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二人の最右翼

 突如、試しの門の向こうから現れたのが世界最高の流派たるジェノム流の開祖、キルファというだけでも驚きなのに。


 彼女と、そして今この瞬間も破壊的な大声の余韻で大多数のギャラリーから一時的に聴覚を奪った少女が何気なく口にした言葉から、よもやの〝師弟関係〟を知った全員が唖然とする中。


「……あー、そうだ。 これだけは言っとかねぇとな」


 キルファは何かを思いついたように悪戯っ子かの如き笑みを浮かべた後、スタッフやギャラリーたちではなく、すでに試しの門を突破した一握りの強者たちに視線を向けて一呼吸置き。


「おぅお前ら、よーく聞いとけ! 耳がイカれちまってる奴ァ後から誰かに教えてもらえ! コイツはあたしの弟子ン中でも最強、見た目はガキでも怪物よ! 今年の魔闘技祭、優勝者候補の最右翼がコイツだ! 今ここで吹っ飛ばされた奴、怖気付いた奴は悪い事ァ言わねぇから辞退した方がいいぜェ!?」


「「「〜〜……ッ!!」」」


「き、キルファ様!? そういう訳には──」


 己が〝優勝賞品の一つ〟である事を差し引いても、どちらかと言えば主催者側にある人間の口から出たものとは思えない、『どうせ勝てないのだから今年は諦めろ』という無慈悲な宣告を言い放ち。


 この場に居合わせたあらゆる強者たちに畏敬の念を向けられている始祖の武闘家から、あろう事か『弱者は引っ込め』と突き放されてしまった事による悲壮感を抱きつつも。


「お……ッ! 俺、辞退する! 勝てっこねぇよあんなん!」


「私、も……! 死にたく、ないし……!」


「お、俺も! 俺もだ!」


「えぇ!? ちょ、ちょっと待ってくださぁい!」


 キルファの言った事は正論だと思い知らされてしまってもいた〝一握り〟に属さぬ者たちが、次から次へとスタッフたちに詰め寄って、せっかく予選の予選を通過したのに辞退するというもったいない行為をし始めた事で混乱の極みに陥るスタッフたちを尻目に。


「……どう収拾つける気です? これ」


「心配すんなって。 武闘国家このくにじゃ、あたしは皇帝と肩を並べる〝偉人〟だからな。 多少の無理も利くってモンだ」


「……じゃあ、お任せしま──」


 始祖の武闘家としての威権をフルに活用すれば、この程度のトラブルはトラブルの内に入らず、もし入ったとしても揉み消すか無理やり自分の都合の良いように調整させるかすれば良いのだと威張る事でもない事を得意げに豪語するキルファに、それこそ姉に向けるような呆れの感情をフェアトが抱いていた時。


「──……始祖の武闘家、キルファ=ジェノム」


「ん? 何だ改まって──……あー、お前は……」


 それまで黙りこくっていながらもキルファから視線を外してはいなかったセリシアが、ある程度は存在そのものを尊重している筈のフェアトの言葉を遮ってまで会話に割って入り、その名を呟いた事でキルファがそちらを向いた瞬間。


「確か、大陸一の処刑人……セリシアだったか?」


「あぁそうだ、お初にお目にかかる」


「で? あたしに何か言いてぇ事でも?」


 初見でこそあったものの、その特徴的な外見を見紛う筈もなかったようで、今や大陸全土に二つ名と活躍が知れ渡っている処刑人の存在を知覚しつつも、それはそれとして何の用かと若干の圧を纏って問いかける。


 ……眼前の美女から、底知れぬ覇気を感じ取ったからだ。


 それを知ってか知らずか、さも『隠す事は何もない』と言わんばかりにセリシアは被っていた真紅のフードを外し。


「──今年の魔闘技祭を制し、お前と戦うのは私だ」


「「「……ッ!!」」」


「……ほぉ、あたしの前でンな事ほざきやがるとは……」


 言い放ったのは、よもやよもやの〝優勝宣言〟。


 普通なら『何を馬鹿な事を』と切って捨てられるだけの妄言でしかないが、あいにく眼前の処刑人は普通ではない。


 キルファは潜在的な強さにしか気づいていないが、その正体は選ばれし魔族、並び立つ者たち(シークエンス)の序列三位なのだから。


「れ、冷静になりゃ大陸一の処刑人の方がヤベェよな……」


「俺も、辞めとこうかな……また次の機会に……」


「そ、そんな! これじゃ数が合わなくなっちゃう……!」


 そんな真の強者同士による短い語らいは、〝一握り〟でない者たちの心を完全にへし折るのに充分すぎたようで、もったいなさから残っていた者たちさえ一掃するかの如く辞退し始めた事で、いよいよ以て運営スタッフたちが危機感を覚え始めていた時。


「いいじゃねぇか、〝アレ〟取っ払っちまえば」


「えぇ!? いやいや、そんな急には……!」


 キルファからすれば何気ないが、スタッフたちからすれば洒落にならないものなのだろう〝何か〟を除外しろという命令にも似た提案をしてきたキルファに対し、もちろんスタッフたちは『そんな権限は我々にはない』と拒否しようとしたものの。


皇帝アイツにはあたしから言っとく、それでいいだろ?」


「う……ッ、ほ、本気なんですね……?」


 武闘国家を治める存在さえも〝アイツ〟という何とも粗野な三人称で呼びつつ、さも『自分の言う事なら絶対に通る』と疑っていない様子のキルファに、もはや反論の余地すら許されなくなってしまったスタッフたち。


「……承知しました、ではそのように手配しますので……」


「おぅ! 頼んだぜ!」


 結局、有無を言わさぬ気迫を帯びた笑顔に気圧された事で提案を受け入れざるを得ず、〝アレ〟とやらが()()()()()()()()()()()()事となってしまうのだが、それはまた後ほど。











(……先生も、魔導国家の王族に直談判とかするのかな)

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