再会と想起と
──煌びやか。
またしても、フェアトはそう思わされた。
何しろ彼女を含めた一行は今、待機するようにと止められていた城門の先にある、この国の王が座す場所──宮殿にいるのだから。
ところどころに光属性の魔力が込められた魔石──というより宝石に近い装飾が散りばめられ、もう夜も近いというのにどこもかしこも眩いほどに明るく、とても一般家庭では不可能な魔力と技術、そして予算が注ぎ込まれているのだと否応にでも分からせられる。
「まさか俺が宮殿に入る日が来るとはなぁ」
「あたいもだよ、長生きはしてみるもんだ」
「百五十年生きといて初かよ、凄ぇな逆に」
「褒めてんのかい? それは」
「……そう聞こえんなら【癒】が必要だな」
自分たちが置かれた状況を噛み締めながらも軽口を叩いたりする、冒険者と傭兵──。
「……駄目だ、めっちゃ目ぇ痛い……」
「……魔石の光でもですか?」
『りゅあ』
(あぁ、悪ぃなパイク……)
『りゅー?』
(え? あぁ、私は大丈夫ですよ。 シルド)
あろう事か、どう考えても攻撃用ではない光でさえ、あまりの眩さに目の奥が痛くなる勇者似の姉を労わる聖女似の妹を見て、それとなく【光癒】で治してやろうとする神晶竜の姉と、無用な心配をする妹──などなど。
何故、【魔導国家】の王族に謁見した事があるというだけの双子が、こうして宮殿へ足を踏み入れる事ができたのかというと──。
──……時は、ほんの少しだけ遡る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは、ちょうど衛兵からセリシアとクリセルダ以外が待機を命じられた、その直後。
不意に衛兵の詰所から姿を現したテオとカクタスを見て、セリシアとアルシェ以外の一行はお互いの無事を喜んでいたものの──。
「──……何故お二人がここに……?」
「……あぁ、その事なんだが──」
「?」
という抱いて当然の疑問をぶつけずにいられなかったフェアトの声に、どういう心境からか二人は表情に僅かな呆れと怒りを浮かび上がらせており、そんな二人の様子に違和感を覚えたフェアトに対し、テオは口を開く。
「──すまない、スターク。 それに、フェアトとガウリア。 ティエントとクリセルダも」
「……何の謝罪だよ」
一体、何に対して謝っているのかも明かさぬままに、スッと目を伏せて一行に謝意を述べた彼に、スタークが欠伸しつつ尋ねると。
「……先の魔奔流収束の手柄の、その殆どがイフティー騎士団に──……というより、あの【鎧を着た怠惰】に奪われるかもしれん」
「えっ!? 団長にですか!?」
何と、つい数時間前に収束したばかりのあの魔奔流騒動の立役者が、どういうわけか後から来ただけの怠惰かつ傲慢な騎士団長、グルグリロバになってしまうかもしれないらしいという事実をカクタスが引き継いで語り。
呆れて物も言えないが、とりあえず驚く事はできていたクリセルダが目を見開く一方。
「「団長……?」」
「……まぁ知らないわよね。 えぇと──」
そもそも、この国が誇る騎士団の長の事など知る由もない双子は首をかしげる事しかできておらず、そんな二人を見て事情を察したアルシェが知る限りの情報を渡さんとする。
「──……我々も暇ではない、こちらの用件を先に済ませたいのだがな。 一番隊隊長殿」
しかし、それを遮ったのは今まさにセリシアを連れて城門を通ろうとしていた衛兵の一人であり、この中で最も権力のある騎士団の一番隊隊長、要はテオに対して『後にしてくれないか』と暗に告げてきたはいいものの。
「……あぁすまないな。 だが今も言ったように魔奔流の手柄は団長一人がもらい受ける事になるかもしれない、そうなればお前は向かわない方が身の為だと思うぞ。 クリセルダ」
「そう、ですね……それじゃあ私も待機で」
「……了解した。 セリシア殿──」
軽い謝罪はありつつも、たった今の話にもあったように手柄はおろか報告そのものもあの【鎧を着た怠惰】が、テオやカクタスから傭兵の詰所で聞いた内容をそのまま王へ流すだろうと口にし、ゆえにクリセルダの同行は無用の筈だという上司からの指示を、クリセルダは素直に受け入れ自分も待機をと言い。
同じ宮仕えとして、その苦労は痛いほど理解できた衛兵たちは、テオとクリセルダの判断を是とした後、改めてセリシアのみを連れて城門を通り王の御前へ向かわんとしたが。
「──その双子も同行させろ、そうでなければ御前には向かわん……これは絶対条件だ」
「なっ、そ、それは流石に……!!」
「セリシア殿、どうかご勘弁を──」
何故か、セリシアはスタークとフェアトも一緒でなければ王への謁見はしないと命令じみた発言をしており、いくら何でも素性の知れないばかりか他国の王族と謁見済みなどという不可思議な経歴を持つ双子を黙って通すわけにはいかない衛兵たちが宥める一方で。
(何だあいつ、あたしらの何を知って──)
どうしてそこまでして自分たちを同伴させようとするのか、セリシアの意図を掴めないスタークが、こてんと首をかしげていると。
(……は? あいつが並び立つ者たち?)
ふるり、と自分が背負う半透明な矛が震えた事により、セリシアが並び立つ者たちだというパイクからの忠告だと理解した彼女に。
(……一度だけ姉さんも見てますよ。 港町で)
(港町? 確か、あん時ゃ元魔族の処刑が──)
補足するように、もしくは追い討ちをかけるようにして、【魔導国家】の港町ヒュティカで彼女を見ているという事実をこっそり伝えたところ、スタークは少し上を向きながら序列九位の処刑劇についてを想起して──。
──彼女は、ようやく思い出した。
……そう。
思い出すまでは、よかったのだが。
「──……あっ!! あん時の処刑人か!?」
「ちょっ──」
何と、スタークは港町ヒュティカで見た真紅の外套の処刑人と目の前のセリシアを重ねるだけでは飽き足らず、それを誰はばかる事もなく思い切り声を大にして叫んでしまい。
フェアトの制止も虚しく、その声はセリシアへと届き、『ここでの戦闘は避けたかったけど』とフェアトが手を伸ばさんとした時。
「──……やはり、あの場にいたのか」
「!?」
「……何だと……?」
『『りゅ〜……っ!』』
変わらず無表情なセリシアの口から発せられたのは、あの処刑劇を双子が見ていた事に気づいていたという、フェアトたちにとっては衝撃以外の何物でもない事実だった──。
「……私が【美食国家】へ来たのは、お前たち双子に逢う為だと言っても過言ではない」
「ど、どういう──」
「……すぐに分かる。 それよりも──」
更には、あろう事かセリシアは自分がこの場にいるのは、この国の王に謁見する為などではなく、スタークやフェアトに邂逅する為だと口にし、それに対してフェアトが疑問を投げかけんとするも、セリシアは濁すだけ。
「……せっかくだ、【魔弾の銃士】に鉱人に獣人。 私の予想が正しければ──お前たちも訳知りなのだろう? どうせならついてこい」
「訳知りって──……まさか貴女も──」
かと思えば今度は双子から視線を外し、おそらく何の確証もないまま双子たちとの距離感だけを見て、アルシェやガウリア、ティエントなどを含めた『双子の事情』を知っている筈だと踏んだ者たちに声をかけ、そんな彼女の言葉にアルシェが何かを悟って驚く中。
「……私どもの一存では決められません。 ですので、ともかく宮殿内まではお通ししましょう。 その後は“エルド近衛師団”が判断を」
「……あぁ、俺もそれでいいと思うぞ」
「あの者たちなら問題ないだろうな」
「……いいだろう。 では行くぞ」
ごく短い間とはいえ、すっかり蚊帳の外となっていた衛兵たちにテオやカクタスは、この国の王に仕える近衛師団に判断を任せる事にしたようで、その師団に所属する近衛兵たちの優秀さを知ってか知らずか、セリシアは二つ返事で肯定しつつ、一足先に門を通る。
その後を、スタークたちもついていこうとし、そんな一行と別行動となった騎士たちと元宮廷魔導師筆頭とは、ここで別れる事になった──というのが遡る前の出来事だった。
……ちなみに、アルシェは単身シュパース諸島への出戻りをする事になってしまった。
まぁ無理もないだろう、こう見えても彼女は機密部隊【影裏】の一員であり、アルシェ以外のメンバーの大部分は、シュパース諸島の一角であるツェントルム島で働いており。
彼女は誰より早く【美食国家】の異変を察し、職務を放り出してここにいるのだから。
(訳知りって多分そういう事よね? 確認したいけど戻らなきゃいけないし──……あぁもう気になる! 後でお姉ちゃんに聞かないと!)
セリシアの発言は正直気になりまくっていたものの、これから間違いなく同僚たちや上司からのお小言をもらう筈だと考えると、それどころではないと焦るアルシェであった。
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