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攻撃特化と守備特化、無敵の双子は矛と盾!  作者: 天眼鏡


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その頃、上空では──

 一方その頃、絶品砂海デザートデザートの遥か上空では──。



 浮遊する事自体は止めずとも、やはり微動だにしようとしない二体の神晶竜のうち溯激竜そげきりゅうに変化しているシルドの背に乗っていた女騎士──クリセルダは遥か下の砂漠に展開された巨大な砂の扉に釘付けのまま。


(──……あんな規模の【土創クリエイト】、初めて見た……)


 ガウリアが、さも当たり前のように行使してみせた土属性の支援魔法の規模の大きさに驚き、とても自分が持つ三つの適性で同じような事ができるとは思えないと言わんばかりに鉱人ドワーフの傭兵へ感心を覚える一方。


(体格以外は普通の鉱人ドワーフと変わらないのに、どうして)


 これまでの長いとも短いとも言い切れない人生の中で、クリセルダは幾度も男女問わず鉱人ドワーフに出会ってきたが、ガウリア程の魔力を持った鉱人ドワーフを他に知らず。


(それとも今まで見てきた鉱人が弱かっ──……いやいや、それはないそれはない。 感覚が麻痺してるわね)


 確かに上背だけを見れば異質というのは間違いないものの、そこ以外は他の同種と変わらないのに何故ガウリアだけが──と頭を悩ませずにはいられない中。


「……どうやら無事に突入できたようだな……」


 クリセルダの様に困惑からくるものとは違う安堵からの息をこぼした騎士隊長──テオは、フェアトたちが砂の扉をくぐっていくのを見届けてからそう呟く。


 実を言うと、テオはテオでガウリアと同じ結論に至っており、もし世界の心臓(ワールドコア)に呑み込まれていないのなら迷宮しか行き着く先はないと考えていたのである。


 尤も、スタークが世界の心臓(ワールドコア)でも迷宮でもない砂中に生き埋めになる可能性を度外視しての事なのだが。


可食迷宮エディブルか……可能性としてはなくはないが……」


 また、これに関しては元宮廷魔導師筆頭──カクタスも全くの同意見であったらしく、この国に住まう以上知らぬ筈もない迷宮の名を口にしつつも顎に手を当て、ガウリアの創った砂の扉が閉じるのを見届ける。


 ただ、どうやら彼はガウリアやテオ以上に『スタークが迷宮に流れ着く確率』を低く見ている様で、その顔は世辞にも希望的観測を抱いた者のそれではない。



 ……それも当然だと言われれば当然そうかもしれない。



 何せ魔法もなしに砂中から脱出する事自体が非常に困難であるのに、あろう事かスタークは眠ったままであり、そんな危機的状況にある事さえ知らないのだ。


「今は祈るしかない──……そうだろう?」


「……そう、だな。 それよりも今は──」


 しかし、だからこそ──だからこそ、もう無事を祈ってやる事しか自分たちにできる事はないと告げてきたテオに対し、カクタスは頷きながらも視線を移す。


 その先には、およそ五十騎ほどの騎馬兵──ではなく、おそらく砂漠ゆえに駱駝に乗った騎士たちが明らかに二体の【竜種】を目指しているのが見えており。


「──あちらに見ゆる者たちへの説明を詰めねばな」


「き、騎士団の皆……! 今頃だけど増援に──え」


 スタークの救出に手を貸さず、この場へ残った理由であるところの説明責任を果たさねば──と、ここで起きた魔奔流についての全てを誤魔化す為の説明を詰める一方、手遅れとはいえ増援に来てくれた仲間たちの姿を見て図らずも安堵の息をこぼしかけたものの。



 その安堵の息は、すぐに引っ込んでしまった。



 何故なら、そこには普段であれば同行する筈もなく自室でふんぞりかえっているだけの男がいたからだ。


「──……あっ!? た、隊長! あれって……!!」


 立場を考えれば失礼にあたるとは分かっていながらも、クリセルダが指を差しつつテオに声をかけると。


「……騎士団長様の御成か──面倒な事になったな」


 彼女に言われずとも、とっくにその存在に気がついていた彼は、クリセルダがこぼしかけたものとは全く違う煩わしさからの溜息とともに、テオ自身も属するイフティー騎士団の現騎士団長の鎧姿に目を伏せる。


「……あれがそうか? 【鎧を着た怠惰】とかいう」


 そんな騎士二人の驚愕や困惑、或いは辟易といった感情を目の当たりにした事で、ようやく騎士団長の存在を悟ったカクタスは、【美食国家】の今を生きる者であれば子供でも知っているという騎士団長の、どうにも不敬かつ不名誉な二つ名を口にしたところ──。


「……あぁ、あれが私たちイフティー騎士団、第二十二代騎士団長──“グルグリロバ=フセイン”だ……」


 テオは、あちらに見ゆる騎士団から目を離さぬままに、とても上司を紹介する時のそれとは思えないほどの面倒臭そうな表情と声音を以て団長の名を告げた。



 不敬だろうが、それも無理はないかもしれない。



 何せ、あちらに見ゆる騎士団長様は──。



 どれだけ良く言っても『恰幅が良い』──悪く、そして正直に言えば『ただの肥満』と称さざるを得ないという、少なくとも騎士には見えぬ中年男性であり。


 

 普段は覇気もなく澱んでいる筈の濃緑色の瞳が、どういうわけか【竜種】たちを見て輝いているように感じる事も含めて気味が悪いとしか言えないから──。



 それでも三人は、どうにか怒赤竜パイク溯激竜シルドを多少の攻撃や支援の魔法を行使する事で目覚めさせ、グルグリロバを始めとする騎士たちを砂上で待つしかない。



 ……フェアトとの約束を、こちらの都合で破棄するわけにはいかない──という理由からの行動である。


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