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攻撃特化と守備特化、無敵の双子は矛と盾!  作者: 天眼鏡


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146/402

三日後──

 あの爆発事故──ミュレイトの道連れ目的での自爆による地底湖へ続く洞窟の崩落から、およそ三日後。


 シュパース諸島に属する全ての島々を騒がせた爆発事故の全貌は、パイクたちによって後遺症もなく意識を取り戻せたアルシェの計らいで伏せらたのだが、やはり人の口に戸を立てるのは難しかったようで──。


 観光組合の長でもあり、それと同時に悦楽教の教祖でもあったミュレイトの失踪──彼を知る者たちの殆どは、ミュレイトが原因だと察していたらしかった。



 ……あの性格が要因の一つなのは言うまでもない。



 しかし、それ以上に大変だったのはミュレイト以外にも【破顔一笑ラフメイカー】の影響を受けていた組合員や観光客たちの方で、リャノンが諸島から離れたのなら勝手に影響も解けるのではと思っていたフェアトの楽観的な推測を裏切り、あろう事か彼らはスタークやアルシェが陥ったような中毒症状を苛んでしまう事となった。



 ……マネッタなどは、その筆頭である。



 当然、仮にも並び立つ者たち(シークエンス)であるリャノンの力の残滓が並の魔法使いの【キュア】で解ける筈もなく、そんな彼らを置いて次の目的地に向かうのは流石に無責任ではないかと考えた双子は彼らを治療して回る事に。


 尤も、【光治キュア】や【水治キュア】を実際に行使したのは双子ではなく二体の神晶竜と【魔弾の銃士】だったが。


 正直なところ、アルシェは本調子とは程遠い状態にあったものの、【影裏えいり】の一員として黙って寝てはいられないと気怠さの残る身体を押して治療していた。


 とはいえ重度の中毒症状に苛まれていたのは観光組合の本部があるこの島に住んでいた、もしくは観光などで訪れていた者たちに限定されており、そこまで時間がかかっておらず重労働だったわけでもなく──。


 こんな事に時間を費やしている暇は無い──という当たり前の事実を除けば、あっという間の三日間で。


「──……やーっと終わったなぁ、あいつらの治療」


『『りゅあぁ……』』


 三日前に泊まっていたのと同じ宿泊施設ホテルにて、やはり安価な宿泊費用相応のベッドに身体を投げ出したスタークは、その両隣に仔竜の姿でふらふらと降り立ったパイクとシルドを労いながら軽く欠伸を噛み殺す。


「えぇ、本当にお疲れ様でした。 パイク、シルド」


『『りゅ〜……』』


 そんなスタークの横となるベッドの端に腰掛けたフェアトが、もう眠たそうな二体の竜種を優しい手つきで撫でてあげると、より一層の眠たげな声を上げた。


「……つってもまぁ、あん時お前を地底湖の底から救助する事の方がよっっっっぽど大変だったけどなぁ」


「……そ、その節は──」


 翻って、スタークはベッドに寝転がったまま妹の方を向きつつ、あの爆発の後でフェアトを救助──もとい回収した時の事を浅くない溜息とともに語り出す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ミュレイトが──というより、ミュレイトの遺した魔力がこもった魔石による火と風の爆発が起こる前。


 回復魔法が効きすぎるせいで、アルシェとは違い微妙な調整を要されていたパイクとシルドが、どうにかして後遺症が残らないようにと水と光の【キュア】をスタークに行使しようと悪戦苦闘していた──その瞬間。


『──りゅうっ!?』


『りゅあっ?』


 火と風の両方に適性を持つパイクが少し先に、そして僅かに遅れてシルドも極大の魔力反応を感知して洞窟の方を向きつつ、フェアトに指示された通りに未だ動けぬ二人を護る為に魔法行使の用意をしていると。




 ドッ──ガァアアアアアアアア……ンッ!!!




『!? りゅうーーーーっ!?』


『りゅうっ! りゅあっ!』


『りゅ、りゅうっ!』


 突如、島ごと揺れたのではないかという大きな地響きとともに洞窟がガラガラと音を立て土煙を撒き散らしながら崩れていく、そんな光景にシルドが驚きの鳴き声を上げるのも束の間、即座に【氷壁バリア】の行使に移っていたパイクに呼応したシルドもが【土壁バリア】を行使した事で、どうにか自分たちへの被害は軽減できた。


 しかし、だからといって洞窟の崩壊が止むわけではなく、シルドはすぐにフェアトを助けに向かいたかったが、フェアトの指示を守らなければという思いもあった為、爆発が収まるまで待とうとしていた時──。


「──……ぅ、るせぇ、なぁ……」


『『りゅっ!?』』


 先程までの悪戦苦闘しながらの【キュア】が効果を発揮したのか、それとも今の文字通りの爆音によるものなのかはともかく、スタークが目を覚ました事に気がついた二体は振り返りながらも魔法の行使は緩めない。


「……あ? パイク、シルド……? 何やって──」


『りゅー! りゅあぁっ!!』


 いかにも寝起きといわんばかりの惚けた表情を浮かべた彼女は、パイクとシルドを視界に映すやいなや目の前で何が起きているかも分からず首をかしげていたのだが、それどころではないとパイクが吠えた事で。


「……洞窟、か? あれ……何で、崩れて──っ!?」


 異常事態が起こっていると、ようやく察する事ができたらしいスタークは、その更に奥にある洞窟か何かが崩れて派手な音や土煙を立てている事にも気がついて──ここで先程の出来事を思い出す事に成功する。


「──まさか、あん中にいんのか!? あいつが!?」


『りゅ、りゅうぅ……』


「っ、あの馬鹿……!」


 そう、この場にフェアトの姿がない事もあって崩れた洞窟の中にいるのかという確信めいた彼女の問いかけに、シルドはスタークと同じくらいに焦った様子で肯定する意味での鳴き声を上げ、それを鳴き声通りに受け取ったスタークは舌を打ちつつ洞窟の方を向き。


()()()! ついてこい! あいつを掘り出すぞ!!」


『! りゅ、りゅあーっ!』


「お前は、ここで被害を防いでろ! できるな!?」


『りゅうっ!!』


 爆発の衝撃自体は随分と弱まったが未だに崩壊は続いている洞窟に向けて走り出すとともに、パイクではなくシルドの名を呼んでフェアトを助けるから一緒に来いと告げると、シルドは使命感に満ちた表情で答えながらも飛んでいき、それを見たスタークは振り返ってもう片方の竜にも指示を出してから洞窟に向かう。


「両爪になれ、シルド! で、ここが崩れねぇように魔法も使え! 水と土がありゃあ何とかできんだろ!?」


『りゅう! りゅいぃ──りゅあーーーーっ!!』


 それから、どうやら戦闘だと捉えているのか随分と明確な指示を出すスタークに、シルドは驚きつつも頷いて彼女の両腕に機械チックで半透明な竜の爪として装備され洞窟を掘り進みながら、そのせいで洞窟が完全に崩れてしまわぬように、そして地底湖の水が氾濫してしまわぬように水と土の魔法を駆使していった。


 結局、地底湖の奥の奥……水底に沈みきっていたフェアトを助けるのは本当に骨が折れたとか、その過程で正気を取り戻していた魔物との戦闘を繰り広げる羽目になったとか、パイクによるダメ押しの【光治キュア】で意識を取り戻したアルシェが洞窟の外で野次馬たちを抑えていたりとか、まさに千辛万苦な出来事で──。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「──……ん?」


「え?」


 そういった事をグチグチと語ってやろうとしたスタークの耳に、この部屋に向かって歩いてくる軽いとは言えない足取りでの足音が届いた事で話を中断し、それを見たフェアトが同じように扉の方へ目を向ける。



 すると、その瞬間に扉をノックする音が響き。



「──お疲れ様、二人とも」


「……あぁ、アルシェさん」


 どうぞ、とフェアトが入室の許可を出す旨の声をかけたと同時に入ってきたのは他でもないアルシェであり、すでにパイクたちの存在は知られている為──といっても神晶竜とは伝えていないが──特に驚く事もなく彼女は二組の双子を労いつつ据付の椅子に座り。


「お疲れ様は、お互い様だと思うんですが……それより、もう片付いたんですか? あちらの後始末の方は」


「えぇ、大体ね」


 その一方、本当に『お疲れ様』なのは間違いなくアルシェの方であると理解していたフェアトが、ここに来るという事は【影裏えいり】の一員としての役割が終わったのかと踏んで問いかけたところ、アルシェからは全部が終わったわけではないという答えが返ってくる。


 それに対して、スタークとフェアトは『早いな』とか『やっぱり時間かかるんですね』とか、アルシェの仕事ぶりを褒める事もケチをつける事もしなかった。


 何しろ、『機密部隊』の一員が果たす役割自体は何となく説明されているからいいものの、その仕事にどれだけの時間を費やすのが普通なのかなど、たかだか成人したての十五歳の双子に分かる筈がないからだ。


「……正直に言うと、そんな壮大な計画を考えてたなんて思いもしなかったし、()()を見た今だから事前に防げて良かったって言えるけど……私もまだまだね」


「……あれって何だ?」


 そんな事を考えていた双子が彼女の二の句を待つ中で、アルシェは途端に整いつつも疲れが見える表情に影を落とし、ミュレイトの企みは未然に防ぐ事はできたが、それはフェアトのお陰であり、ましてや全てが終わった後にフェアトから聞いた彼の計画の全貌を知ってもなお疑わしく思ってしまった事を恥じる一方。


 彼女の話の途中に出てきた、『あれ』という指示代名詞に引っかかりを覚えたスタークが問いかけると。


「保管庫よ。 あの男が計画の為に集めてたお金や、そのお金で購入した武具や魔石の数々を保管した場所の事。 教会の地下室に造られていたのを見つけたのよ」


 その指示代名詞が指していたのは、ミュレイトが何年も何年も『国盗り』という荒唐無稽な計画を遂行する為に集めていた金品や武具、魔石などが大量に保管されていた倉庫のような場所の事で、その保管庫は悦楽教の教会の地下深くに造られていたのだとか──。


 あの教会が観光組合の本部と比べて古ぼけていたのは『表の面』を祀っているからというだけでなく、その地下に保管庫があるからこそ誰も近寄ろうとはしない古ぼけたままを維持させていたのではないか──という、アルシェが口にした彼女なりの憶測を尻目に。


「……お金は魔導国家の有力かつ王族に反旗を翻しても不思議じゃない貴族を買収する為、武具や魔石は近衛師団や騎士団への対抗策として寡兵に持たせる為」


「……国盗りが目的だったなら、そうでしょうね」


「……ほーん」


 フェアトはフェアトで、そこに保管されていた大量の金品や武具、魔石などの使い道を推測しており、その推測が殆ど自分がしていたものと同じだと感じたアルシェが感心したように頷く一方、二人の会話にいまいちついていけていないスタークは何となく頷いた。



 ……理解できたのは三、四割といったところか。



 ちなみに、フェアトたちの推測は見事に大正解。



 後数年もすれば有力な貴族を買収して懐柔し、それらが率いる兵たちに武具や魔石を持たせる事による反乱、延いては国盗りが成っていたかもしれない──。



 アルシェは、その保管庫を見て半ば確信していた。



「保管庫に隠していた金品については可能な限り返金してあげたいんだけど……ちょっと難しいかしらね」


「ちょっとどころじゃねぇだろ」


「判別は、ほぼ不可能ですよね」


 それから保管庫に隠されていた武具や魔石はともかくとしても、お金などに関しては支払った人たちに返してあげたいというのが本音だったが、よくよく考えずとも一体どの観光客や信徒が支払ったのかなど判別できる筈もないというのはスタークでさえ分かる事。


 とはいえ、まだ諸島に残っている──というより在留を強制されていた観光客であれば、これまでの観光費用を名簿や遊覧、購買の履歴から判別可能かもしれないが、それについては『私たちに任せて』と言ってくれた冒険者たちが協力してくれる事になっていた。



 しかし、それでも大量に余る金品の使途としては。



「だから、その殆どは各国の国債の返還にあてられる事になるみたいよ。 【教導国家】は分からないけど」


「……皮肉にしても笑えないですね、それは」


「……そうね」


 どうやら、【教導国家】セントレイティアを除いた東西南北に位置する四つの国が討議した結果、大量の金品は全て少なからず各国が負っている債権──国債の返還にあてる事になったと告げると、ミュレイトの目的である国盗りの発端である『各国の闇』について聞いていたフェアトは何とも言えない表情を浮かべ、それに対してはアルシェも真剣味を帯びた表情で頷いた。


 あれほどの怨嗟をぶつけられた身としては、その使い道に思うところがない──とは言えなかったから。


「そんなわけだから、もう少し滞在することになったわ。 ここに新たに派遣されてくる【影裏えいり】のメンバーと一緒にね。 それで貴女たちの予定を聞いておこうと思って訪ねたのよ。 もしかして、もう諸島ここを出る?」


「……あ〜……」


 その後、少し重くなってしまった空気を払拭するかのように手を叩いたアルシェが、スタークたちの今後の予定について問いかけつつ、もし近日に発つなら見送りしたいと暗に告げたところ、スタークは少し上を向いてポカンと口を開けたまま妹の方に視線を移す。


 こういうのは全て妹に任せると決めていたからであり、それを分かっていたフェアトも首を縦に振って。


「……そう、ですね。 まぁ観光できなかったのは残念ですけど、やらなければいけない事もありますから」


「そうなんのかぁ、まだ釣りとかしてぇんだけどな」


「……美食国家ですればいいじゃないですか」


 あくまでも本来の目的は隠したうえで、『いやぁ残念、残念ですね』とわざとらしい身振り手振りとともに明日には諸島を発つと口にしたが、それに真っ先に反応したのはスタークの方であり、まだ釣りも満足にできていなければ遊泳さえできていない事実を不満げに語るも、それは南でやってくれとフェアトが呟き。


 また、あの観光組合の応接間でのやりとりの時のような痴話喧嘩に発展しても困ると考えたアルシェは。


「それじゃあ明日、見送りさせてちょうだい。 この案件が終わったら私も戻るから、もしかしたら向こうで会えるかもしれないけど……せっかくだから、ね?」


「……えぇ、ありがとうございます」


「じゃ、また明日。 おやすみなさい」


「……あぁ」


 話を纏める意味でも、こちらに注目を集める意味でも再び手を叩いてから明朝に見送りをする旨を伝えつつ、『また美食国家で会えたらいいわね』と微笑みながら立ち上がった彼女に、フェアトは同じく立ち上がって感謝の意を言葉と行動で示す中、アルシェが扉に手をかけた状態で口にした就寝の挨拶に対して、スタークは特に立つ事もなく寝転がったまま手を振った。


 その後、一人減っただけで随分と静かになった部屋の中で、すでに眠気が限界だったパイクたちが浅い寝息を立てるのをフェアトが微笑ましげに見ていた時。


「──……おい、フェアト」


「? 何で──すっ!?」


 突如、普段なら眠っていても不思議ではないスタークが、やたらと真剣味の溢れた表情を浮かべて声をかけてきた事に違和感を覚えたフェアトが振り向くと。



「……お前、何か隠してねぇか?」


「……えっ?」



 いつの間にか、やはり双子らしく顔立ちだけはよく似ているその整った顔を近づけつつ、フェアトに対して『あたしに隠してる事あんだろ』と問い詰めてきた姉に、フェアトは思わず一音でのみ返答してしまう。



 思い当たる事がなかったから、ではない──。



 ──思い当たる事が、ありすぎたからだ。


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