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言葉の通じぬ放浪部族

 三人が乗る荷車をぐるりと取り囲む三十人ほどの集団。


 彼ら、或いは彼女らは一様に露出が無駄に多い民族衣装を身につけて、今か今かと待ち望むように武器を構えており。


「……セリシアさん、もしかしなくても──」


 もはや聞かずとも分かる事ではあるが、念の為にと訳知りである筈のセリシアへと声をかけたフェアトの問いに。

 

「あぁ、奴らが()()だ」


「やっぱり……」


「どれどれ、っと──」


 あくまでも冷静に、そして無表情で返事してみせたセリシアからの答えで『回避できなかったか』と溜息をこぼす妹とは対照的に、スタークは最初こそ興味ありげに彼らへ視線を向けていたものの。


「──ん〜……? 大して強そうにゃ見えねぇが……」


 実際に見てみた彼ら、或いは彼女らの強さが期待外れも良いところだと──まぁ弱すぎるという事もなかったが──途端に失望したような溜息をこぼしつつも、ふと何かに気がつく。


「何か、どいつもこいつも妙な武器──いや【盾】か? よく分からんモンぶら下げてやがるが……ありゃ何だ?」


 どいつもこいつもとは比喩でも何でもなく、スタークたちを取り囲んでいる者たち全員が全員、剣や槍、斧や爪といった武器を無理やり取り付けたような【盾】を装備しており、大抵の武器を見た事も使った事もあるスタークでさえ知らないそれらに強さとは別の興味を抱いていたところ。


攻防一体の戦盾デュエリング・シールド。 〝プロヴォ族〟は生まれついての戦闘民族、相手の本気を引き出してから勝利するべく必ず先手を打たせる為の武器を全員が携帯しているそうだ」


「先手を、ねぇ……んな余裕がありゃいいが──」


 彼らの事を知っている以上、彼らの武器について知っていてもおかしくなかったセリシアが、プロヴォ族というらしい彼らが装備する武器の名と、それらを装備している理由を解説する。


 攻防一体の戦盾デュエリング・シールド──相手の攻撃を盾で受けてから、そのまま盾に取り付けた各々の武器で相手を倒すという文字通り攻撃にも防御にも使える万能な盾。


 ……まぁ、とはいえスターク相手に先手を打たせている余裕があるのかというと微妙なところであり、もはや珍妙な武器への興味さえ薄まってきていた──……ちょうどその時。


 ざっ、と集団の中から前に出てきた一人の男が大きな盾に取り付けた槍の穂先をこちらに向け、何かを叫んだのだが。


『──!! ────、────!!』


「「……はっ?」」


 ……何を言っているのか、さっぱり分からなかった。


 スタークは──……まぁ、いつでもどこでもこんな感じの状態になる事も多いが、フェアトでさえ目が点になってしまっている時点で彼の言葉は言葉でさえなかったと断じていいだろう。


「今、何つった? そもそも言葉だったかどうかも微妙だぞ」


「叫んでいるようにしか聞こえなかったですけど……」


 事実、双子の言う通り男の口から飛び出た音は言葉どころか何らかの法則で以て区切られた叫び声のようにしか聞こえず、こうして双子揃って疑問符を浮かべていても仕方がないと判断したフェアトが視線を向けてきている事に気がついたセリシアは。


「……奴らは奴らの中でのみ通じる、全く独自の言語体系を確立している。 武闘国家内でさえ奴らの言語に精通している者はごく少数らしい、無知なお前たちではどうにもならんだろう」


 プロヴォ族は、プロヴォ族の間でしか通じない言語でのみ意思疎通を行い、それ以外の言語を決して用いず、そして習得しようともしない為、頭が良い悪いは関係なく知らないのならどうしようもないと双子を──……というかフェアトをフォローするかのような発言をした事はさておき。


「その言い方だと貴女は……」


「あぁ、理解している」


「ならさっさと訳せよ」


 自分たちを無知と呼ぶのなら、セリシア自身は知っているのだろうと半ば確信めいてフェアトが問うたところ、ちらりと視線も向けぬままに肯定した事により、じゃあ早くしろと急かすスタークの声にセリシアはやはり無表情のまま口を開き。


「……馬と、糧食を置いていけ。 その気がないなら殺してから奪ってやる──と、そう喚いている」


「……いかにもですね。 どうしま──あっ!?」


 いかにも盗賊然とした野蛮極まる要求を一方的に叫んでいたのだと明かし、もちろん置いていく気も殺される気もないとはいえ対処の仕方は考えないと──と相談しようとしたのも束の間。


「交渉の余地なんか最初からねぇんだよ。 いいか? あたしの言葉を理解できてようができてなかろうが関係ねぇ、耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ有象無象ども──」


 いつの間にか荷車から出て、プロヴォ族の前へと独り躍り出ていたスタークは、パキパキ、ゴキゴキと指や首を鳴らしながら先頭に立っていた男へ指を差し、言葉が通じていない事を承知の上で指差していて手をくるりと裏返しつつ。


「──御託はいいから、かかってこい」


『『『────……ッ!!』』』


 中指だけを立てて挑発した瞬間、先頭に立っている男だけでなく居合わせているプロヴォ族全員の表情に怒気が宿り、一斉に臨戦態勢を整え始め。


「怒って、ますよね……? 言葉は通じてない筈なのに……」


「挑発されているという事くらいは分かるのだろう」


「なる、ほど……」


 言葉は分かっていない筈なのに何故と困惑していたフェアトに対し、それくらいの知能や知性はあるという事だと語るセリシアの言葉に納得していたフェアトだったが。











(──……あれ?)


 ここで、()()()()()を抱く。


 ……姉の勝利を疑っているわけではない。


 この人数差でも間違いなく圧勝するだろうと思っている。


 だからこその、疑問。


 基本的人間の外に居る者たちだとは聞いていても──。


(これ、勝ったらどうなるの?)


 後顧の憂いを断つべく鏖殺──以外の結果を招いた場合。


 生き残った者たちは、どんな行動を取るのか?


 それが、どうしても気になってしまっていた。

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