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女王からの依頼

 ──並び立つ者たち(シークエンス)が関係している。



 真偽のほどはともかく、そう言われてしまったからには話を聞かないわけにもいかず。


「──……詳しく聞かせてもらえますか」


「おぉ、受けてくれるのかの?」


「……それが旅の目的ですので」


 内容や報酬を聞いてもいないのに前向きな姿勢を見せるフェアトに対し、ファシネイトは少しばかり意外そうに問い返すも先述した理由から断る事も難しいと判断した為、フェアトが頷きつつも女王に先を促したところ。


「うむ。 実はの──」


 ファシネイトは給仕から葡萄酒のお代わりをもらいながら、つらつら語り始めた──。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 彼女が言うところの『二つの依頼』とは。



 双子たちも滞在中の王都アレイナに次ぐ大きな二つの街を揺るがしているらしい、『とある問題』を解決してほしいとの事だった。


 そもそも、この【美食国家】に村や集落はあまり存在せず、その殆どが一定以上の資金を持ち一定以上の人間が住まう『街』である事が国色の一つだと他国にも知られている。


 何せ、この国はいつでもどこでも他国へ高く輸出できる美味な食材が獲れたり採れたりする為、基本的に貧しくならないのである。


 加えて、この国では魔物たちの食欲も他国に比べて旺盛である為、防衛力の低い村や集落では生き残れないという事もあるそうだ。


 尤も、この国に住む全ての人間や獣人や霊人たちが輸出のツテを持っているわけではない関係上、村や集落止まりの発展で滞ってしまう事も──……なくはないらしいのだが。



 ──閑話休題。



 その二つの街が、それぞれ抱える問題は。



 ──……『賭博』と、『疫病』。



 元より賭博の街である“ズィーノ”と、オアシスがあった場所に作られた街、“パラド”。


 直接的な被害を及ぼさなさそうな前者はともかく、どうして甚大な影響が出ていても不思議ではない後者を把握したうえで『今すぐでなくともよい』と女王陛下は言ったのか。


 それは──……そのどちらも、この王都アレイナにもたらす影響が微弱だからである。


 前者に関して言えば、まぁ昼なのか夜なのか分からなくなるくらい常に街中が眩しく騒がしくなってしまっているという程度だし。


 後者に関しても、まず間違いなく疫病こそ流行っているものの、その疫病で命を落とした人間や獣人は全体の一割程度なのだとか。


 ちなみに霊人は元々が精霊という存在である為、流行り病などには耐性があるらしい。


 そんなわけで、ファシネイトは『長い時間をかけて解決すれば良い』と思っていたのだが、そこに並び立つ者たち(シークエンス)が──……セリシアの元同胞が関係しているとなると話は別。


 昨夜、セリシアを王の間に残した時にその事を話し合った女王は、『あの勇者と聖女の娘たちが、こうして我が国を訪れてくれたのは何かの思し召しなのだろう』と結論づけ。


 かたや、その賭金が異常なほど高いと知っていても、どういうわけか最後まで逃れられず奴隷落ちが多発している賭博の街と──。


 かたや、その影響で命を落とす事こそ稀でも街中で呼吸するだけで感染するような高い感染力を持つ疫病に蝕まれた水の街を──。



 ──この双子に託してみる事を選んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 時間にしてみれば、およそ数分──。



「──……と、いうわけなのじゃ」


「賭博と疫病ねぇ……」


 朝食を片付け終えた食卓に【美食国家】の地図を広げたうえで語られた、ファシネイトからの依頼に関する話を聞いたスタークが何とか噛み砕いて理解しようとしていた一方。


(……多分、賭博の方は十三位だよね? そっちは何とかなりそうだけど──……問題なのは)


 アストリットのメモの全文を覚えていたフェアトは、おそらく『賭博』は序列十三位の称号──【胡蝶之夢マスカレード】という夢と現実の境を曖昧にする力の影響だと断じ、そちらはどうにでもなりそうだと一旦思考から外しつつ。


(疫病の方は、おそらく──……()()()()。 セリシアの一つ下って考えると相当な強さの筈)


 こちらも、おそらくではあるが『疫病』は並び立つ者たち(シークエンス)の中でもトップクラスの序列四位の称号──【四百四病ディジーズ】という、あらゆる病を意のままに操る力の影響であると推測し、セリシアより一つ序列が低いだけと考えれば、これまでとは比べ物にならない戦いが起こるかもしれないと悪い予感を抱く中で。


(……何で南にばっかり集まってるんだろう)


 七位との遭遇から始まって、まさかの五位や六位と迷宮で遭遇し、そして今度はそれらを上回る序列四位が待ち構える街への依頼。


 一体、何故こうも【美食国家】に序列の高い並び立つ者たち(シークエンス)が集結しているのか、とフェアトが頭を悩ませているのをよそに──。


「まぁ、とにかく依頼は受けるとして……二つあんなら手分けした方が良いんだよな?」


「そうしてくれると助かるが、良いのか?」


「単独行動しちゃいけねぇって決まりもねぇしな。 おいフェアト、お前はどっちに──」


 んー、と唸りつつも何となく話を理解できていたスタークからの、『手分けした方が良いのか』という疑問に、ファシネイトが『できればで良いぞ』と返してきた事で、どちらがどちらの街に行くかの相談をせんとした。



 ──……が、しかし。



「……どっちって言われても、もう決まってる事ですよ。 その街で呼吸するだけでも感染するっていうのに、どうやったら姉さんが疫病問題なんて解決できるって言うんですか」


「あー……そう、か……」


「では女王陛下、私たちは一足お先に──」


 そもそもの前提として普通の風邪でも死にかける姉が、どうして疫病が流行する街の問題を解決できると思うのかという、あんまりにもあんまりな正論を受けて頷かざるを得なくなった姉を見たフェアトは、『ご馳走さまでした』と口にしつつ立ち去ろうとしたが。


「あぁ待て、まだ話は終わっておらんぞ」


「「?」」


「「……」」


 どうやら、まだ女王からの話は終わっていなかったようで、そんな彼女からの声に双子が反応すると同時に、ファシネイトの後ろに控えていた二人の近衛が一歩前に出て──。


「国の問題じゃというのに、この国の者が誰一人として力を貸さぬというのはのぅ。 ましてや其方らは妾の友人の娘、万が一という事も考えて──……()()()をつける事にした」


「此奴らって──……その二人か?」


 先の二つの街は、どちらも【美食国家】に属しているのだから、この問題の解決にこの国の人間が参加しないというのは不甲斐ないにもほどがあると判断したようで、この二人の近衛兵を同伴させてほしいと頼んできた。


 スタークの目から見ても【魔導国家】の騎士団長より強く、【魔導国家】の近衛師団長と同程度の力を持っているように見受けられたその二人は貴族然とした一礼を見せつつ。


「──“ポール=レンガード”と申します」


「──“ポーラ=レンガード”と申します」


「ご兄妹、ですか?」


「貴女がたと同じ、双子でございます」


「以後お見知り置きを」


「……よろしく、お願いします」


 似たような名前と顔、全く同じ家名と全く同じ色の髪と瞳の双子の兄妹──兄のポールは切れ長で緑色の瞳に紅色の短髪、妹のポーラは垂れ気味で緑色の瞳に紅色の長髪──だと明かした事で、フェアトは親近感を抱くとともに、『双子とは本来こうあるべき』という姿を見せられた事により少し気落ちした。


 顔立ち以外は似ていないのだから無理もないとはいえ『双子でも何でもない』という幻聴さえ、どこかから聞こえた気がしたから。


「此奴らは“エルド近衛師団”の師団長と副師団長。 ()()()()()()()()()、この国の最高戦力じゃ。 どうか役立ててやってほしいのう」


「それは……まぁ、ありがたいですね……」


 翻って、ファシネイトはフェアトの若干沈んだ心にも気づかぬまま、この二人の役どころが【美食国家】の誇る最強集団、シュロス近衛師団の長とその腹心なのだと明かした事で、『まぁ心強いのは間違いないけど』とフェアトが複雑な心境を抱えていたその一方。


(……女王を除く? まるで、こいつらより女王の方が強ぇみてぇな言い方に聞こえるが……)


 ファシネイトが何気なく口にした、『女王である妾を除く』という言葉に違和感を覚えたスタークは、いつもの悪い癖を発揮して女王の強さを確かめたくなっていたようだが。



 ──……まぁ、それはそれとして。



「……なぁ、それ俺らも行っていいか?」


「王直々の依頼、報酬も期待できるしね」


「……私たちは構いませんが──」


 ここまで完全に蚊帳の外だった二人、ティエントとガウリアが、『正義の為』と『金の為』という、それぞれの理由から自分たちも双子とともに依頼を受けていいかと口にし。


 正直、近衛兵一人だけに同伴してもらうのは気まずかったフェアトとしては願ってもない提案だった為、ダメ元で女王を見遣った。


「構わんよ。 人手が多いに越した事はない」


 しかし彼女の予想に反し、ファシネイトはあっさりと二人の同行も認め、『命の保証はできかねるがの』と付け加えたうえで、ようやく話を終わらせようとした──その瞬間。











「──だったらぁ、この俺も連れていけぇ」


「「!」」


 おそらく【ジャンプ】か何かで転移してきたのだろう、いつの間にか王族専用の食卓に許可もなく入り込んでいた何某かの太い声が響く。



 そこに居たのは、もはや言うまでもなく。



「グルグリロバ……一体、何用じゃ?」



 グルグリロバ=ステイン──。



 ──……【鎧を着た怠惰】だった。

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