異形の魔族の隠れ蓑
ここまでが七章っぽいあれです!
……ちょっと長かったですね、えぇ。
時間にしてみれば、およそ十数分弱──。
大陸亀の語る、三神獣の誕生秘話を姉では理解できなかったかもしれないくらいの難しく長々とした言葉で聞かされたフェアトは。
『──……と、まぁそんなところじゃな』
「なる、ほど……」
そんな風に話を締めくくってみせた大陸亀に対し、その聖女と瓜二つな整った表情に真剣味を帯びさせつつ、こくりと頷いている。
どうやら、しっかりと理解できたようだ。
ただ、その一方で気になる事もあって。
「……あの、ちなみにそれの事は?」
今の話には全く出てこなかった──三神獣についての話ゆえ当然だが──封印中のシュエレブの存在を、どこまで知っているのかという疑問をおそるおそる投げかけたところ。
『無論、把握はしておる──……が、把握しておるのと納得しておるのは別問題じゃぞ』
「アストリットの仕業、なんですよね?」
彼女の予想通りに知ってはいるらしいものの、だからといって自らの体内に封印されているという事実そのものを諸手を挙げて受け入れたわけではないと大陸亀は眉根を寄せ。
不機嫌になっているというのは理解していたが、それはそれとして確認は必要だと判断したフェアトは序列一位の名を挙げてみた。
エステルとフェンは誰が封印したのか知っていても、この老婆──もとい大陸亀は知らない可能性もあると考えての問いだったが。
『……あれは十五年前から異常じゃった。 魔王もそうではあったし、そやつも例外ではないが──……あれもまた怪物。 妾を相手に取り引きを持ちかけるなどとは……不遜よの』
「やっぱり──」
こちらもまた予想通り序列一位の仕業であると把握していたようで、かつて少女が魔族だった頃から感じていた『異常性』についてを『怪物』と称するその顔は、どこか畏敬の念を感じなくもないが──それはさておき。
「──……え、取り引き?」
たった今、大陸亀の口から飛び出た『取り引き』なる言葉の違和感に気づいたフェアトが思わず疑問を声に出すと、『然り』と頷いた大陸亀は元々皺の多い顔へ更に皺を作り。
『妾の同胞たる深海虎に広空鳥。 あやつらを実験体としない代わりに、そやつを妾の腹の中で封印させろ──……などと曰いおった』
実に八年前、突如として接触を図ってきた羅針盤のような紋様を碧い瞳に刻む赤子が口にした、残りの三神獣を人質に──神獣質とでもいうべきか──この厄介者を封印する為の物置きになれとの命令を受けた結果だと。
心底、嫌そうな表情で明かしてみせた。
何せ、かつて世界を支配せんと目論んだ存在の一味を匿うという愚行を、ましてや赤子の姿をした序列一位に命じられるなどとは。
できる事なら誰にも言いたくなかったのだろう──フェアトは何となく理解しており。
要は、それこそアストリット自身が隠れ蓑として【六花の魔女】を選んだのと同じようなもの──とだけ理解しておけばいい筈だと結論づけたフェアトは、ふと顔を上げつつ。
「……言いそうだなぁ」
『……? 何がじゃ』
「あぁ、いえ……」
三神獣を人質にとるなど、あの序列一位でなければ言わなそうだという感想が思わず声に出てしまった事で、それに反応した大陸亀に対しフェアトは何でもないと首を振った。
『……正直、跳ね除けてやってもよかったのじゃがな。 妾が身をよじれば、それだけで文明は崩壊する。 それが神々の望むところではないという事は妾にも理解できるからのう』
「そうだったんですね……」
その後すぐに話を戻した大陸亀は、その五年前の出来事の際、他の二体を人質にとられたとしても取り引きを拒絶するべきだったかもしれないとも考えていたらしいが、そうすると今度は序列一位との戦闘が避けられず。
ほんの少しでも身体を動かせば大陸に地震が発生し、それが続くと文明の崩壊へ繋がる事は明白であり、そうなると神々からの使命を果たせなくなってしまうというジレンマから、こうするしかなかったのだと明かした。
アストリットの力の一端を知るフェアトとしても、その判断は間違っていないと納得する中、ふと顔を上げた大陸亀の口から──。
『──さて、そろそろ本題と参ろうかの』
「え……?」
何やら不穏な雰囲気を感じる、そんな言葉が飛び出してきた事に、フェアトは思わず身構えたが、当の大陸亀は笑みを浮かべつつ。
『気になっておるのじゃろう? 何故、妾がお主を勇者と聖女の娘じゃと言い当てたのか』
「あ……っ、そ、そうです! どうして──」
どうして一目で勇者と聖女の娘だと言い当ててきたのか──……という、フェアトが抱いていたものの他にも聞きたい事が多すぎた為に後回しになっていた疑問に触れてきた。
聖女の娘だと言われるのは、まだ分かる。
自分が母親にそっくりなのは自覚しているし、【魔導国家】でも聖神々教の信徒や冒険者のギルドマスターを務める森人に見破られたのだから、そう言われてもおかしくない。
しかし、スタークと違って勇者とは似ても似つかない筈の自分を、どうして勇者と聖女の娘だと言い当てる事ができたのかという抱いて当然の疑問に、大陸亀は一呼吸置いて。
『……実を言うとなぁ、一つ言伝があるのじゃ。 他でもない、こやつを封印した者から』
「……アストリットからの、言伝……?」
『うむ。 つい数ヶ月前にのう』
「す、数ヶ月って……」
何と、アストリットからの伝言を預かっていると明かし、それが数ヶ月前という比較的最近の事である事にもまた驚いてしまった。
数ヶ月前──ちょうど、アストリットと出会った辺りだろうかと考えていた、その時。
『『しばらくしたら、ここに勇者と聖女の双子の娘がやってくる。 結界近くまで寄ってくるのは聖女似の妹だろうし、こう伝えて』』
「……?」
特性なのか特技なのか──アストリットの声音をそっくり真似つつ、その言伝とやらをフェアトに伝え始めるとともに、『こう伝えて』に込められた内容を言う前に一拍置き。
『『ここを訪れた日から数えて一週間後、約束通り君の一日をもらう。 いいね?』とな』
「!!」
かつて、スタークが自分に何の許可もなく交わしたという、『フェアトを一日だけ貸りる権利』を今日から数えて一週間後に行使すると告げられたのだから、フェアトがこんな反応をしてしまうのも無理はないといえる。
『……この言伝あってこそ、お主の素性を見抜く事ができたのじゃ。 ま、そうでなくとも聖女に瓜二つじゃし気づいたやもしれんが』
「……どうして、お母さんの顔まで?」
そんな少女を慮っているのかいないのかは分からないが、どこか気遣うような優しさを思わせる声音で話しかけてきた大陸亀の、まるで聖女を直に見た事があると言わんばかりの言葉に、フェアトが思ったままを問うと。
『……妾は、およそ陸と呼ばれる地で起こる全ての事象を知る事ができる。 たとえ、この甲羅の上でなくともの。 それだけの事じゃ』
「……そんな事まで……」
他に同種がいない以上、比較のしようがないものの、どうやら大陸亀という種はこの世界の『陸』で起きたあらゆる事象を嫌でも把握してしまうらしく、その中には当然ながら勇者や聖女の姿も含まれていたのだと語り。
それこそ、あの辺境の地での十五年間も知られているのだろうか──……と思う一方。
アストリットの下位互換のような気がしないでもないが──流石に口にはしなかった。
その後、序列一位からの伝言を嫌でも脳裏に刻みつけていた少女を尻目に、大陸亀は。
『──……さてと。 こうして話をしておる間に、お主の姉が目覚めようとしておるぞ?』
「っ! 本当ですか!?」
ここは『陸上』ではないが、それでも体内で起きている事だからか、もう間もなくスタークが目覚めんとしている事実を妹である彼女に伝え、それを聞いたフェアトは途端に顔を上げて、すぐさま来た方向へ顔を向ける。
『行ってやるがよいじゃろう。 そして──』
そこに深い姉妹の愛を感じた大陸亀は微笑みながら、そちらを細い指で示すとともに。
『──次は揃って来るとよい。 せめて、こやつに対抗し得る程度の力を身につけて、の』
「……はい!」
今度ここへ来る時は姉妹揃って、そして封印されたXYZに太刀打ちできるくらいに強くなって来いと発破をかけ、それを受けたフェアトは決意に満ちた表情と声音で返答して。
扉の方へと、駆け足で戻っていった。
……まぁまぁ遅い、その駆け足で。
そんな中、小さく小さく呟かれた一言は。
『……まだまだ死ねぬな、お互い──』
大陸亀から、誰かへ向けての言葉だった。
それが誰に向けた言葉だったのかは、それこそ神のみぞ知るというところである──。
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