本戦当日、控え室にて
大盛況に終わった舞踏会から、二日後──。
舞踏会の後始末、貴族たちによる皇帝への謁見の準備、急遽あの舞台で舞を披露する事となった踊り子たちへの報酬の用意など、諸々の都合によって少しばかりの遅れは出たが。
『皆様、長らくお待たせいたしました! 武闘国家最大にして最高の催し物! 第百九十三回、魔闘技祭の開幕ですッ!!』
「「「うおぉおおおおおおおおッ!!」」」
「「「わあぁああああああああッ!!」」」
こうして無事に開催と相成った事による会場の熱気はまさに最高潮、長い歴史の中でも類を見ないほどの大歓声の中。
ついに魔闘技祭が幕を開けた──……のは良いが。
「はぁ……」
ここは、出場者たちの為に用意された控え室。
本戦の舞台となる闘技場や魔闘技祭用に建設された観客席と比べると遥かに飾り気のない部屋で、フェアトは何を思ってか窓辺で椅子に座りつつ物憂げに溜息をこぼしており。
「何だよフェアト、まさか緊張なんてしてねぇよな?」
「そりゃまぁ人並みには──じゃなくて」
「ん?」
数々の元魔族を相手取ってきておいて今さら緊張も何もないだろうと、そんな妹の姿を見遣りながら準備運動していたスタークの問いかけは、どうやら的を射ていたようで。
「私、姉さんと違って察しが良いので薄々気づいていたんですけど……並び立つ者たちって大抵、私たちが出向くまでもなく出会すじゃないですか。 あぁ美食国家は別として」
「……前置きは要らねぇ気もするが……まぁ続けろ」
嫌味たらしい前置きはともかく並び立つ者たちについての考察を語ろうとしている事は理解できた為、とりあえず苛立つのは後回しにして二の句を待ってみたところ。
「それで、ちょっと考えてみたんですよ。 咎人の処刑に王族殺害事件、疫病蔓延に過剰な賭博。 色んな出来事や騒動に絡んできた並び立つ者たちが魔闘技祭を逃すか? って……」
「あー……そういう事か」
「えぇ、おそらくというか十中八九──」
フェアト曰く、
確かに言われてみれば、
まるで、
その時。
「「──!」」
コンコンコン、と控え室の扉がノックされた。
誰かが、スタークたちに用があって訪れたのだろう。
しかし、誰が?
王族や皇帝ではないだろう。
彼らは開会式に参加している筈だから。
運営スタッフでもないだろう。
よほどの事がない限り、出番までは来ない筈だから。
となると、考えられる事はそう多くない。
双子と同じ、出場者の誰か。
「「……」」
集中したいからと入室を拒否してもいいが、どのような理由で訪れたのか気になるというのもまた真実であり。
「……どうぞ、開いてますので」
姉に促されて入室許可の声を上げたフェアトに対し。
『そう? それじゃあ失礼するわ』
「「……?」」
返ってきたのは、ほんのり聞き覚えのある女声の返事。
顔を見合わせてはみたものの、どうせ記憶力のない姉では思い出せないだろうと踏んだフェアトがすぐに視線を外して思考の海に飛び込みかけたのも束の間、扉が開く。
「待機中にごめんなさいね。 挨拶だけでもと思って」
「随分と静かだけど、何かあったのかい?」
「あ? アンタら確か……」
かたや細身、かたや筋肉質。
正反対の外見を持つ、その来訪者たちの正体は──。
「久しぶりね。 スターク、フェアト」
「二日前の演舞、中々だったよ」
「アルシェさん!? ガウリアさんも……!」
双子と面識のある、人間と鉱人の女性の二人組だった。




