出場者、入場
その唐突な忠告から、およそ十数分が経過した頃。
『さぁ会場も盛り上がってきたところで! 試しの門をぶっ壊して参加資格を得た出場者たちの入場だぁああああッ!!』
「「「うおぉおおおおおおおおッ!!」」」
「「「わあぁああああああああッ!!」」」
皇帝による開会の挨拶や支援者の紹介などの終了後、今か今かと開始を待ち侘びている観客たちの熱が冷めてしまわない内にと、ついに司会者が出場者たちを舞台へと招き。
「大盛り上がりじゃねぇか、これぞ祭って感じだぜ」
「そう、ですね」
「何だよ、今さらビビってんのか?」
「……そんなわけないでしょう」
「ははッ、だよなぁ」
舞台袖で大歓声を耳にして昂っているスタークとは対照的に随分と物静かな妹に対し、よもや緊張どころか恐れてるのではと鼻で笑う姉をよそに、フェアトは溜息をこぼすだけ。
(緊張とか恐怖とか、それどころじゃないんだから)
そもそも、この双子が故郷を発ってまで旅に出た目的は転生した二十六体の魔族、並び立つ者たちの討伐であるが。
フェアトは一つ、どうしても気掛かりな事があった。
これまでの戦いでは大抵、一対一か二対一で相手してきた事を考えると、もし自分たちが危惧した通り出場者の中に複数の並び立つ者たちが居た場合、下手するとトーナメント外での戦闘も発生し得るのではないかという、つまりは杞憂。
正体がバレるバレないの問題よりも、その場外乱闘に来賓や観客を巻き込んでしまうかもと考えるのは聖女の娘として当然の事であり、それだけは未然に防がなければならず。
(シルド、手筈通りに。 さりげなくお願いします)
(りゅー!)
ゆえに、フェアトは指輪へこっそり頼み込む。
もし出場者の中に、並び立つ者たちが居たのなら。
これまで同様、震えたりして教えてほしい──と。
そして今、一人目の出場者が舞台へと歩を進める。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『エントリーナンバー1番! 今回の魔闘技祭における試しの門へ誰より早く挑み、誰より速く破壊した男! 一回戦も誰より早い第一試合となるか!? 【神速の雷槍】、アルゲス!』
いかにも目立ちたがりなゴテゴテとした軽鎧と、バチバチと火花が散るほどの雷を纏う派手な装飾の槍を持つ美丈夫。
『エントリーナンバー2番! 今大会最年少となる十歳の天才魔法少年! 四つの属性と豊富な魔力で、かの六花の魔女を超える事が最大の目標だとか! 【魔法司書】、シグネット!』
寸法の合っていない白衣と丸眼鏡を身につけ、何日も入浴していなさそうな汚れ具合を隠そうともしない細身の少年。
『エントリーナンバー3番! 教導国家からの参戦! 己の拳が壊れる事も厭わず、【光癒】で治しながら試しの門を殴り続けて突破した狂気の神官! 【盲信者】、ウルスラ!』
両目を純白の布で覆い、聖神々教の信徒の証であるロザリオを首から下げて、常にふわりと微笑んでいる女性神官。
『エントリーナンバー4番! 惜しくも脱落した挑戦者たちを含め最大の巨躯を誇る犀型の獣人! その突進力は余計な破壊もなく試しの門を穿つほど! 【榴弾戦車】、ハーマン!』
歩くたびに地面が揺れるほどの超重量をひけらかし、おそらく自慢なのだろう二本の角をもひけらかす犀型の獣人。
『エントリーナンバー5番! 機械国家からの参戦は実に十年ぶり! 我々に無い技術で以て顔色一つ変えずに試しの門を引き裂いた冷酷無比な機械兵! 【鋼鉄の伐採者】、バルト!』
およそ感情というものが見えてこない無表情を湛え、ピピッだのギュインだの他国では聞かない音を立てる機械兵。
『エントリーナンバー6番! 魔導接合を施した魔物を操り試しの門を溶かした美しき霊人! 証明済みな魔物の強さはもちろん本人の実力や如何に! 【万獣使い】、ケイトリン!』
同伴する魔導接合済みの魔物も然る事ながら当人もまた燃え盛る炎を帯び、炎で模られた鞭を手にした美麗な灼人。
『エントリーナンバー7番! またか! またお前か! 何度でも挑み続ける精神性だけは目を見張るものがあるが、今度こそ一回戦突破なるか!? 【軽業の武闘家】、ユアン!』
数日前にスタークたちが遭遇し、喧嘩を売ってきたが呆気なく敗北、関所で捕えられている筈の身軽な風体の棍使い。
『エントリーナンバー8番! 美食国家史上、最悪の強姦魔が恩赦を求めて参戦! 観客には彼の死を願う者も居ようが、それも全ては組み合わせ次第! 【女喰らい】、ロブフォス!』
大ブーイングを全く気にかける事なく、観客や出場者、果てはスタッフに至るまで女性を品定めするガラの悪い外道。
『エントリーナンバー9番! 先ほどと同じ美食国家からの参戦でも、こちらは優れた冒険者! 自在な軌道の弾丸で、近寄る事さえ許さない! 【魔弾の銃士】、アルシェ=ザイテ!』
二丁の銃を携え、裏の顔を隠すかのように帽子を露骨なほど目深に被った、速度と隠密に特化した肉体を持つ美女。
『エントリーナンバー10番! 今大会で唯一、本戦まで残った傭兵! 鉱人としては異質な高い上背と長い手脚を活かして振るう斧の威力は絶大だ! 【戦地砕き】、ガウリア!』
どこかで二つ名を得る機会があったらしい、鉱人とは思えない長身と逞しさを両立する、背丈ほどの斧を持つ傭兵。
『エントリーナンバー11番! 猿の魔物、皮剥に育てられた過去を持つ殺人常習犯! 皮剥譲りの斬撃は薄皮を一枚一枚削ぐように罪なき者を苦しめる! 【生命活剥】、ピューラ!』
一見すると悪人には思えないが、その色付き眼鏡で醜悪な欲望に歪んで澱み切った瞳をひた隠す、出自不明の犯罪者。
『エントリーナンバー12番! 今大会唯一の鬼種! 痛みを与える事に特化した種に産まれた彼は、そう簡単に降参も死も認めない! 短期決戦が肝か!? 【針の天山】、ソア!』
爪、或いは牙、或いは角のような形状の棘を全身から生やした、見るからに人外めいた筋骨隆々な肉体を晒す鬼種。
『エントリーナンバー13番! 先日の舞踏会にて柔より剛の舞踊を魅せた双子の姉! 皇都を囲う壁ごと試しの門を大声一つで破壊した暴虐の権化! 【無敵の矛】、パイク!』
素性を隠す為、背負った矛に化けている神晶竜の名を偽名として名乗り、すでに優勝する気満々で居る双子の片割れ。
『エントリーナンバー14番! 同じく舞踏会にて剛より柔の舞踊を魅せた双子の妹! 門を両断する攻撃力と、暴虐の権化の一撃を防ぐ守備力を併せ持つ【無敵の盾】、シルド!』
姉とは違い偽名だけでなく、鼻から下を薄紫色の面紗で覆って可能な限り素性を隠した、挙動不審な双子の片割れ。
『エントリーナンバー15番! 十余年前、王城へ攻め入った百余体の魔族を単独で掃滅したという、魔導国家が誇る最高で最強の近衛! 【黒白の重装兵】、ノエル=クォーツ!』
出場者の中で最も頑強な鎧を身に纏い、拍手にも歓声にも動じる事なく、ただその時を待つ重厚なる近衛師団の長。
『そしてそして、エントリーナンバー16番! 今回の魔闘技祭における優勝候補最右翼! 【大陸一の処刑人】、またの名を【真紅の断頭台】! 美しき紅の断罪者、セリシア!』
斬撃がそのまま人間の形をしているような斬れ味鋭い威圧感を纏う、真紅の外套に身を包む並び立つ者たち序列三位。
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これで、全員が舞台上へと揃い踏み──。
『以上、十六名の中から今回の魔闘技祭の覇者が決定する事となります! 皆様、勇猛なる出場者に盛大な拍手をッ!!』
「「「わあぁああああああああッ!!」」」
司会者の煽りを受けた観客たちや支援者が、それこそ割れんばかりの拍手と歓声を出場者たちに浴びせる中にあり。
「……ッ」
フェアトは独り、舌を打つ。
一体ないし二体──……どころではない。
セリシアを除き、四体もの元魔族がそこに居たからだ。