物言わぬ元魔族
「──この刀が並び立つ者たちだと!?」
「……あぁ」
双子にとっては紛れもなく衝撃的な事実だというのに、さも何でもない事であるかのようにスタークの言葉を受けて頷くセリシア。
女王陛下も同席する晩餐会の場でさえ取らなかった外套のせいで、その顔は双子からは分からないが、おそらく無表情なのだろう。
「そりゃ炎だの猫だのって前例があっから呑み込めなくはねぇが──いや、それより!」
「えぇ、これの序列は?」
翻って、スタークは旅の最中で遭遇した異形なる並び立つ者たちのうち、序列二十位と序列十二位の事を──まぁ序列も名前も覚えてないようだが──思い返しつつ、この刀自体の序列はという抱いて当然の疑問を持ち。
同じタイミングで、同じ疑問を抱いていたフェアトが、セリシアに尋ねてみたところ。
「……二十三位だ」
彼女から返ってきたのは随分と低い順位。
「……二十三? ほぼ最下位じゃねぇか」
流石に、その順位が低いという事は理解できていたスタークは、おそらく総合で二十六体だという事も記憶できているのだろう発言をしたが、フェアトの意見は異なるようで。
「……いえ、XYZの存在を考えたら──」
並び立つ者たちの下から三体、序列一位はおろか魔王でさえ手を焼いていたという異形の魔族たち──……XYZしか下にいないと考えると、セリシアの言う序列二十三位とは。
「──事実上、並び立つ者たち最弱となる」
有象無象の名もなき魔族を除いた、カタストロ率いる魔王軍最弱の魔族ではないのかというフェアトの疑念を、セリシアは肯定し。
「二十六体の中で、最弱の魔物……」
「じゃあ、どうにでもなるな──」
その事実を呑み込み、そして理解する為に反復した妹の言葉を聞いたスタークは、『大した事ぁねぇのか』と溜息をこぼしかけて。
──やめた。
「──……とは、いかねぇんだろ? どうせ」
「……」
これまで彼女が出くわした並び立つ者たちは皆、序列に関係なく強者揃いであったし。
多少の開きはあっても、どうせ厄介な力を持っているんだろうという彼女の問いに、セリシアは無言で首肯する事を以て解答する。
「それが外聞すべきではない話なんですね」
「あぁ。 これが魔族だった頃の称号は──」
そして、この刀に関する話こそが彼女の言う『他には聞かせられない話』だったのだろうと納得したフェアトの言に、セリシアは頷いてからテーブルに置かれた刀を見遣って。
「──【大願成就】。 願いを叶える力だ」
「願いを……」
「叶えるだぁ……? いかにも胡散臭ぇ──」
その刀に宿る力が、【大願成就】という名の願いを叶える力を持つ称号だと真剣な声色で明かすも、そんな抽象的で疑わしい能力が本当にあるのかと双子は疑問を抱いていた。
「──……って言いてぇとこだが、お前ら魔族の力となると事情は変わってくるわなぁ」
「そう、ですね……詳しく聞いても?」
「構わん。 その為に来たのだからな──」
だが、そもそも並び立つ者たちとは魔王から称号を賜る事で特殊な力を得た魔族の事。
これまでの中で一番ふわっとした力だとしても、きっと魔族以外の種族に災いをもたらす類の厄介な力なのだろうと推察したうえで先を促すフェアトに、セリシアは口を開く。
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──その魔族は、どの同胞より弱かった。
内在する魔力量も少なく、その体躯も枯れ木のように細く頼りないときており、もちろん戦闘では何の役にも立つ事はなかったが。
どういうわけか、その魔族は生き残る。
序列十位のように元々膂力や体格で優れていたわけでもなく、序列二十二位のように名もなき同胞から慕われていたわけでもない。
それなのに、どんな規模の戦場に向かわせても最終的には生きて戻ってくる、その魔族の異常性に最初に気がついたのが序列一位。
そして、【全知全能】の称号を賜る前から魔王と肩を並べるほどの地位と、それを裏付けるだけの力と知能を有していた彼女は、その名もなき魔族を徹底的に調べる事にした。
およそ一月ほどかけた調査の結果、彼には他の同胞にはない『とある習慣』があると判明し、それこそが生き残る理由だと断じた。
その、とある習慣とは──……『祈り』。
そして、その祈りが向かう先は──神々。
魔王カタストロが神々に弓引く存在である以上、彼が生み出した魔族たちもまた神々を厭い、ましてや祈りなど捧げるわけもない。
しかし、その魔族は誰に言われるでもなく誰に聞かせるでもない祈りを神々に捧げ、いかなる戦場でも生き残れるようにと祈願し。
その願いが成就したのかしていないのかは未だに不明瞭ではあるものの、どれだけ弱くとも、どれだけ傷つけられようとも必ず最後には生き残り、カタストロの下へ帰還する。
彼の願いは聞き届けられていたのだ──。
それを直感したアストリットは、カタストロが編成しようとしていた並び立つ者たちの中に、まず間違いなく分不相応である筈の彼を推薦し、XYZを除き最弱の位置につかせ。
アストリットから調査結果を聞いたカタストロは、その魔族に対して『祈りの向かう先だけを変えれば良い』と大した叱責もせず。
“ウィード”という名と【大願成就】の称号を与え、並び立つ者たちへの参入を認めた。
神々へ祈る事をやめた影響か成就する確率が格段に下がり、その代わりに自分以外の願いも叶えられるようになった能力を携えて。
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「──……自分以外の、という事は……」
フェアトが気になったのは彼女の話の終盤に出てきた、『自分以外の願い』という点。
その言葉が真実だと言うのなら、この刀を持つ者の願いが叶えられる事にならないか。
……かの魔王は、そんな馬鹿げた力さえ同胞に与えてしまえるほどの存在だという事にならないか──……と色々な疑問を抱く中。
「この刀には意思も意識もない。 だが、ウィードである事は紛れもない事実。 触れた者の願いを叶える力がある事もまた──事実だ」
「意思も、意識も──無機物への転生……」
セリシアは、まだ言葉にもなっていなかったフェアトからの疑問に対し何でもないかのように『所有者の願いを叶える力』があると明かし、またウィードの意思自体はこの刀には存在しないと語った事で、フェアトは何となくだが彼が魔族だった頃の事情を察する。
(……嫌気が、差した──……のかな……)
誰よりも弱かった筈の彼が並び立つ者たちに選ばれ、そして『願いを叶える力』なんてものを引っさげてきたのなら、それを名もなき同胞たちが利用せんとする事もあり得る。
(魔族も人間と大差なかったんだろうな……)
散々利用されただけされて、『もう叶ったから要らねぇ』と使い捨てられるという見た事もない魔族の姿が目に浮かぶようで、フェアトは何だか居た堪れなくなってしまった。
その推察が大正解だとは知る由もない。
「……待てよ? じゃあ、これを使やぁ──」
一方、明らかに良からぬ事を考えていると分かる表情を浮かべたスタークが、『よいしょ』と身を乗り出しつつ刀に手をかけた時。
「……忠告しておくが、『並び立つ者たちを消し去る』などという願いが叶えられる事はない。 【大願成就】にて瞬時に叶えられるのは、その者が自力で叶えられる範囲限定だ」
スタークの考えを読みきっていたセリシアから、【大願成就】で叶えられる願いの限界を知らせる旨の言葉が発せられており、そこに込められた『お前に並び立つ者たちの殲滅は不可能だ』という意図に気づいた彼女は。
「……あたしにゃ無理だって言いてぇのか」
「私やアストリットに勝てるか?」
「……ちっ」
身を乗り出した姿勢のまま、セリシアを脅すようにして真紅の瞳で睨みつけたが、そもそも彼女より強いセリシアや、そのセリシアよりも更に強いアストリットに勝てていないという事実がある以上、何の反論もできず。
ただただ舌を打つ事しかできなかった。
尤も、『殲滅』は不可能なのであって『数体かの討伐』自体は成してきているし、それに気づく事ができれば反論できたかもしれないが、スタークでは無理からぬ事であった。
「それで? これを見せてどうしたいんです」
「……あぁ──」
それから、フェアトが話の流れを修正するべく『こほん』と咳払いした後、刀に目線を遣りつつ最終的に何が言いたいのかと問う。
すると、セリシアは一呼吸置いてから。
「──これを、くれてやろうと思っている」
「「……は?」」
……と、よく分からない事を言い出した。
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