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夕暮れの砂漠での合議

 時刻は──……夕刻。



 茹だるような熱気の砂漠は夜になると一転して凍えるような寒気に襲われる事となる。


 まだ日が落ちるまでには多少の時間があるし、どちらかといえば暑いのは間違いないという事で、『日陰で話しませんか?』というクリセルダの提案で、フェアトたちや衛兵たちは迷宮の入口となる洞穴の中で話し合い。


「──……と、いうわけでして……」


 時間にしてみればおよそ数分、三人が一体どうして可食迷宮エディブルからでてきたのか、そもそも何故この迷宮に入る事になったのかという抱いて当然の疑問についての解答を説いた。


 もちろん、フェアトたちも黙って突っ立っているだけでなく、クリセルダの話を受けて相槌なり補足なりを援護するように返し、その甲斐あってか衛兵たちは揃って頷く──。


「……要は、あの少女が魔奔流スタンピードの終息間際に流砂に呑み込まれ……それを助ける為に、そちらの妹を含めた三人が迷宮へ、と……?」


「そんな感じです。 ですよね? 皆さん」


「「「……」」」


「ふむ……」


 つまるところ、あの栗色の髪の少女を救助するべく危険を承知で妹を引き連れ可食迷宮エディブルへ──……という事かと纏めてみせた衛兵の言葉に、クリセルダが同意を求めて話を振ってきた事により、フェアトたちは首肯した。



 ……何も間違ってはいない。



 ただ、その過程をすっ飛ばしているだけ。



 当然、フェアトたちの素性についても。



 団長は怠惰で傲慢だが、それでも彼女は南ルペラシオの誇るイフティー騎士団の一員。


 本当ならば嘘などつきたくはないし、もっと言えば事実の隠蔽など絶対にしたくない。



 ……しかし、それでも彼女は口を噤む。



 一体、何故なのかと言われれば──。



(──……分かってるわよね、お姉ちゃん)


(……大丈夫、下手な事は言わないから)


 クリセルダの隣で、彼女の妹であり高名な冒険者であり隠密部隊の一員でもあるアルシェ=ザイテが目を光らせているからだった。


 彼女は、クリセルダよりも双子との付き合いが長く──それでも十日程度だが──二人が抱えている事情も深く理解している……つもりになってはいるものの、実を言うと事情の理解度そのものの差に大した違いはない。


 何であれば、クリセルダの方が深く知っているまであるし、もっと言うと二人の後ろに控えている鉱人ドワーフや獣人の方が遥かに詳しい。



 とはいえ二人は、その事を互いに知らず。



 かたや何の肩書きも持たないいち女騎士。



 かたや二つの肩書きを持つ優秀な女傑。



 クリセルダの方が三つ年上でも、単純な力関係だけで言えばアルシェの方が上だった。


 だからこそ、アルシェは自分の判断が正しいと思っているし、クリセルダは妹の判断に従った形になってしまっているのだが──。


 その後、衛兵たちは目を閉じて何かを考えたり腕を組んで唸ったりしていたが、しばらくすると納得したように互いに頷き合って。


「……理解した。 理解したが──……どのみち上に報告はせねばならん。 これは義務だ」


「ん、んー……まぁ、そうですよね……」


 そのうちの一人が、クリセルダの説明自体には納得しても、『報告・連絡・相談』、いわゆる報連相の徹底を怠るわけにはいかないと真剣な表情と声音で告げ、それが正論だと分かっていたからこそ彼女は断りきれない。


 二人の少女の素性を明かすわけにはいかないという事も分かってはいるものの、ここで王命を受けた衛兵たちと諍いを起こす意味はなく、ゆえに彼女の選択は間違っていない。



 が、どうやら必要なのは報告それだけでなく。



「それから、そちらの三人には我々に同行してもらう事になる。 これは義務でも強制でもない任意同行だが──……できれば、頼む」


「……分かりま──」


 どんな事情があったとしても、この緊急事態の中で封鎖されている筈の迷宮にどこからどうやって入ったのかという事については確認しなければならない──……そういった理由からくる()()の同行を求めてきた彼らに。


 フェアトは渋面を湛えつつ、『アストリットとの約束を果たす意味でも、どのみち王都へは向かわなければならないのだから』と自分を納得させて、『分かりました』と返答。











 ──……しようとした、その時。



『『──っ!!』』


 相変わらず指輪に化けたままのシルド、まだ眠りこけているスタークを極駱駝ごくらくだと化したまま背に乗せているパイク、二体の神晶竜が同時に何かへの反応を強く示した事により。


「ぅわっ!?」


「んぇっ」


 かたや大きく身体を引っ張られ、かたや大きく身体を揺らされる事となった双子は、それぞれが驚きや煩わしさからくる声を出す。


「ど、どうしたんだい? フェアト──」


 そんな双子を真っ先に気遣う声を発したガウリアが、その言葉を言い終えるより先に。











「──“フェアト”……貴様が、そうか」


「……っ! 貴女、は──」


 いつの間にかそこにいた、まるで血で染めたかのような真紅の外套を深くかぶり、とても女声とは思えないハスキーな声音で自分の名を呼んだ長身の女性に、フェアトは驚く。



 ……見覚えが、ありすぎたからだ。



 初めてその姿を見たのは、ヴィルファルト大陸に辿り着いてすぐ──【魔導国家】の港町ヒュティカで行われた、咎人の処刑の時。


 その咎人──並び立つ者たち(シークエンス)序列九位のイザイアスを騎士団が処刑せんとするも、イザイアスの持つ【金城鉄壁インタクト】の力が災いし、ヴァイシア騎士団が誇る騎士団長の剣技と魔法を以てしても、イザイアスを殺せなかった。


 そして、その事実に気を大きくした彼が自らの素性までもを叫ばんとした──その時。



 ……その時だったのだ。



 たった今この瞬間と同じように、いつの間にかそこにいた真紅の外套を羽織る女性が。



 イザイアスを一瞬で両断してみせたのは。



 当時の事こそ、あの場に居合わせた者たちやそこで起きた事の報告を受けた者たち以外は知らずとも、その名は誰もが知っている。



 大陸一の処刑人──そして、もう一つ。



「まさか、あの【真紅の断頭台】──」


「セリシア殿、ですか……!?」


「……あぁ、そうだ」


 ここ【美食国家】ではその二つ名の方がよく知られているらしく、いかにもといった感じで驚いている衛兵たちが発した確認の声に対し、セリシアと呼ばれた女性は首肯した。



 並び立つ者たち(シークエンス)、序列──……三位。



 かつて単身で国一つを制圧し、『近接戦闘だけなら魔王にも劣らない』とも謳われた元魔族は──……あっさりと首肯してみせた。

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