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たらい回し、からの

 それからは、もう怒涛の展開だった。


 舞踏会の開催が皇帝の一存で決定した途端、バオの号令を受けて集結した皇帝直属の仕立て屋があっという間に双子を攫い、そのままの勢いで専用の装束を作る為の準備に移る。


「へぇ……スタークちゃんは筋肉質なのに、フェアトちゃんは細身なのねぇ。 こうも色々違う双子は初めて見るわぁ」


「はぁ、そうですか……」


「好きな色もデザインも全く違うみたいだし、どうしようかしらね? どちらの希望もできるだけ叶えてあげたいけど」


「いや別にそんな拘んなくてもよ」


「雅楽隊との折り合いもあるものね、聞いてこなきゃ」


「おい聞いてんのかって」


「他国の禁忌タブーも確認して──あら、何か言ったかしら?」


 身体中の至るところの採寸はもちろんの事、双子それぞれの好きな色や意匠の確認、舞踏会当日に背景音楽を担当する楽団との妥協点の模索、色彩や装束が他国の禁則事項に引っかかっていないかどうかの照査──……などなど、きゃあきゃあと年甲斐もなく騒ぎながら年配の女性たちが群がる中。


「……何でもねぇよ、もう好きにしてくれ」


(姉さんが折れた……!?)


 最初は煩わしさから苦言を呈そうとしていたスタークだったが、これまで出くわした事のないノリで捲し立ててくる四十代から五十代ほどの年配女性の勢いに押された結果とはいえ全てを諦めたように深い溜息をついて身を任せ出した姉の姿に、フェアトは割と本気で表情を驚愕の色に染めていた。


 そしてようやく装束の雛形が完成したかと思えば、すぐさま双子へ舞踏を仕込む為の練習室へと揃って移動させられ。


「違う! もっとスムーズに! 川の流れをイメージして!」


「そこはさっきと対極の力強さが欲しい! 臨機応変に!」


「スターク嬢! 終わりたさが顔に出ているぞ!」


 先ほどまでの仕立て屋たちとは打って変わって男女ともに厳しく指導してくる指南役のもと、社交ダンスさえした事のない双子は双子なりに頑張って指導を受けてはいたものの。


「……」


(あぁマズイ、本気でイライラしてきてる……)


 フェアトからすれば火を見るよりも明らかに、スタークの表情や心中には溶岩の如き憤懣が募りに募ってきており。


 あと少しでも刺激されるような事があれば、それこそ全てを巻き込んで爆発してしまうのではと危惧していた時──。


(……? 何だろ、部屋の外が騒がしく……)


 フェアトの人並みかそれ以下の聴覚が、何かを拾った。


 ガヤガヤと、練習室の外で複数の人間が揉めているらしいという事だけは分かったが、それ以外は何も分からない。


『ど、どうか止まってください! そちらでは今……!』


「……さっきから何をギャーギャーと……」


「問題でも起きたんですかね」


 そうして首をかしげていたフェアトはもちろん、そんなフェアトよりも随分と前から騒ぐ者たちの声を耳にしていたスタークの両名は、数人の指南役が外の騒ぎに気づいて指導を中断したのをいい事に無断で休息を挟みつつ。


 誰かがこの練習室に無許可で入ろうとしている、という事を共通して理解した上で成り行きを見守っていた双子。


 次の瞬間、制止も虚しく練習室の扉が勢いよく口を開き。


「あ?」


「えっ」


 扉の向こうから現れた〝少女〟は、そのままの勢いで。


「──スターク! フェアト! 良かった、本当に逢えた!」


「お前……」


「リスタル様!?」


 スタークとフェアト、二人のもとへ飛び込んできた。


 王族ゆえの高級なドレスが縒れてしまう事も厭わずに。

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