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いーんじゃない?

 封印中の【異類異形ゼノ】を見せてほしい。



 そんな突拍子もない──……エステル風に表現するなら『アホなお願い』をしてきたフェアトに対し、きょとんとする五位と六位。


「──……聞いとったか? ウチらの話」


「はい」


「はいやないが」


 数秒ほどの静寂の後、ハッと我に返ったエステルからの問いに、フェアトは至って真剣な表情で頷くも、やはり理解が及ばないらしく『あかんに決まっとるやろ』と返される。



 とはいえ、フェアトに退く様子はなく。



「……そんなに見たいの? どうして?」


「……単純に、興味からですよ」


 聖女に瓜二つな少女の発言を訝しんでいたフェンの疑問の声にも、あくまで知的好奇心によるものだと何かを隠す様な返答をする。


 ……ただ、フェアトの言う『興味から』という主張自体は別に嘘というわけでもない。


 現世に存在している事は聞いていても、かつての魔王以上かもしれない怪物と、いつかは戦わなければならないとなってもいまいち現実味がない、というのが正直なところで。


 ここで一度でも、XYZ(ジーゼット)を見ておく事は後々の為になる筈だ、と考えてのお願いだったのだが、エステルたちの反応は思わしくない。


 とはいえ先述したように、フェアトは全く譲歩するつもりなどない為、『何か条件でも付け足すべきか』と思案していた、その時。


「……いーんじゃない? 通しても」


「えっ」


「はぁ!?」


 意外にもフェンの方から特に条件もなく通してもいいのではという旨の言葉が飛び出してきた事で、フェアトは当然の事ながらエステルまでが表情を驚愕の色に染めてしまう。


「アホか! そがいにぽんぽんぽんぽん通すんやったらウチらがおる意味ないやろがぁ!」


「……まぁ、それはそうなんだけどさぁ」


 もちろん、エステルは即座に『自分たちが連れてこられた理由』を改めて認識させるように怒鳴り散らすが、フェンは何ともふわっとした返答しかせず、そんな彼に痺れを切らしたエステルの矛先はもう一人の方に向き。


「大体お前もやぞフェアト! ウチの雷撃食ろうといて平然としてんのはあれやし、なんぼほど頑丈なんか知らんけどな! 聖女の娘や言うんやったらもっと自分を大事にせぇ!!」


「は、はぁ……」


 未だ姉に膝枕したままのフェアトに顔を近づけて、あろう事か前世で自分たちの命を奪った者たちの娘を気遣うような発言をしてきたエステルに、フェアトは思わず困惑する。


(……厳しいのか優しいのか分かんないな)


 ……そう、ちょうどこんな感じに困惑していたものの、その心配は正直に言えば無用。


「あの、それに関してなんですけど──」


 ただ、どうして心配いらないのか──つまりは『無敵の【盾】』についてをまだ話していなかった為、可能なら隠しておきたかったとは思いつつも明かそうとした……のだが。


「……多分、大丈夫だよ。 フェアトなら」


「っ、何の根拠があって言うてんねん!」


 その声は、エステルの言うように何の根拠も感じられないフェンの呟きによって遮られてしまい、フェアトの方からフェンの方へと忙しなく行ったり来たりしていたエステルだけでなく、フェアトにも何かを伝える為に。


「だって、ほら」


「え──」


 かまくらにころんと寝そべったまま、フェアトの背後へ指差した彼に釣られるようにして、そちらを向いたフェアトの視界に──。



 音もなく、これといった悲鳴を上げる事もなく仰向けやうつ伏せで倒れている、ガウリアやティエント、パイクたちの姿が映った。



「……っ!? が、ガウリアさん!? ティエントさん!? パイクにシルドも!! どうしたんですか急に──……っ、いや、これは」


 急いで駆け寄ろうとしたが、スタークの存在をギリギリで思い出した彼女は自分の膝から落ちそうになった姉の頭と地面との間に手を添えてから地面に下ろし、とりあえず一番近い位置に倒れていたガウリアに寄り添う。



 ……息を、していない。



 ……脈も、ない。



 だが死んではいない──……何一つ根拠はないものの、おそらく全員死んではいない。



 こんな不可思議な現象を起こせるのは。



「──そう、ボクだよ。 ボクの称号の力」



 聞くまでもなく、フェンから告げてきた。



 それもその筈、フェンはもうフェアトの異能を見抜いており、もっと言えば自分の仕業だと見抜かれている事も見抜いていたから。


「【怠慢忘身フォーゲット】は色々種類があってね? 今かけたのは『存在そのものを忘れさせる』的なやつで、そんな感じに意識がなくなるのが第一段階だよ。 で、そのまま放っとくと──」


 それから、フェンは彼らしくもない流暢な声音で自らの称号について語り出し、ガウリアたちを仮死状態にしたのは紛れもなく自分の【怠慢忘身フォーゲット】の力によるものだと明かす。


 彼の言う『存在の忘却』は彼の中でも切り札と呼べる力であるようで、この状態のまま何の手も施す事なく放置したとしたら──。











「──存在そのものが世界から忘れられる」


「……っ」


 生物非生物を問わず、その存在自体が世界から忘れられる事によって跡形もなく消え去り、それが『存在していた』という記憶そのものが世界から消失してしまうのだという。



 ……もはや、神々のそれにも等しい力。



 それでも、フェンの序列は──……六位。



 彼の上には、エステルも含めて更に強い力を持つ魔族が五体存在するという事実に、フェアトは思わず息を呑んでしまったものの。


「まさか、戻せないなんて言いませんよね」


「もちろん。 でも、その前に──」


 それはそれとして、今はガウリアたちを元の状態に戻す事の方が大事だと判断したフェアトからの煽り気味の問いかけに、フェンは当然だとばかりに肯定しつつも視線を外す。



 その先には──怪訝そうな表情の五位が。



「これで分かったでしょ、エステル。 ボクが力を使ったのは後ろの鉱人ドワーフや獣人、神晶竜だけじゃない──フェアトにも使ったんだよ」


「えっ」


「……効かへんかった、いう事か?」


 実を言うと、フェンは後ろに控えていた者たちにだけでなく、こっそりとフェアトに対しても【怠慢忘身フォーゲット】をかけていたらしいのだが、ほんの少しでさえ効果が現れなかった。


 ……という事に、かたや何も知らなかったフェアトは普通にびっくりして、かたや大体の事は察せていたエステルは冷静な様子だ。


 そして、フェンの力が全く以て通用しなかったという事は、たとえ異形といえど同胞であるシュエレブの力もおそらく──だから。

 

「……好きにせぇ、どうなっても知らんで」


「……ありがとうございます」



 ……エステルは、妥協した。



 もしかしたら前世も含めた彼女史上初の妥協だったかもしれないが、それはさておき。


「この奥には、あいつとあいつを封じる結界がある──……いや、それしかないんだよ」


「……それ以外には、何も?」


 ようやくかまくらから出て立ち上がったフェンと、その隣に立つフェアトがそんな話をする中、エステルは扉に魔力を流して魔方陣を描く事で開き、溜息をつきつつ横に退く。


「そうそう。 で、封印されててもあいつは普通に起きてるから過剰な接触は禁物だよ?」


「……分かりました。 行ってきますね」


 その後、フェンが『余計な事だけはしないでね』と念を押し、それを受けたフェアトが神妙な表情で頷きつつ、ゆっくりと口を開けた扉の方へと歩みを進める──そんな中で。











「……せいぜい呑み込まれんようにな」


「……っ」



 その声はやたら響いて聞こえた気がした。

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