【美食国家】王都アレイナ
──煌びやか。
その表現が最も相応しいだろうと、フェアトは王都の門をくぐり抜けた瞬間に思った。
ただ単に舗装されるだけではなく日中の熱を吸収して、その熱を気温の低下する夜に放出する工夫が施された【土創】による街道。
その街道の両端にずらりと並ぶ、およそ魔法では製造が難しいとされる硝子製の透き通った窓を有する、一つ一つが背の高い家々。
魔奔流騒動が幕を下ろして間もないというのに意に介していないかのような笑みを浮かべて歩いたり談笑したりする、ここに住んでいるのだろう老若男女の衣服は、とてもではないがいち平民のものとは思えぬほど良質。
そして何より、まだ門をくぐり抜けたばかりだというのに鮮明に見える──あの建物。
「──あれが王城か? また随分とデケぇな」
「正確には宮殿っていうらしいけどねぇ」
「冒険者や傭兵には縁のないとこだよなぁ」
王城ではなく『宮殿』と呼ばれるらしい豪華絢爛を絵に描いたような建造物は、それそのものが美術品であるかの如く煌びやかで。
双子が訪れた【魔導国家】の王都と比較しても遜色なく、それどころか見る者によっては凌駕しているように感じるかもしれない。
……もちろん、【魔導国家】の王都が煌びやかでないとか、ここに比べれば幾分か劣るとか、そういう事を言いたいわけではない。
ただ、これまで十五年もの間あの辺境の地で暮らしていた身としては、ここまで豪華な建物が並ぶ光景に驚くなという方が難しく。
「──……何から何まで高価そう……」
誰に聞かせるわけでもない、そんな呟きをこぼしてしまうのも致し方ないといえよう。
その時、偶然にも彼女の呟きを耳にしていたアルシェは『あはは』と苦笑いしながら。
「まぁ否定はできないわね。 【魔導国家】だの【機械国家】だのと違って、この国の特色は美食。 それらの輸出で得た莫大な利益で造るしかなかった王都だもの、そのぶん絢爛にしたかったんでしょうね。 当時の人たちは」
「他国に劣らぬように、と……なるほど」
事実、大部分を魔法によって建造されている【魔導国家】の王都や、文字通り全てが機械によって構築されている【機械国家】とは異なり、『美食』という建国には向かない特色の【美食国家】では、それらの国への輸出で得た利益を用いて国を造るしかなく──。
だからこそ、それらの国には不可能な『余るほどの金をかけた建国』をしてやろうと当時の人々が決意した結果、最初に造られた場所こそが──……この、“アレイナ”だった。
尤も、その事実は歴史書などには記されておらず、いわゆる暗黙の了解のようになっている事は、アルシェも流石に口にはしない。
……この国が抱える『闇』と同じく、この国以外の人間に言う事ではないからである。
その後、統一性のない一行を王都の人々が物珍しそうに見つめる中、衛兵が振り向き。
「──では、さっそく向かいたいのですが」
「……セリシア殿、構いませんか?」
「……好きにしろ」
「はっ、では参りましょう──いいな?」
「……えぇ、私たちもそれでいいです」
荷物を置いたり身体を休めたりしたいのは重々承知の上で、なるだけ早く宮殿へ向かいたいと二人揃って告げたところ、セリシアが無表情のまま許可を出した為、衛兵たちは一応とばかりにフェアトたちにも話を振って。
どうせ向かうのならば早めに済ませておくべきだと、きっと姉も考えているだろうと判断して、フェアトは首を縦に振ってみせた。
「まーた王族に会うのか、めんどくせぇな」
「もう、またそんな事を言って──」
そうして、またも宮殿に向かって歩き出した際、先程の話を聞いていたらしいスタークが、だらけきった体勢で都合二回目となる王族との謁見を鬱陶しそうにし、それをフェアトがやんわり咎めていた、ちょうどその時。
「またって……まるで他所の王族に謁見した事があるみてぇな言い方に聞こえるが……」
信じられないものを見たような、そんな驚きの表情を浮かべたティエントが、フェアトの『また』という発言に違和感を抱き、よもやと王族との邂逅経験の有無について問う。
「……そう聞こえたなら間違ってません。 少し前に、【魔導国家】の王族に──ですね」
「……マジかよ、とんでもねぇな」
もちろん、フェアトとしても突飛な経験だと自覚しているものの、こちらの事情を把握している彼にわざわざ誤魔化す意味もないだろうと判断し、【魔導国家】の国王陛下や王女に出会う機会があったと告げ、ティエントが素直に驚きを表情と声音で表現する一方。
(……正体や目的を知ってるから、あたいは驚きゃしないけど……あちらさんはどうかねぇ)
その話を少し後ろから聞いていたガウリアは、フェアトたちの事情を知っているからこそ自分たちは大袈裟な反応をしないが、そんな事を知る由もない『あちらさん』──つまり、衛兵たちはどう思うかと懸念していた。
そして、その懸念は──……現実となる。
(……【魔導国家】の王族に謁見? 一体、何者だ? やはり、この少女たちは危険なのでは?)
念の為に、【闇強】にて聴力を強化する事で会話一つも聞き逃さないようにしていた片方の衛兵が、フェアトの言葉に強い違和感と懸念を抱いており、このまま宮殿まで同行させてよいものかと思案していた──その時。
「……大丈夫ですよ。 つい先程も言いましたが、あの双子に危険はありません──ね?」
「えぇ、そうね──……あの双子には、ね」
「……そう、か? ならいいのだがな……」
いつの間にか自分たちの両隣を挟むように歩き、まず間違いなく【闇強】の行使を気取っていたクリセルダとアルシェが、さも言い聞かせるかの如き声音で双子には危険性はないと伝えた事で、とりあえず納得した衛兵。
イフティー騎士団所属の騎士、そして国内に名を轟かせる【魔弾の銃士】が揃って保証するのなら──セリシアの事もあり、ある程度は信用できるかもと判断しての事だった。
それから、ようやく宮殿の大きさが正確に把握できるくらいの距離まで近づくと、その周囲には相当な深さのある水堀を渡る為の跳ね橋に加え、おそらく彼らの同僚にあたるのだろう衛兵たちが姿勢を崩さず立っており。
「ここから先は我々でも許可がなければ入る事はできない……セリシア殿と、そちらの騎士以外は待機してもらう──これは強制だ」
「冒険者や傭兵はもちろん、素性の知れぬ者をおいそれと通すわけにはいかないからな」
「……そうかよ──」
その者たちと少し話した後、戻ってきた衛兵たちは、セリシアとクリセルダ以外の『宮殿へと許可なく入れない者』に待機命令を出し、その言い分が正論であると珍しく判断できたスタークが空腹を感じつつ返答した時。
「──クリセルダ! 戻ったんだな!!」
「! 隊長! はい、たった今……!」
「ガウリアにティエント、それに双子も無事で何よりだ──……心配は無用だったか?」
「はは、そうでもないさね」
「あぁ、ギリギリだったぜ──カクタス」
突如、衛兵たちの詰所と見られる建物から出てきたのは、あの魔奔流にも参戦していたイフティー騎士団の一番隊隊長テオ=ロヤリテートと、元宮廷魔導師筆頭のカクタスであり、それぞれが口にする一行の帰還を慶ぶ旨の声に、それぞれが笑顔で反応を見せる中。
(……何で衛兵の詰所にいたんだろう……)
フェアトは一人、首をかしげていた──。
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