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叶わぬ懸想と報告と

「──……命を救われた、ですか……」


「えぇ、その通りです」


「それは、どういう経緯で……?」


 昔、妹とともに勇者一行に命を救われたと語る彼に、フェアトは先を促すが如く問う。


 尤も、ディーリヒトやレイティアはその為に神々から選定され勇者や聖女になったのだから、それについては疑問に思う事もない。


 しかし、フェアトが気になったのはそこではなく、どういうわけか彼の瞳や言葉に()()()()を感じ取ったからであり、だからこそ確認せずにはいられなかったというわけだが。


「……そうですね。 あれは──」


 フェアトの思惑通り、ポールは駱駝車の速度を一定に保ちつつ過去を語り始めた──。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 それは、ポールの言葉通り十六年前の事。


 当時、世界の全てを掌握せんと蠢いていた存在──魔族の脅威は【美食国家】にも大きな打撃を与えており、それこそ食糧を確保する為にと魔族の大侵攻を受けた事もあった。


 もちろん、その時にはすでに女王であったファシネイト自身も、まだ一介の近衛兵でしかなかったポールやポーラ、そして騎士団や魔導師団や冒険者たちを率いて前線に立ち。


 性別・年齢・種族さえ問わず女王の下に編成された『連合軍』は、ありとあらゆる手段を用いて魔族たちを退けようと奮闘したが。


 有象無象の名もなき魔族はともかく、その後に現れた同じ名もなき個体とは思えないほどの圧倒的な力を持つ魔族によって壊滅し。


 一時は魔族の支配下にまで堕ちたという。


 ちなみに、その圧倒的な力を持つ個体こそが、のちに序列三位として【一騎当千キャバルリー】の称号と、セリシアという名を授かる事となる魔族だった事は、ファシネイトしか知らない。


 その後、役目を終えて【美食国家】を後にしたセリシア以外の名もなき魔族たちによる蹂躙が始まり、ほぼ全てのオアシスが魔族に占有されるとともに、この国でしか得られない食材の殆どを魔王軍に献上させられ──。


 もはや、そう遠くないうちに国が滅びてしまう事は誰の目にも明らかだった為、女王が生き残った国民に向けて『自分たちとともに最期の抵抗を』と呼びかけ、およそ数万人もの民が命を賭して魔王軍に特攻していた時。


 神々からのお告げによって【美食国家】の危機を知った勇者一行が颯爽と現れ、すでに返り討ちに遭いかけていた国民たちを救い。


 その戦場に居た全ての魔族を、たった数人で殲滅するのを見ていた近衛兵や騎士団、魔導師団や冒険者、そして何より女王ファシネイトは心から勇者一行に感謝の意を示した。


 そしてファシネイトは勇者や聖女、及びその仲間たちと友になり、もし何かあれば今度は自分が必ず力になると誓ったらしく──。


 こうして今、勇者と聖女の双子の娘たちに対して協力を惜しむような姿勢を見せないのも、その時の誓いがあってこそなのだった。











 ──……閑話休題ところで



 何故、ポールの瞳や表情に妙な翳りが?


 何故、ポールとポーラは二人してスタークに失望の念を込めた視線を向けていたのか?


 といった最重要な疑問が、ここまでの回想だと全く解決されていないが──……実は。


 その美貌ゆえか、およそ数十体にも上る名もなき魔族たちによって穢されそうになっていたポーラは、勇者ディーリヒトの一閃で。


 その強さゆえか、たった一人に百体近くもの戦力を宛てがわれた事で死の淵に立たされていたポールは、聖女レイティアの魔法で。


 それぞれ直々に尊厳と命を救われていた。



 もう、お分かりだろうか──。



 かたや女性としての尊厳を守られ、かたや死の淵から引き戻され──……まして、その二人は目も眩むほど美男美女の勇者と聖女。



 ……惚れるなという方が無理だったのだ。



 しかし、ご存知の通り勇者と聖女は旅を続けていくうちに互いへの想いを募らせ、それこそ相思相愛としか言えないほどの両想い。


 そして、それは勇者の仲間たちだけでなく外から他人の瞳を通して見ても非常に分かりやすかった為、二人もすぐに察してしまい。


 結局、一目惚れにも近い懸想は懸想のままに、ポールたちは想いを告げられなかった。


 ポールの表情や声音の翳り、ポーラも併せたスタークへの失望を込めた視線の理由は。


 聖女レイティアに瓜二つな容姿のフェアトに、『貴女の母親に惚れていた』などと暴露するのは不誠実極まると分かっていたから。


 そして、あの世界の希望とも言えた勇者に瓜二つな容姿をしていながら、あのような非常識極まる少女が娘などは信じられなかったから──……というところであったようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「──……と、いった事があったのですが」


「……なる、ほど……」


 そんな過去の話を数分ほどかけて聞かされたフェアトの表情は、やはり明るくはない。


「ま、実の娘の前でする話じゃあないねぇ」


 その理由はガウリアの一言に全て詰まっており、レイティアそっくりなフェアトからしてみれば複雑な心境になるのも無理はなく。


「……申し訳ありません、フェアト殿」


「え? あぁ、まぁ──……うーん……」


「「?」」


 今さら感は拭えぬものの、ポールは半身を返しつつ誠意を持って頭を下げて謝意を示したが、フェアトから返ってきたのは上の空としか形容しようのない中身のない返事だけ。


 そんな少女の様子に、ポールとガウリアが顔を見合わせて互いに疑問を抱いていた時。


(娘の私から見ても、お母さんは美人だし。 お父さんの顔は──……まぁ見た事ないけど本当に姉さんにそっくりだっていうなら、ポールさんの気持ちも分からなくはないしね……)


 当のフェアトはといえば、ようやく解消された疑問についてを脳内で掘り下げつつ、かの勇者や聖女には互い以外にも惚れた者が居た、という事実自体は受け止められていた。



 ……自分だって姉に懸想しているのだし。



 立場的には、ポールともポーラとも大した差はないのだと彼女自身が最も理解していたというのは、もう言うまでもない事である。



 それから彼の話が一段落ついた頃──。



「──……あぁそうだ、聖女様といえば」


「「?」」


「一つ、フェアト殿にお伝えしたい事が」


「……何です?」


 しばらくの間、極駱駝ごくらくだに任せて自分は殆ど振り向いていたからかポールが前を向いたまま、フェアトに伝えておきたい事があると口にした事で、そんな彼に先を促したところ。


「実は一ヶ月ほど前に、すでに完全封鎖状態ロックダウンとなっていたパラドへ女王陛下の許可もなく押し入って居座り続けている団体がおりまして。 本来ならば即座に強制退去、従わぬ場合は刑罰の適用も辞さない筈なのですが──」


「女王陛下は何と?」


 およそ一ヶ月ほど前の出来事、疫病の伝播を危惧した女王陛下が領主と【コール】で話し合った結果、完全封鎖状態ロックダウンとすると決めた筈のパラドに無許可で入街した団体がおり──。


 王族の決定である以上、従わなければ重罪となる筈のその団体は、どういうわけか今もパラドに居座り続けているらしく、その辺り女王はどう考えているのかと聞いてみると。


「……『()()()()()()()()()()()()()()のなら、それを無碍にするわけにもいかぬ』と」


「……んん?」


「……まさ、か……」


「そのまさかです。 団体の名は──」


 ポールから返ってきたのは、ガウリアにとっては聞き馴染みがなくとも存在自体は確実に知っていて、そしてフェアトにとっては聞きたくもなかった『宗教団体』の存在──。



 もはや言うまでもない、その団体の名は。



「──聖神々教(せいこうごうきょう)。 聖女レイティア様のみを女神と崇める世界最大の勢力を持つ宗教です」


「っ、やっぱり……」


 十五年前の魔王との戦いの後、未だに聖女の死を認めようとしないばかりか、その存在を世界の王であり神でもあるとして全国民が崇め奉る“セントレイティア”なる国を造ってしまった、この世で最も大きく最も狂った宗教。



 聖神々教(せいこうごうきょう)であった──。

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