6 相手
「なんの勝負をするんだ?」
「普通に何でもありの、相手が降参するまで戦うだけでいいわ」
アキナ様の無邪気な笑顔に対して奴隷商達の驚いた顔。
まさかそんな勝負でいいとは思っていなかったんだろう。
「は? そんなんでいいのか?」
「えぇ」
アキナ様は一度ちらっと私を見た。
つまり、そういうことだ。
アキナ様にとって魔神種というのは、とても強い存在なんだろう。
せっかく手にいれた魔神種の強さを見るためにも、戦わせてみたいんだ。
新しい玩具を手にいれて、すぐに遊ぼうとする子供と一緒だ。
それもその玩具がレアで、強いともなれば、戦わせてみたいと思うのも当然だろう。
対して奴隷商達は勝ちを確信したんだろう。
そして、アキナ様が魔神種の私を強いと勘違いしている事にも気づいたみたいだ。
私を買ったばかりのアキナ様には、私の奴隷印が特殊奴隷印で、私が下等魔法しか使えないなんて事は分からない。
だから私の事を強いと思っているんだろうと……
……ここで戦って、勝つことができたら、私はここを出ていける。
アキナ様についていくことができる。
下等魔法だけでも、上手く戦えばなんとかなるかもしれない。
降参しなければ負けにならないのなら、私は降参なんてするつもりはない。
ここの生活は本当に最低だった。
ずっと出ていきたいと思っていた。
でも、今までに私をレンタルした者の家では、ここより酷い生活もあった。
最低より最低……底辺というものには底が無いのだと、私は理解した。
アキナ様についていくことは、本当にいいのだろうか?
もし頑張って、ここで勝つことができたとしても、アキナ様と共に行く方がもっと酷い生活になる可能性だってある。
そんな事になるのなら、もう慣れてしまったこの最低の生活の方がいいんじゃないか?
何より、アキナ様が私に高等魔法を使わせようとしている事は、さっきの会話で分かっているんだ。
私には出来ないと分かれば、期待外れだと言われる事は間違いない。
そうなったら……
「よし。ならその勝負をやろう。ただルールは相手が降参するまでじゃなくて、この線から出たら負けにしてもらうぜ」
「別にいいけど、何で?」
「えっ……あぁ、俺等もまぁまぁ忙しいんだ。降参するまでだと長引くかもしれねぇだろ?」
「なるほどね」
私が思考を巡らせている間、奴隷商達も相談していた。
そこで決まったんだろう。
彼等が考えていたは、さっきの私の考えで間違っていないはずだ。
この少女は手にいれた魔神種が強いと思い、戦わせてみたいだけ。
だったらその思い込みを壊してやれば、こんなのはいらないと簡単に諦めてくれるだろう……という事だ。
そしてルールを変えたのは、私が簡単には降参なんてしないと思ったからだろう。
今までずっと私を飼ってきた彼等の事だ。
私の性格もそれなりに理解しているはず。
となれば、戦いが長引いて私がボロボロになってしまうと、今後のレンタルの事もあるし、回復させるのも面倒になる。
だから線から出たら負けにしたんだろう。
それならすぐに決着がつくから。
「フィー、大丈夫だから。安心してね」
アキナ様はそう言って、私に笑いかけてくれた。
アキナ様についていったところで、今より酷い生活が待っているかもしれない。
捨てられたり、私の魔力で遊ばれたり、どうなるかなんて想像もしたくない。
でも少なくとも、私にこんな風に笑いかけてくれる人は今までいなかった。
さっきだって、私に椅子とお茶を出すようにと配慮してくれた。
しかもアキナ様は、私にはまだ一度も命令をしていない。
奴隷なんて命令すれば従うものなのに……
それを思うと、やはり私はこの奴隷商達といるより、アキナ様と共に行きたいと思った。
ここで勝てば、もしこの後で転移魔法が出来ないと残念がられても、さっき勝ったからと思ってもらえるかもしれない。
そこまで悪い扱いはされないかもしれない。
そんな期待を持ち、私はどうにか線から出ないように頑張って勝とうと決めた。
でも……
「さぁ、俺達の戦わせる相手はコイツだ!」
そう言って奴隷商達が出した相手は、私の飼育係だった男だった。
私はまた、自分の考えが甘かった事を思い知らされた。
こういう戦闘となれば普通、奴隷同士を戦わせるのが一般的だ。
だから彼等の商品の中で、一番強いものと戦わさせられるんだと思っていた。
でも彼等からしたら、確実に私を取り返すために、奴隷に関係なく一番強い男を戦わせるのは当然の事じゃないか。
少しでも勝てるかもと、期待した私がバカだった。
相手があの飼育係でのこんな勝負に、私が勝てる訳がない……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)