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勝ったり負けたり見抜いたり

 制限時間は半日、数時間以内にと言われるよりマシだったが、それでも時間は少ない。


 何しろ先程の従業員を通して伝えられた指定額は、スターク、ティエント、ポーラの軍資金の殆どを足して始めて到達し得る金額。


 正直、半日でも短いくらいではある。


 だが弱音を吐いている暇などない。


 ひとまず全員の軍資金を確認した後、時間がないとは分かっていつつも、メインホールに併設された酒場にて作戦会議を開く三人。


「──……最初は別行動でいこう」


「何でだ?」


 三人の中では最も博打の経験があるティエントが、まずは別々に動こうと提案したきた為、意図が掴めぬスタークは当然問い返す。


「例えば全員で一斉に同じ賭博に挑むとするだろ? もちろん勝ちゃあ大儲けだが、もし負けたら全員の軍資金が同時に減る。 『ハイリスク・ハイリターン』って言やぁそれまでだけどよ、まずはリスクを減らしていこうぜ」


「……性に合わねぇ」


「いや、まぁ……なぁ?」


 するとティエントは、せめて最初からリスクを犯すような事は避けたいという旨の説得を試み、そんなチマチマとしたやり口は気に入らないと愚痴をこぼすスタークに、ティエントは同意を求めて隣のポーラに話を振る。


「私も彼に賛成です。 負けのリスクもそうですが、そもそも単純に時間の無駄ですから」


「……へいへい、わぁったよ」


 それを受けたポーラは、『時間の無駄』という尤もらしい理由で彼に同意してみせた。


 ……きっと、そこには別の意図が含まれているのだろうとは分かっていたものの、ティエントは結局それを口にする事はなかった。


「その代わり、お前ら絶対勝てよ? 『スっちゃいました』なんて報告いらねぇからな?」


「あぁ任せとけ、この嗅覚はなに誓うぜ」


「……善処します」


 そして、『そんな啖呵切ったからには』と半ば脅迫するような目つきをしたスタークからの命令じみた言葉に、ティエントは割と自信ありげに、ポーラが細々とした声で返し。


 それぞれが別の賭博へ挑む為、散開した。











 ……というのが六時間前の出来事である。


 ──では六時間後となる今の状況は?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「──……で、()()()()か? えぇ?」


「「……」」


 さも年齢も立場も最も高い位置にいるような口ぶりで問い詰めるスタークの前には、しゅんとした様子のティエントとポーラと、そして元より明らかに増えているティエントの軍資金と、どう見ても減っているポーラの軍資金となる貨幣が机に並べられていた──。


 ──……この六時間で何が起こったのか。


 まぁ端的に言ってしまえば。


 スタークとティエントは割と大勝ちし。


 ポーラだけが一人、惨敗していたのだ。


 ここで催されている全ての賭博では、ほぼ暗黙の了解としてイカサマが行われている。


 ディーラーも、ギャンブラーも皆一様に。


 そして片方が、もう片方のイカサマを見抜く事でも、その賭博に勝利する事ができる。


 ティエントはともかく、ほぼ全ての賭博が初見のスタークにとってこれは僥倖だった。


 最初の一回は何もせず静観し、その後のディーラーの動きに違和感があれば指摘する。


 隣に座るギャンブラーたちのイカサマも。


 スタークは、まともなやり方ではなく『イカサマを見破る』方に楽しみを見つけたらしく、この賭博場の明るさを我慢しながら目を凝らし、そして勝ちを重ねていったようだ。


 ティエントは持ち前の嗅覚にて、ディーラーから嘘の香りを感じ取る事ができる為、普通に勝てるなら勝ち、もしイカサマをされている状態で敗色濃厚なら指摘を繰り返して。


 スタークにほんの少し届かない程度の金を稼ぎ、目標の達成に貢献したわけだが──。


 ──……では、ポーラは?


()()()()子供ガキの小遣いか? あ?」


「……申し訳、ありません」


「初めて、だったのか? その、賭博は……」


「……はい」


 どうやら賭博そのものが生まれて初めての事だったらしく、スタークの言葉通り机には少し多めの子供の小遣い程度の貨幣しか積まれておらず、ポーラは顔を伏せて謝罪する。


「だったら始めっからそう言えよ。 報告・連絡・相談なんざ、あたしでも知ってんぞ? そんなんで勤まんのか? 近衛師団副団長って」


「お、おい……!」


 そんな中、消沈する彼女を宥めるように話しかけたティエントの気遣いを尻目に、スタークが『あたしでもやれんじゃねぇの』と完全に近衛師団を舐めきった発言をした事で。


 一触即発なんて勘弁してくれよ──と、あわあわし始めていたティエントの隣の席で。


「──……せん」


「あ?」


「……貴女にだけは、そんな事を言われる筋合いはありません……っ、()()()()と似ても似つかぬ粗雑で野蛮な貴女にだけは……!」


「は……?」


「ちょ、おい二人とも……!」


 彼が危惧していたポーラの感情──特に失望の感情が強い──の爆発が起こり、ここが賭博場に併設された酒場であり人目もあるという事も忘れて怒りを発露する中、スタークはいまいち要領を得ていない様子だったが。


「……親父の事を言ってんのか? 悪ぃが、あたしは親父の性格どころか顔も知らねぇ。 瓜二つだの何だのは、お前らが勝手に言ってる事だろうがよ。 自分てめぇの無能を棚に上げんな」


「っ、貴女は……っ!!」


 割とすぐ、かの英雄が自分の父親である勇者を指していると察したものの、『そんなのは自分と勇者とを比べているお前らの身勝手な感想だろうが』、『そもそも話を逸らしてんじゃねぇよ』と反論を許さない勢いで畳み掛けてきた事で、ポーラは更に歯噛みする。


 幸い、ここが酒場であり周囲の人々が酔っていた事も、『勇者』という単語が出てこなかった事も相まって騒ぎにはなってないが。


「お、おいおい! こんなとこで仲間割れはやめろ! この後にゃ並び立つ者たち(シークエンス)との戦いだって控えてんだ! ひとまず落ち着けって!」


「「……」」


 だからといって、この言い合いが原因で賭博場を追い出されるような事があっては、そもそも並び立つ者たち(シークエンス)との戦いを前に機会そのものを失いかねないと二人を諌めるも、スタークとポーラは互いに互いを睨みつける。


(くそぉ、ちょっと無理言ってでもフェアトに同行すりゃ(ついてきゃ)よかったか……!? まさか、ここまで水と油とは思わねぇじゃねぇかよ……!)


 自分をよそに火花を散らす二人を見て、フェアトについていっていればこんな面倒はなかったのではとティエントが後悔していた。


 ──……その時。


「──おーい! 犬獣人のあんちゃん!」


「……ん? あんた、さっきの……」


 遠くの方から、ほんのり酔った感じの声を上げて寄ってきた壮年の男性に、ティエントがふとそちらを向いて顔を確認したところ。


 その男性は、つい先程にティエントと同じ卓で賭博に挑んでいたギャンブラーだった。

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