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並び立つ者たち

 そもそも、並び立つ者たち(シークエンス)とは何か。


 それは──魔王カタストロが直々に名づけた二十六体の極めて優秀な魔族たちの総称であった。


 魔王カタストロを除いた魔族は殆どが有象無象であり、人間に比べて多少は魔力や身体能力で勝れど腕に覚えのある冒険者や傭兵などに敗北する事もあった。


 無論、勇者一行の障害にはなり得ない。


 そのような者たちに対して名をつけるのも億劫だった魔王カタストロは、自らの魔力から生み出した存在であるにも関わらず一切の名づけを行わなかった。


 仮に名前をつけたところで……どのみち出陣させたが最期、その殆どが戻ってはこないのだから。


 そんな中、他種族との戦いにおいて明らかに突出した力を有する二十六体の魔族が頭角を現した。


 その事を知った魔王カタストロは二十六体の配下を嬉々として召集し、その他の使い捨ての駒と区別する為の名前と【称号】を直々に与えてみせた。


 それぞれの名前に関しては特に意味をなさず、まさしく烏合の衆との区別にしかなっていなかった。



 しかし、各地での戦果を基に与えられた【称号】。



 これらは二十六体の魔族に眠る更なる力の覚醒を促し、より一層の被害を他種族に及ぼす事となる。



 それこそ──魔王カタストロと比肩するほどに。



 これが、並び立つ者たち(シークエンス)の起源であった。



「……そんな厄介な魔族が、どうして復活を」


 その後、レイティアによる簡潔な解説を受けた双子を代表したフェアトが、どうせ傷は負わないと分かっていても決して気を抜かぬまま問い返そうとした時。


『くぁははは! 知りたいか!? ならば教えよう!』


 何故か、レイティアではなく三人と二体の眼前に佇む緋色の巨竜、元魔族のジェイデンが大きな笑い声とともに『復活の理由』を自ら語ろうとし始めた。


(お、教えてくれるんだ……)


(何でちょっと親切なんだよ)


 お互いが敵同士である筈なのにも関わらず、これといった敵意を感じさせない眼前の元魔族に、フェアトもスタークも眉を顰めて困惑してしまう一方で。


(……あの時と同じね)


 かつて、ジェイデンが魔族だった頃に相対した経験のあるレイティアだけは、善も悪もなくただ純粋な強さだけを求める姿勢が変わっていない事を理解した。



 事の始まりは──魔王カタストロと勇者ディーリヒトが相討ちとなり、ほぼ同時に命を落とした時。



 ディーリヒトがレイティアを憂いていたのと同じように、カタストロも『とある懸念』を持っていた。


 それは──勇者たちに敗北した後、力の一部として戻ってきていた二十六の魂の今後について。


 実を言えば、カタストロは二十六体の魔族が誰も彼も自分の下で終わっていいような存在ではなく、ともすれば王の器を持つ者さえいる事を理解していた。


 ゆえに──こんなところで自分とともに死なせてしまうのは、あまりに勿体ないと瞬時に考慮する。


 そして、カタストロは崩御する寸前、唯一の生存者となるだろう魔族の天敵、聖女レイティアに気取られてしまわぬように二十六の魂を切り離し──。



《──後は好きに生きるがいい、並び立つ者たち(シークエンス)よ》



 ──【闇蘇リザレクション】とともに、そう告げた。



 そんな魔王の最期の命令を受けた二十六の魔族たちは、それぞれが聖女や神々に気取られぬように時間軸をズラし、ついでに姿や性別さえも変えて復活した。



 そのうちの一体が──【破壊分子ジャガーノート 】のジェイデン。



 並び立つ者たち(シークエンス)の──序列十位である。



『──ってなところだな! 理解できたか小娘ども!』


「……えぇ、まぁ。 ありがとうございます」


 先程までと変わらぬ大声での回想を終えたジェイデンに対し、自分の疑問に答えてもらったフェアトは相手が魔族だと分かっていつつも素直に謝意を示す。


『くぁーっははは!! なぁに、いいって事よ!』


(……何だこいつ……)


 すると、ジェイデンは凶暴な牙の生え揃った口を大きく開けて高笑いし、それを見ていたスタークは妹と元魔族とのやりとりに心から呆れてしまっていた。



 しかし、そんな呑気な感情は──。



『はぁ〜あ……──さぁて』



「「っ!!」」



『『りゅうぅぅぅぅ……!!』』



 一瞬で途方もない覇気を声に纏わせたジェイデンの呟きに消し飛ばされ、スタークもフェアトも、そしてパイクとシルドでさえ瞬時に臨戦態勢を整える。


『──そろそろ始めようぜ、聖女レイティア』


「……どうしても、やるのかしら」


 そんな彼女たちを尻目にジェイデンは底冷えするような低い声音で聖女への宣戦布告を口にするも、レイティアはすでに聖女を引退した気でいる事もあり、ハッキリ言ってしまえば──気乗りではなかった。


 ジェイデンが根っからの悪ではない──という事実もまた、拍車をかけているのかもしれないが。


『当ったり前だろうが! 俺は常に強者を求めてる! 人間だろうが同族だろうが構わねぇ! そして──』


 されど、どうやらジェイデンとしても譲る気はないようで、あまりに鋭い前脚の爪をレイティアに向けつつ復活する前と全く同じ自らの矜持を大声で叫ぶ。


『ボロボロになりながら俺を倒した勇者も! 呆れながらも手合わせに付き合ってくれた魔王様も! もうこの世にはいねぇんだ!! 分かるか!?』


 ジェイデンにとって勇者が善かどうかなど、或いは魔王や自分たちが悪かどうかなど関係なく──強いて言えば、自分と張り合える強者こそが善だった。



 ──ゆえに。



『俺の相手が務まるのは──世界最強の光の使い手である聖女レイティア!! お前しかいねぇんだよ!!』



 もう、この世界で自分で張り合える、もしくは自分を上回るほどの力を有しているのは聖女であるレイティアしか残っていないのだと強く主張した。


 ちなみに、ちゃんと探せば他の二十五体も見つかるだろうが、せっかく魔王からもらった命を同族同士で消費するのは勿体ないと考えての選択だった。


「……いいわ。 そこまで言うなら──え?」


 そんなジェイデンの必死の主張を聞いたレイティアは、『これは断り切れないかな』と判断し、つい先程までと同じように光を纏おうとしたのだが──。


『んん? 何だ、小娘ども』


 いつの間にか自分たちの間にスタークとフェアトが二体の竜を伴った状態で立っており、それに気がついたジェイデンは心から不思議そうな声を上げる。


 ……そもそも、ジェイデンはこの二人の少女が何者なのかすら分かっていないのだから無理もないが。


「なぁフェアト。 あたしらの旅の目的、何だった?」


「……魔族を見つけ次第、倒す事ですね」


 そんな中、スタークが改めて母から告げられた旅の目的を確認するように真剣な表情で尋ねると、フェアトも姉と同じく粛々とした態度で返答する。


「じゃあよ、フェアト。 こいつは──何だ?」


「魔族──いえ、元魔族みたいですね」


 更に、スタークがスッと眼前にいる緋色の巨竜を指差しつつ、すでに分かり切っている正体について問うと、またもフェアトは声のトーンを変えずに答えた。


 そして、それを聞いたスタークはニィッと笑い。


「それじゃあ──決まりだな?」


「……はぁ、分かりましたよ」


 自らの手をバキバキと鳴らしながら勝手に何かを決めてしまい、その何かが何なのかを聞くまでもなく理解したフェアトは溜息をこぼしながらも苦笑する。


「ちょ、ちょっと貴女たち──」


 それを見ていたレイティアの制止も虚しく──。


「つー事で……あたしらが相手だ、元魔族」


「お母さんと戦いたいのなら、私たちを倒してからにしてもらえるとありがたいです。 元魔族さん」


『『りゅーっ!!』』


 スタークとフェアト、パイクとシルドの二組の双子は、眼前の元魔族である怒赤竜どせきりゅうに宣戦布告した。


『お母さん……? っ! あぁ! そういう事かぁ!!』


 そんな中、フェアトが口にした『お母さん』という言葉で全てを察したジェイデンが、『くぁーっはっはっは!!』と今までにないほど高笑いを響かせる。


『お前ら、聖女レイティアの娘か!! だったら強ぇよな!? いいぜ、とことんやり合おうじゃねぇか!!』


 そして、スタークとフェアトの正体を大声で口にしつつ、『聖女の娘なら弱いわけがない』と決め打ったジェイデンは翼を広げながら一歩前に踏み出した。



 今、元魔族との戦いの火蓋が切って落とされる。


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