弱卒とまでは言わないが
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突如、三人の前に降り立った棍使いの男。
ぶんぶんと風を切るそれはスタークの目から見ても並の造りではなく、いくら何でも始神晶製の武具に勝るとは思えないが、それでも鋼と同等かそれ以上の硬度を有し、使い手によってはパイクが化けた武器と競り合う事くらいはできるかもしれないと踏んでいた。
「アンタ一人か!? 全員でいいぜ! それくらいじゃなきゃあ修行にもなんねぇからよ!」
だからといって、どう見ても武闘派でなさそうなフェアトや、どう見ても彼より強そうなセリシアまで含めた三対一でも構わないという、あまりに無謀な主張は如何なものか。
……まぁ、弱くはないのだろう。
佇まいや隙のなさからもそれは分かる。
弱卒とまでは言わないし、言えない。
しかし、じゃあスタークに勝てるほどの実力を持っていそうかというと──……微妙。
いや、間違いなく持っていないだろう。
そもそも、この世界を生きる者の中で今のスタークを凌駕し得る存在など、それこそ両手で数えられるくらいしか居ないのだから。
「いや、私たちは……ねぇ?」
「……勝手にしろ。 私は先に行く」
「あー……じゃあ、私も──」
それを察してか、フェアトもセリシアも参戦の意思はないと告げながら、その男性の横を通り抜けて武闘国家側の関所へ赴こうと。
……したというのに。
「おい待てって! 何で先に行っていいなんて思うんだ!? この嬢ちゃんが終わったら、次はアンタらのどっちかの番なんだからよ!」
「……え?」
「は……?」
その男性は、さも当然のようにフェアトとセリシアの前へ通せんぼするかの如く棍を伸ばし、スタークが自分に劣る事を前提として勝手に話を進めてきた事により、フェアトはもちろんスタークまでもが唖然とする一方。
「さぁお立ち会い! これより見せるは【軽業の武闘家】“ユアン”の妙技! 愉しもうぜ!」
「愉しめるかどうかはお前次第だがな」
「ははっ! 言うねぇ! 行くぞオラァ!!」
すでに戦いの場は整ったとでも言わんばかりに名乗り始めた【軽業の武闘家】──これは、のちに自称の二つ名である事が明らかとなるのだが──ユアンは、ぶんぶん振り回していた棍の先をスタークに向け豪気に笑い。
それを受けたスタークの煽りにも近い言葉にも、ユアンは全く動じる事なく──嫌味が通じなかったとも言える──……突撃する。
棍の使い道は矛に限りなく近い。
違いは先端に刃があるかないか程度。
突き、薙ぎ、叩き、払う。
単純だからこそ使い手の技量が問われる。
では実際ユアンの攻撃がどうかというと。
「……あ〜……」
「何だぁ!? 俺の連撃に声も出ねぇか!!」
「まぁ……そうだな……」
「はっはっは! そうだろそうだろ!」
確かに【軽業の武闘家】を名乗るだけの事はあり、その息もつかせぬ乱打には目を見張るものがあるかないかで言えば──……まぁなくもなくもない、程度といったところか。
武闘国家に籍を置く武闘家たちの平均的な強さがはっきりしない為、他と比べてどうかというのを明瞭にできないのがもどかしい。
……が、まぁ魔導国家の騎士団員と同じか僅かに上回っているくらいではあるだろう。
流石に団長や隊長格には劣りこそすれど。
では、ここで問題だ。
その程度の実力で無敵の【矛】を満足させられるか否か? ──答えは言うまでもない。
(言っちゃ悪ぃが──……普通だな)
スタークは、もう飽きてきていた。
時間としては、およそ二分にも満たない。
しかし、確かに飽いていたのだ。
突き、薙ぎ、叩き、払う。
どれ一つ取っても──……凡庸。
先述したが、重ねて言おう。
彼は決して、弱卒ではない。
ただ、相手が無敵の【矛】だっただけ。
世界で最も膂力の強い少女だっただけ。
……挑む相手を、間違えただけ。
(……もし、こいつの実力が武闘国家全体で見た時の平均武力なんだとしたら、魔闘技祭も大した事ねぇのか? やる気なくすぜ全くよぉ)
戦闘中にのみ頭が切れるスタークは、やる気を喪失しながらも平均武力などという何とも頭の良さそうな単語を用いて武闘国家全体を憂い──何様だと言われてしまえばそれまでなのだが──魔闘技祭のレベルをも憂う。
流石にユアンは武闘家の中でも下限だろうと分かってはいるものの──それでも、だ。
こうして思索をしている最中にも、ユアンは途切れる事なく棍による乱打を続行してとり、その勢いと根性だけは認めてもいいが。
(これ以上の引き出しもねぇ感じだし、さっさと終わらせて武闘国家に行くとするか──)
ここまでの攻撃の他に愉しめそうな手段を期待して待っていたスタークとしては、これといって新手を出さない──出せない? 事を見抜いて戦いを終わらせにかかろうとした。
その瞬間、スタークの予想していたものよりもほんの僅かに重い一撃が降りかかってきた事により、互いに距離を取ったはいいが。
次に彼が口にした言葉に、スタークだけでなくフェアトまでもが唖然とする事となる。
「何しろ俺は──【始祖の武闘家】、キルファ=ジェノム様の一番弟子なんだからな!」
「「……はっ?」」
何を言ってるんだこいつは──……と。
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