いざ、舞踏会
それから、あれよあれよと言う間に三日が経過し──。
「来ちゃいましたね、舞踏会当日」
「面倒臭ぇ……」
「今さら文句言わないでください」
特に待ち望んでいない、舞踏会当日がやってきた。
とはいえ待ち望んでいないのは双子だけであり、リスタルを始めとした他国の王族や貴族はもちろんの事、大乱戦闘の観覧を楽しみにしていた皇都民も新たな催しに沸いている。
……王族や貴族が参加するような催しに、どこまでいっても平民でしかない皇都民が参加できるのだろうか? と疑問を抱いても仕方ないとは思うが、それについては問題ない。
流石に貴き身分にある者たちと、そうでない者たちを同じ卓に着かせ、同じ料理を食させるわけにはいかないものの。
本来、催されていた筈の大乱戦闘と同じく身分によって居るべき場所と食すべき料理を区別さえすれば、王族や貴族はもちろん平民たちのガス抜きも兼ねられるだろう──。
──という、バオの一声で全てが決まったようだ。
……あんなのでも一応、皇都民思いではあるのだろう。
「いい迷惑だぜ全く……何が悲しくて見せ物になんか……」
しかしながら、そんな皇帝の心遣いもスタークからしてみれば『余計な事を』と舌を打たざるを得ぬ無用の親切も同様であり、とにかく苛立ちが募って仕方がない様子。
……が、しかし。
「貴女が余計な事しなきゃ、こうはなってないんですよ」
「……わぁってるっての、そう何度も言うな」
セリシアの件はともかく、そもそもスタークが持ち前の馬鹿力で馬鹿みたいな被害を出さなければ舞踏会は催されず。
多少なりセリシアの存在で辞退者が出ようと例年通りに大乱戦闘が催されていた筈だと、たった一言に皮肉という皮肉を込める妹に姉は気まずげに頭を掻くしかなくなっていた。
翻って、気まずくなっていたという事はスタークもスタークなりに思うところがあったという事に他ならず。
「しゃあねぇ、さっさと踊って終わらせ──」
それでも面倒臭いのは不変であるらしく、よいしょと立ち上がりながら双子が踊る舞台の袖から出ようとした姉を。
『──りゅあ』
「ぅぐッ!?」
「良い判断です、パイク」
『りゅう』
「げほ……ッ! 何しやがんだテメェ!」
机の上で小さくなって寝そべっていたパイクが翼の一部を鉤爪に変え首根っこを掴んで歩みを制止、咳き込むほどの勢いで止められたスタークが苦言を呈しようとするも、その矛先で座ったままのフェアトの表情は冷静そのもの。
「私たちが踊るのは終盤も終盤、いわゆる〝大トリ〟だって言われたじゃないですか。 それまでは袖で待機ですよ」
「ッ、そういや……何から何まで気に食わねぇな……!」
何しろ双子は事前に自分たちが舞踏会の終演を飾る役回りを担う事を聞かされており、おそらく姉の脳味噌では記憶できていないだろうと分かっていつつも呆れ返らずにいられない様子の妹からの返答で、より一層スタークの機嫌は悪化。
……自業自得だと分かってはいるが、ここまで面倒ごとが連続するとそれはそれで姉を不憫に思ってしまうフェアト。
「まぁ五分ちょっとで済むんですし、それくらいは──」
こういう甘いところがスタークの増長の原因だと知ってか知らずか、あくまでも宥めるような口調で『終われば明日は楽しい魔闘技祭ですよ』と言い聞かせんとしたのも束の間。
「あの豪華な飯が食われてくの黙って見てろってか……!」
(え、そっち?)
自分が思う〝姉の関心〟と姉の中にある〝自分の関心〟の方向に大きなズレがある事に、フェアトはガクッとなった。