双子の旅立ち
並び立つ者たちの序列十位、【破壊分子】のジェイデンが満ち足りた表情を浮かべてこの世を去った後。
一切の負傷も疲労もないフェアトはともかく、パイクやシルド、そして何よりスタークは精神的に疲弊しきっており、その日は皆で家に帰って休む事に。
先の戦いで完全に崩壊した渓谷や崖については、パイクとシルドがそれぞれ風や土の魔法を行使し、瓦礫を片して新たに渓谷を作り直す事で補強済みである。
また、本来なら討伐した後の魔物は死骸として残る為、解体して必要な素材を剥ぎ取り、それ以外の部位は焼いたり埋めたりして処分するという作業もある。
だが、どうやら転生した元魔族たちは魔王が行使した闇の蘇生魔法【闇蘇】によって、その姿や魂を維持しているに過ぎないらしく、ジェイデンの──もとい怒赤竜の巨体は欠片すらも残さず消滅していた。
その後、レイティアとの手合わせやジェイデンとの戦いで食べ損ねていた昼飯の分も含めた夕食を全員で美味しく食べて、彼女たちは眠りについたのだった。
そして──翌日の朝。
「──さて、準備はできたかしら?」
まさしく神々が祝福しているかのような快晴の下にて、レイティアが二組の双子に声をかけると、心地よい風に揺れる花畑に立つ二人と二体が同時に頷く。
「あぁ、問題ねぇよ」
「大丈夫です」
そんな風に返してみせたスタークとフェアトは、それぞれの髪や瞳の色に合わせた意匠が施された、動きやすさ重視かつ露出の少ない軽装を身につけていた。
また、軽装とはいえど先日のように突発的な戦闘が発生しないとも限らない為、手の甲や肘、膝といった関節部位には革製のサポーターを装着している。
『『りゅー!』』
その一方、ちょうど人間を一人乗せても問題なく飛び立てるほどの大きさになっていたパイクたちの背には、旅に必要な物資を最低限の量だけ詰めた鞄と、スタークたちが乗る為の鞍が取り付けられていた。
「そう。 それじゃあ、これから貴女たちには旅に出てもらうわけだけど──その前に二つだけ、絶対に守ってほしい事があるの。 しっかり聞いておきなさいね」
そんな準備万端の返答を受けたレイティアは、どうやら昨日に言い損ねていた彼女たちへの約束事を伝えたいらしく真剣味を帯びた表情と声音で語りかけ、スタークたちも同じように真面目な表情で頷いた。
「まず一つは──貴女たちの出自を明かさない事」
「……出自? 出自ってのは……あー……」
そして、レイティアが一つ目の約束事として素性を隠す事を挙げたものの、スタークは『せっかくだからお洒落しません?』とフェアトに勧められた髪飾りで側頭部に束ねた栗色の髪を弄りながら首をかしげる。
完全に頭が回っていないような反応だが、それは先日の疲れが残っているから──というわけではない。
ただ単に考えるのが面倒くさいだけである。
「勇者と聖女の娘だと明かすな、って事ですよね」
「……あぁ、そういう事か」
そんな姉の様子に呆れて苦笑しつつ、フェアトが母の言いたい事をかいつまんで説明するも、当のスタークは『まぁ分かってたけどな?』と意地を張る。
要は──『勇者と聖女の娘』だと知ったが最後、二人の意向を無視してでも利用したいと考える輩が必ずいるだろうと考慮したうえでの約束事だった。
「貴女たちの事もそうだけど……明かしてはいけないのは、その子たちの事もよ? 神晶竜は勇者と運命をともにした絶滅種。 もし生存が明らかになったら──」
そんな折、『出自を明かすな』とは何もスタークたちの事だけではなかったらしく、レイティアがパイクとシルドの方へ視線を向けつつ『何が言いたいかは分かるわよね』と言いたげに視線を二人に戻すと──。
「……成る程。 捕まっちゃいますよね」
『『りゅっ!?』』
自分たちのように捕まるか、もっと酷い目に遭う可能性もなくはない──そう口にしたフェアトの言葉を聞いたパイクたちは短く鳴いて驚きを露わにする。
──普段は武具か何かに変わっていてもらおう。
フェアトは一人、脳内でそう決めていたのだった。
「……で? もう一個は何だよ」
「えぇ、もう一つは──」
その後、朝食は済ませたとはいえ朝という事もあって随分と眠そうにしていたスタークが、もう一つあるらしい約束事について問うと、レイティアは彼女の問いかけに頷きながら答えるまでに一拍置いて──。
「──無事に、ここへ帰ってくる事。 いいわね?」
何よりも娘たち──そこにはシルドやパイクも含まれる──が無事にいてくれる事が一番なのだと自分と同じ金色のフェアトの髪を優しく撫でながら告げる。
「っ、お、お母さん……!」
『『りゅー♪』』
フェアトは母に抱きつき、パイクたちは大きさをそのままに顔だけをレイティアに摺り寄せていた。
「……お袋。 昨日は、あたしが悪かっ──」
そんな中、唯一その場に立ったままだったスタークが気まずげに近寄り、よく考えれば未だに謝っていなかった昨日の言い草について謝罪しようとする。
「いいのよ、スターク。 貴女たちが普通じゃないのは事実だし、それが私のせいだというのも正しいもの」
「っ、けど、あたしは……!」
しかし、レイティアが先程のフェアトと同じようにスタークの栗色の髪を撫でつつ、『貴女は何も悪くないし、間違ってもいないのよ』と宥めるも、スタークはその真紅の瞳を揺らして余計に詰め寄ってしまう。
間違いだと──言ってほしかったのかもしれない。
「それでも貴女たちは、あの人と私の大切な娘。 大変かもしれないけど……できれば無理はしないでね」
「……っ、あぁ」
一方、母として娘の揺れに気がついたのか、レイティアはスタークを抱きしめながら自分の心からの想いを伝え、フェアトほど幼い頃から母に甘える事をしてこなかったスタークは、もう傷つけたくはないからか抱きしめ返す事はせず、なすがままとなっていた。
そして、いよいよ──旅立ちの時。
パイクとシルドの背と口に装着された鞍と轡、その二つを繋ぐ手綱を握った状態でそれぞれの背に乗ったスタークとフェアトは、今にも飛び立たんとするパイクたちとともにレイティアの方を振り返り──。
「それじゃあ行ってきます! お母さん!」
「しばらくしたら戻ってくるからよ」
『『りゅーっ!!』』
「……えぇ。 頑張ってね」
各々が口にした別れの言葉に対して、レイティアは段々と遠ざかっていく娘たちの姿が見えなくなるまで手を振っており、しばらくして娘たちが見えなくなった辺りで、ようやく手を下ろした彼女が小さく呟く。
「──さようなら。 私の愛しい娘たち」
まるで、今生の別れであるかのような言葉を──。
並び立つ者たち──残り、二十五体。
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