根本的な問題
迷宮──。
それは、この世界にいくつか点在する魔の巣窟。
ヴィルファルト大陸に存在する人間や獣人、霊人などが住まう街や村ほど多く在るわけではないが、かといって大陸に属する国の数ほど少ないわけでもない。
迷宮の姿形に一貫性などは全く以てなく、あえて共通点を挙げるなら魔物が出現し続けるという事だけ。
迷宮に出現する魔物は基本的に迷宮の外で生きる魔物と大差ないものの、ある決定的な違いが一つ──。
迷宮の中の魔物が全て──複製個体だという事。
迷宮と呼ばれる地は往々にして深い深い洞窟だったり誰が建てたかも分からない建造物だったりするのだが、それらの最奥には共通して『宝』が眠っている。
それが武器なのか防具なのか装飾品なのか、もしくは単に金銀財宝なのかは様々であれど、その宝を迷宮から奪うべく力試しも兼ねて次から次へと侵入してくる冒険者や傭兵、貴族つきの騎士や魔導師たちを排除する目的で迷宮自体が意思を持って生み出しており。
迷宮外の魔物──原物個体と何ら変わらない力を持ち、ついでに言えば迷宮が存在する土地に左右された陸棲や水棲の魔物の複製個体が半永久的に出現する。
……だけなら良いのだが。
外からは一切の変化がなくとも、その内部は不定期で広くなったり狭くなったりし、【探】を常に行使しておくくらいでないと二度と出られなくなってしまうという──それこそが、まさに迷宮と呼ばれる所以。
しかし、それでも彼らは迷宮に足を踏み入れる事をやめない──迷って迷って彷徨って、その末に訪れうる餓死という悲惨な最期を迎えるやもしれずとも、そうして命を懸けるだけの価値が『宝』にあるからだ。
尤も、この絶品砂海の影響を受けた迷宮では──。
──そんな心配の必要はないようで。
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「──やっぱ“可食迷宮”か……っ! 他んとこと違って補給物資が要らねぇぶんマシなんだろうがよ……!」
可食迷宮──絶品砂海、及び【美食国家】そのものから強く影響を受けた事で、そこに出現する魔物が限りなく食用に適した個体となるだけでは飽き足らず。
あろう事か壁や床、階段や天井に至るまで全てが食用に足るという、あまりに奇妙奇天烈な迷宮であり。
食糧以上に必須となる水分に関しても、この迷宮の至るところに流れているらしい水を飲めば問題なく。
本来、迷宮かどうかに限らず冒険者や傭兵たちの最低限の準備として補給物資の調達は必要不可欠であるものの、この可食迷宮に限っては全く必要ないのだ。
三百六十度、どこを見ても食糧があるのだから。
「そういう事さね! さぁ繋ぐよ──」
一方、自分が伝えたかった事を彼がいち早く口にしてくれた為、特に言及する事もなくなったガウリアは力強く肯定しつつ、その巨大な両刃斧に魔力を──。
集約させんとした──その時。
「──……あ、あのっ!!」
「「あぁ!?」」
水を差された──と言うのもあれだが、まだまだ上空と言って差し支えない位置にいる二人より更に上からかけられた声に、ガウリアとティエントは思わず語気を強めて返事するも、フェアトに怯む様子はなく。
「迷宮に流れ着いてるかもっていうのは分かったんですけど……っ、そもそも根本的な問題があって──」
「「???」」
どうやら何かしら伝えたい事があるのだろう事は分かるものの、どういうわけか随分と遠回しな言い方をする彼女に、ガウリアたちは怪訝そうな表情をする。
「何だよ今更──……っ、とにかく言ってみろ!!」
「っ、実は──」
が、しかし──『根本的な問題』とまで言われてしまうと聞かざるを得ないのは必然であり、まだまだ砂漠は遥か下であるとはいえ時間がないのも事実であると分かっていたティエントが叫ぶように問いかけた。
すると、フェアトは言いにくそうにしながらも意を決して一呼吸置き、その勢いのまま口を開いて──。
「私……っ! 【扉】通れないんです!!」
「……はぁっ!?」
「ご、ごめんなさい! でも本当なんですぅ!!」
論外だと言われてしまえば否定しようもない──。
そんな今更感の溢れに溢れた少女の叫びを聞いたティエントが、アホみたいな顔で驚愕を露わにする中。
(……もしかしたら、とは思ってたけどねぇ──)
どうやら、ガウリアは確信とはいかずとも憶測してはいたらしく、『魔法が効きにくい』という彼女の科白から【土扉】を通れない可能性も考慮してはいた。
しかし、あくまで憶測は憶測でしかない──。
本当に、【土扉】を通れないとは思ってなかった。
何しろ、【土扉】は他の属性の【扉】のように魔力で全く異なる場所への扉を繋ぐわけではなく、混凝土や煉瓦、或いは単に石造りや舗装もされていない地面や壁などに向けて行使し、その奥や向こう側にある空間へと繋げる大きな扉を発現させる為の魔法であり。
その扉と向こう側の空間を繋ぐ『隙間』には魔法的な力は働いていないというのに、それでも通る事ができないのは『効きにくい』では説明がつかないから。
とはいえ、ここで文句を言ったところで本人がそう言っているなら間違いないのだろうし──何よりも。
(──……しゃあない。 それじゃ、あっちでいくかね)
どうやら、ガウリアには別の手段があるようで。
ゆえに、そこまで焦っていなかったのだろう──。
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