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奴隷の国  作者: 猫人鳥
1章
8/1600

8 勝利

「さて、じゃあ始めましょうか」

「そうだな」


 アキナ様は奴隷商と離れ、飼育係の男と向き合う。


「おい、本当にいいんだな? 思いっきり殴るぞ」

「あぁ、魔法契約までしたんだ。問題ないさ」

「よし、なら全力でいくぜ」


 飼育係の男も一応不安なのか、奴隷商の男に確認をとっている。

 でもこの男が全く容赦しないのは、私も知っている。

 女子供関係なし、弱っていても痛めつける……この男はそういう奴だ。

 アキナ様……自分は強いと仰っていたけど、大丈夫なのだろうか?

 何処となく、さっきより少し顔色が悪いように見えるけど……?


「それじゃあお互いに、準備はいいですか?」

「あぁ、これをつけてっと……俺はいつでもいいぜ!」


 飼育係の男は、指にはめながら手で握る武器を装着した。

 あの男がいつも使っていた奴だ。


「私もいつでもいいわ」


 対してアキナ様はどう見ても武器も何も持っていない。

 魔法で戦うつもりなんだろうか?

 でもそれならアキナ様には不利過ぎる。

 あれで私も殴られた事があるけど、その時に魔法は使えなかった。

 つまり、あの男は普段からマジックキャンセラーを多用しているという事だ。


 さっきマジックキャンセラーの話もしていたし、アキナ様がその存在を知らないはずがない。

 だったらどうやって戦うつもりなのか……

 本当にアキナ様は大丈夫なのか……

 私が悩んでいると、


「戦闘開始っ!」


と、戦闘が始まってしまった。

 その奴隷商の開始の合図でいきなり、


「うおおおぉぉぉぉ!」


という、雄叫びと共に飼育係の男がアキナ様へ殴りかかった。

 それに全く動じる様子もなく、アキナ様は右手をあげて、殴りかかってきた男の手を止めた。

 止めた反動で後退りすることもなく、まるで男が急に固まったかのように、一瞬で止まった。

 男は殴りかかった状態、アキナ様はそれを止めた状態のまま、2人共動かない。


 でもあの攻撃をあんなに簡単に止めれるなんて……

 やっぱりあの飼育係でも、貴族かもしれない少女を怪我をさせてしまうのは怖いのだろうか?

 だから本気で殴れなかったのか?


 ……いや、違う!

 よく見ると飼育係の男の、腕の筋肉が少し震えている。

 あれは、あの男は自分の目一杯の力を込めて、全力で殴っているということだ。

 しかも現在進行形で殴りかかろうと、力を込め続けているんだ。

 それをアキナ様が片手で止めている……?


 どういう事だろう?

 手に何か強化魔法でも使っているのか?

 でもさっき、マジックキャンセラーは使っていいと言っていたので、当然使っているはずだ。

 だったらアキナ様も魔法は使えないはず……

 強化魔法や防御魔法もなしで、あんな攻撃を止められるわけがない……


「クソがぁぁぁあああっ!」


 止められている手で殴る事を諦めたようで、飼育係の男は反対の手に力を込めて、殴りかかった。

 アキナ様に当たるかと思いきや、さっきまでそこにあったアキナ様の姿は消えていた。

 勢いよく振りかざしたその拳は、当たる対象もないことで盛大な空振りとなり、男はそのままよろける。

 それを倒れまいと踏み出した足は、その足だけでは勢いのついた体を支える事もできず、一歩二歩と進んでいき、線のギリギリのところで踏みとどまった。


 そこを、


「えいっ!」


と、男の背後にいたアキナ様に背中を押されて、線から出た。


「線から出たわ。私の勝ちね」


 何事もなかったかの様に、冷静にそう言ったアキナ様。

 こんな結果になるとは誰も思わなかったんだろう。

 全員が唖然として声を出さなかった……いや、出せなかった。


 少し間を置き、現状を理解した奴隷商が飼育係につかみかかった。


「おいおいおいっ! なんだ今の戦いは!? お前っ! ふざけやがって!」

「ふざけてなんかねぇよ! 俺は一発目も二発目も本気で殴ったっ! なのにあのガキ、止めやがったんだよ!」

「そんなの、おかしいだろ!」


 奴隷商と飼育係はもめ出した。

 その様子を見ていたアキナ様が、


「もめるのは後にしてくれない? もう勝敗は決したんだから、早く金貨頂戴。あとフィーにも関わらないでよ」


と、奴隷商達に言った。


「こんなのはおかしい! 今の戦いは無効だ!」

「あら、何を勝手な事を言ってるのかしら? こうして契約書も書いたじゃない」

「そ、それはそうだが……で、でもあり得ないだろっ! 何であいつの拳を止められたんだ!?」

「それをあなたに説明する必要はないでしょ? 最初に言ったじゃない。何でもありの勝負だって」

「くそっ!」


 何を使ってもよくて、ただ子供を線から出すだけの、絶対に有利だったはずの勝負。

 負けるなんて事、考えてもいなかったんだろう。

 奴隷商達は言葉を失っていた。


「払わないのなら、契約違反よ」


 魔法契約書をピラピラと見せつけながら、アキナ様はそう言った。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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