ為に発動せんとしていた拷問器具が如き電撃の檻、【雷閉】の魔方陣が奇妙な造形に歪み、不発となった。
彼は一瞬、自身が絶とうとしていた選択肢を脳内に浮かべこそしたが、この滾り切った欲望を抑える事などできず。
女性二人の表情が驚きの色に染まっていく中にあり、まるでどこぞの〝矛〟と似たような力業によるゴリ押しで〝その場に足止めする力〟を不完全ながらも打ち破り、〝あらゆる生物を笑わせ、あらゆる物体を人間の笑顔のような形に歪める力〟を再び行使する間もなく接近してきたロブフォスに。
とうとう二人は敗北し、拘束され、そして──。
──……それから数時間が経過した後。
晴れやかな笑みで伸びをしつつ、水平線の向こうから昇ってくる輝かしい朝日に照らされたロブフォスの足元には。
どちらがより酷いとも比較し得ない絶望の表情と、それが何かなど考えたくもない白濁に染まり切った女性二人の。
一糸纏わぬ無惨な骸が、転がっていたという──。
「……ッ!!」
ここまでの話を総合すれば、自ずと答えは見えてくる。
スタークだったら分からないが、聡いフェアトなら必ず。
あの男が喰い散らかして殺したという二人組とは──。
(何で、よりにもよってあの二人が……ッ)
かつて自分が見逃した、並び立つ者たちの内の二体だと。