5 勝負
「おいおい嬢ちゃん。買い物はもうちょっと勉強してからするべきだったな。それは嬢ちゃんには必要のないものだろ?」
そう言って近づいてきた3人の奴隷商達。
きっと私達をずっとつけてきていたんだろう。
周りにさっきの野次馬客達もいなくなった今なら、あの取引をなかった事にするため、本当はレンタルしかやっていないと説明しても大丈夫だからだ。
「実はね、お嬢さん。ソイツはレンタルしかやってないんだよ。売りもんじゃないの。分かりますか?」
やっぱりそうだ。
私を取り返す為に来たんだ。
「私はちゃんとお金を出して買ったのよ。買い方も間違えていないし、何の問題もないはずだわ」
3対1なのに全く臆することなく、淡々と言い切るアキナ様。
「とりあえず、話し合うにしてもここは少し目立つからな。場所を移動しよう」
「嬢ちゃんも来てくれるよな?」
「んー……まぁ、変に尾行されても面倒だしね。お茶くらいは出しなさい」
奴隷商達について歩いていき、ついた先は奴隷商達の大きなテントの中だった。
中は薄暗く不気味で、檻が沢山置いてあった。
「こっちにどうぞ」
奴隷商がアキナ様を席に促し、アキナ様と奴隷商はテーブル越しに向き合う形で席についた。
そこに別の奴隷商がお茶を持ってきて、アキナ様の前にだす。
「さて、じゃあ本題に入らせてもらうが……」
「1つ足りないわ。椅子も、お茶も」
奴隷商が話を始めようとしたら、それを遮るようにアキナ様はそう言った。
私の椅子とお茶を要求しているようだ。
「は? コイツは奴隷だぜ? いらねぇだろ」
「それは主人たる私が判断する。あなた達が決める事ではないわ」
「ったく、しゃーねーな」
出さないと話が進まなさそうだと思ったのか、渋々椅子とお茶を私のところに持ってきた。
だからといって私も座るわけにはいかないし、お茶を受けとる気もない。
アキナ様の許可がないのに勝手に動く訳には……
「フィー、座っていいのよ」
私がそう思っているのを察してくれたのか、アキナ様は私に座るよう促した。
これでは座るしかない。
一応お茶も受け取っておく。
アキナ様は私が座ったのを確認すると、出されたお茶を飲んだ。
そして、めちゃくちゃむせた。
「ごほっ……まっず……何よこの不味すぎるお茶は! フィー、このお茶は飲まない方がいいわ」
「か、かしこまりました。アキナ様」
「あのなぁ、お嬢さん。お嬢さんが普段どんな美味しいお茶を飲んでるかなんて知らねぇんだけど、ここではこれがお茶なんですよ」
「ちゃんとしたお茶も出せないようなら、帰るわよ」
そう言って席を立つアキナ様。
私も一緒に出ていくためについて行こうとして、奴隷商に腕を掴まれた。
「フィーに何してるのよ。離しなさい」
「それはレアなんだよ。嬢ちゃんよりコレクターや金持ちの玩具として貸し出した方が俺等は儲かるんだ。だから返してもらおうか」
「そうそう、お嬢さんに売っちまったのは手違いなんだよ。この金貨1000枚も返すからさ、なかった事にしてくれ」
奴隷商達は私を抑えた状態でアキナ様と交渉をしている。
こんなものはもはや交渉とは言えないだろうが……
「コレはもう諦めて、新しい玩具でも買ってくれよ」
「はぁ、もう……面倒くさいわね」
「だろ? 面倒だろ? なら、いらないよな? だからほら」
もともとアキナ様の持ち物だったテーブルの上の金貨1000枚を、奴隷商はアキナ様の方へ押す。
それを受けとる様子はなかったアキナ様は、
「だったら勝負してあげてもいいわよ」
と、突然言った。
「勝負?」
「もしあなた達が勝ったら、あなた達の希望通り、フィーを買ったことをなかった事にしてあげる」
「本当か!?」
「ただ負けたら、私が払った金貨1000枚は返してね」
「は?」
「何言ってんだい?」
「だってそうでしょ? 本当ならしてあげる必要もない勝負をしてあげるんだから。このままだと私が勝った時に私の得が何もないわ」
「確かにそうだが……」
「でしょ?」
このままでは埒が明かないからだろう。
アキナ様は手っ取り早く勝負で解決させたいようだ。
しかも自分が勝ったら金貨も貰うとは、子供ながらしっかりしている。
「よし分かった。なら勝負で決めようじゃないか」
奴隷商も勝負に乗り気になったようだ。
これに勝てば変に子供に癇癪も起こされることなく、私を取り返せるからだろう。
何より、アキナ様は自分から勝負でと言い出したんだ。
例え負けても素直に諦めてくれると思ったんだろう。
自分から挑んで負けたなんて恥ずかしい話、子供が自分で広めるわけがない。
「で、なんの勝負をするんだ?」
「普通に何でもありの、相手が降参するまで戦うだけでいいわ」
アキナ様は子供らしい無邪気な笑顔でそう言った。
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