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もしも自分が普通だったら──

 一方その頃、フェアトたちは──。


 チラッと序列一位の姿をフェアトが視界に映してから数分後、街の広場に出たのだが。


「──……何ですか、これは……っ」


『予想以上だねぇ……』


 その広場には、もはや足の踏み場もないと思えるほど雑多に敷かれた布の上に寝かされたパラドの住民たちが虚空を見つめており。


 姉が野盗相手に散々暴れた後の惨状や、これまでの長い生涯で見たどのような疫病の被害とも違う光景に、スタークやフェアトは口を覆ったり目を閉じかけたりしてしまった。


 ……もし、もしもだ。


 それら全てが遺体であったなら、まだ諦めの感情の方が上回ってくれたかもしれない。


 しかし、こうして広場にいるという事は。


 まだ生き長らえているという事なのだ。


 ……もし亡くなっているのだとしたら。


 どの街にも当然のように在る墓地に埋葬され、すでに別れを済ませている筈だからだ。


 もしそうなら、どれだけ良かっただろう。


 今はもう楽になれる(死ねる)だけマシなのだから。


 苦しげに息を切らす者、断腸の思いで壊死した手足を切断した者、植物状態となって先述の通り虚空を見つめる事しかできない者。


 ここにいる者は皆、不運だっただけ──。


『……何か思い出しちゃったよ、あの頃を』


『奇遇ですね、ガウリア殿。 私もですよ』


 かつての魔族との戦いでも数多く設営されていた野戦病院と大差ない、あまりにも凄惨極まる光景に、ポールやガウリアが当時の過酷さを嫌でも想起させられている中にあり。


『まぁ驚くなって方が無理だわな。 これが今のパラドの街だ、かつての【美食国家】有数の歓楽地。 とてもそうは見えねぇだろうが』


 この街に派遣された魔導師団の長、アイザックは決して他人事だという感情からくるものではない溜息をこぼしつつ、かつての栄華はどこへやらといった一見すると投げやりにも聞こえなくはない発言に対し、ポールは。


『私も報告は受けていたが、ここまでとは思っていなかった。 アイザック、こんな事は言いたくないが──……対策は打ったのか?』


 彼は悪くないと分かっていながらも、これほどの惨劇を発生させる前に対策を講じる事はできなかったのか、もしくは講じる気がなかったと半ば問い詰めるような形で睨むが。


『……言いたい事ぁ分かる。 だが、これでも俺たちは全力だ。 不眠不休のやつらも一人や二人じゃねぇんだよ──まぁ言い訳だがな』


『……すまない』


『気にすんなって』


 ポールの性格をよく分かっているアイザックは機嫌を損ねる事なく、また自らの言い分が全て『何もできなかった者』の戯言である事も自覚したうえで苦笑いを浮かべていた。


 ……もしも彼を始めとした魔導師団が派遣されていなければ、おそらく早晩パラドが滅んでいただけならまだしも、この街だけでは飽き足らず【美食国家】そのものが悪意の塊かのような疫病に侵されていただろう──。


 ポールもまた、それを理解していたからこそ、こうして素直に頭を下げたのであった。











 ──……と、まぁ男同士の友情も良いが。


 正直、フェアトはそれどころではなく。


 この惨状を見て、ほんの一瞬とはいえ思考を持っていかれかけたというのも事実ではあるものの、やはり彼女の脳内を占めるのは。


(……どうやって会えばいいんだろう……)


 序列一位、アストリットの事ばかり。


 ……ここだけ見ると、まるで恋する乙女のようにも見えなくはないが、相手は元魔族。


 そもそも、フェアトには想い人がいるし。


 ──……閑話休題。


 どうやって会えばいいのかとフェアトは悩んでいるが、アストリットの称号の力があれば、その程度の悩みは簡単に解消できる筈。


 しかし、それを伝えようにもアストリットの【全知全能オール】では、フェアト自身の声や行動はもちろん、フェアトが書き記したメモなどがどこにあるのかを知る事さえできない。


 フェアト以外の事なら全て分かるのに。


 それこそ、この街を侵している疫病を振り撒く序列四位の詳細についても──きっと。


 ……いや、そもそもだ。


(アストリットに会う事は、ガウリアさんやポールさんに知られちゃいけない──……よね)


 この街で約束を果たすにしても、ここまで一緒に来て、ここからの数日間も一緒に行動するだろう二人が、ここに来て障害となる。


 こう言っては何だが──……邪魔なのだ。


 姉と違って人当たりの良いフェアトは、そんな事は口が裂けても言わないが、それでも思うだけなら自由だとばかりに溜息をつく。


 確かに二人は双子の事情を知っているし。


 ある程度、信用はしてくれているだろう。


 特に、ポールは聖女に瓜二つであり性格も素行も悪くはない自分を疎んではいない筈。


 彼の妹であるポーラにしてもそうだ。


 ……だが、スタークの場合はどうか。


 世界で一番大切な姉であり、そして憎からず想っている相手でもあるスタークを悪く言いたくはないが、あの素行と性格では初対面で好印象を持てという方が無理というもの。


 かの勇者に瓜二つなのもマズかった。


 もしも、ここで『序列一位との約束があるんです』なんて言ってしまえば、スタークに向けていた不信感が自分にも向きかねない。


 ……多分そうはならないとも思っている。


 ポールは彼女に優しいし、ガウリアは傭兵にしては真面目で柔軟な思考の持ち主だし。


 ちゃんと説明すれば納得してくれる筈。


 が、しかし──。


(……こんな場所で、リスクは負えない)


 万が一、二人と戦闘するという最悪の事態になった場合、疫病に侵された街の人々を巻き込まないように戦うなんて事はできそうにないし、あちらだってやりたくないだろう。


 そんな無益な戦いは絶対に回避したい。


(……五日後、何らかの理由づけをしてから別行動。 私がやるべき事は色々あるけど──)


 ゆえに五日後、どこかしらのタイミングで抜け出しつつ序列一位と合流、一日だけ自分を好きにさせるという約束を果たすべく、それまでにやっておく事はいくらでもあるが。


 何はともあれ、まずは──。


「──……ト。 おーい、フェアト?」


「え、あ? 何です?」


「あのアイザックって男が宿を押さえてくれたらしいよ。 ひとまず今日は休もうってさ」


「そう、ですか。 分かりました」


 そう考えていた彼女の思考を遮る、アイザックが宿を取ってくれたというガウリアからの声に、フェアトは何とも心のこもっていない返答をしてから追従するように歩き出し。


(……まずは、()()かな。 頼むよ、シルド)


『りゅ?』


 ひとまず最初にやるべき事は、シルドの働きが重要になってくるのだと暗に視線で伝えるも、シルドは何も分かってなさそうに指輪の状態のままで短く疑問の鳴き声を上げた。

短編、初挑戦です!


竜化世界の冒険者〜天使と悪魔と死霊を添えて〜


https://ncode.syosetu.com/n7911hv/


史上最短で史上最強の座に到達した若き女冒険者、〝ユーリシア〟が天界・冥界・魔界のNo.2となる美女たちをお供に多種多様な竜を討伐しながら世界を巡る冒険譚です!!


続きが気になると少しでも思っていただけたら、ブックマークや↓の☆からの評価をどうぞよろしくお願いします!!

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