最終演目、〝矛盾撞着〟
……各国の王族、及び皇族たちが一堂に会しておきながら、そこで語られたのはとある双子がどうとかいう話だけ。
もちろん後日の魔闘技祭における賭博に関わりそうな話もありはしたが、『国政や国交にまつわる話をいち早く知れる好機だと思っていたのに』と身勝手な肩透かしを食らう中。
『──今宵限りの舞踏会も、次の演目で最後となります!』
「! お父様、スタークとフェアトの出番が……!」
「あぁ、そのようだな」
司会者からのアナウンスにより、ついにリスタルが待ち望んでいた双子の出番、いわゆる〝大トリ〟の時間がやってきたのだと知った娘がテンションを上げて笑顔を向けてくれた事に、ネイクリアスもまた壮年相応の朗らかな笑みで返す。
やはり、あの双子は英雄なのだろう。
リスタルに、笑顔を取り戻させてくれたのだから。
「さて、ズブの素人が付け焼き刃でどれほど舞えるか……」
「俺様も通しでは見てねぇからなぁ、楽しみだ」
一方、〝美しいもの〟への評価が厳しめなファシネイトと主催者たるバオは少々穿った待ち望み方をしており、まるで双子を試すかのような口ぶりで以て待ち構えていると。
『それではご覧いただきましょう! 今宵限りの舞踏会、最終演目──〝矛盾撞着〟!! 心ゆくまでご堪能ください!!』
「「「おぉおおおおおおおおッ!!」」」
「「「わぁああああああああッ!!」」」
矛盾撞着、おそらく双子が加わった事で元々のものから変えられたのだろう題名の公表とともに大トリとなる演目の開始を宣言した途端、観客たちは一様に拍手と歓声を送る。
そして、その盛大な拍手と歓声が完全に鳴り止んだ瞬間。
「「「おぉおおおおおおおおッ!?」」」
最終演目を音と見た目で彩る雅楽団と煌びやかな舞台が唐突に現れた事にも観客たちは驚いたが、その驚きは舞台の中心に大輪の花が咲いたかのような陣形と舞踊で以て現れた美しい衣装に負けぬ美しさを持つ踊り子たちの登場で会場中の観客たちは平民も貴族もなく波打つように沸き立っていき。
そんな歓声に呼応するかの如く次第にアップテンポになっていく演奏は、ともすれば並の踊り子だと遅れてしまうかもしれないと思うほどであったが、この舞台上にこの程度で音を上げるような能無しは一人も居ない。
「ほぅ、これは中々……」
「綺麗……」
むしろテンポが上がっていくほどスムーズに、そして美しく舞い踊る数十人の踊り子たちの一糸乱れぬ舞踊に、リスタルはもちろんの事、王族たる者としてある程度は目が肥えている筈のネイクリアスでさえ感嘆の息を漏らす。
何故? という疑問の答えは、すぐ傍で解かれていた。
「〝力〟ではなく〝美〟に特化した魔法か……何とも見目好く映えるのぉ、我が国にもぜひ取り入れたいところじゃが」
「講師として貸してもいいぜ? ま、条件次第だがな」
どうやら魔導国家や美食国家の踊り子と違い、この国の踊り子たちは威力も効力も捨てて〝魅せる〟事にのみ特化した魔法を修得しているようで、およそ攻撃にしか使わない数々の魔法も、彼女たちからすれば立派な舞台装置。
赤、青、黄、緑を基本とした多種多様な色の光を伴う魔法が荘厳華麗に混じり合い、その輝きの中で踊る彼女たちは、まるで一人一人が空から舞い降りた天女のようだった。
そして演目も終盤に差し掛かった頃、最序盤と同じように大輪を咲かせる為の蕾が如き陣形に移行したかと思えば。
「「「おぉぉ……ッ!?」」」
大輪の中心から現れたのは、可憐な二人の少女。
かたや際どめな武闘家の衣装を、かたや際どめな踊り子の衣装を身につけた少女たちに、この世界で最も美しいとされるファシネイトを見る時ともまた違う目の奪われ方を会場中のほぼ全員がする中にあって。
「あッ! スタ──むぐ!?」
ついに姿を現した双子の名を呼び、もちろん応援しようとしたリスタルだったが、その片割れの名を口にしかけた辺りで突然スッと差し込まれた美麗な手により遮られてしまう。
美麗と称した時点であからさまではあるものの、その手の主はリスタルの隣で優雅に座るファシネイトのものであり。
(名を口にしてはならぬぞ、リスタル。 この場では、じゃが)
(ど、どうしてですか……?)
(後で教えてやる)
(……ッ)
理由こそこの場では明かされなかったが、その表情の真剣さからリスタルは黙って首を縦に振るしかなかったようだ。
「……」
そんな二人のやりとりを横目でちらりと見ていたネイクリアスは、いかにも安堵したといった具合にホッと息をつく。
ファシネイトが遮ってくれなければ、ファシネイトと全く同じ理由でネイクリアスが娘の声を遮っていただろうから。
……それにつけても、つくづく思う。
(……素性を隠している人間のする事ではないな)
致し方ないとはいえ、自覚はあるのだろうかと。




