251 防御
カイ視点です。
フィールさんが発動した魔法で、俺の移動出来る範囲一帯にとても冷たい風が吹き荒れている。
寒さで思うようには動けないし、話すことも出来ない。
しかも冷たい塊が飛んでくるので、この状況で攻撃をされたら、間違いなく避けれない……
アキナ様がアドバイスをして下さっているお蔭で、なんとか今まで避けれてきたけど、これからどうしたらいいんだろう?
「カイ。フィーは今、カイがどこにいるのかが分からなくなってると思うわ。だから今のうちに、服に≪ヒート≫を使っておきましょうね」
「は、はい……≪ヒート≫……」
「あら、私の服にまでかけてくれたの? 私は大丈夫なのに」
「いえ……つい、で……です、から……」
「そう。ありがとう」
≪ヒート≫で多少はよくなったけど、むき出しの顔や翼は寒いままだ。
早くこの状況をなんとかしないと……
フィールさんの方を見ていると、フィールさんは≪フレイム≫を色んな方向に放ち始めた。
俺がどこにいるのかを探そうとしているんだろう。
威力の弱い≪フレイム≫なので、あたったところは一瞬だけ冷たい塊が溶けるけど、すぐに戻ってしまっている。
でも、俺を探すだけなら、あれくらいの≪フレイム≫で十分だ。
本当にフィールさんの攻撃には無駄がない。
一応移動し続けてはいるけど、あの≪フレイム≫にあたるのも時間の問題かもしれないな……と、俺が考えていると、
「カイ、ここからフィーを狙えそう?」
と、アキナ様に聞かれた。
「えっ! お、俺が……フィー、ルさんを……攻撃するん、ですか……?」
「そうね」
「いいんで、すか?」
これは、俺がアキナ様を抱えて飛んでいる時に、攻撃を避けるための練習なんだから、俺がフィールさんを攻撃するのはダメな気がするけど……
「かわす事だけが避ける事ではないわ。さっきカイがやったみたいに、≪シールド≫を発動して防ぐというのも、立派な避け方の1つよ」
「あぁ……」
「だから、攻撃をしてこようとしている人の注意を逸らせたり、そもそも攻撃を出来ないようにしたりするのも、避ける練習としていい経験になると思うわよ」
「そうなん、ですね……」
そう言われると、俺がフィールさんに攻撃するのもおかしくないような気がしてきた。
それに何より、実際に襲われていたら、相手を攻撃しないで逃げるだけなんて事、出来る訳がない。
いくら俺達に戦う意思がないとしても、襲ってくる人達はそんな事はお構い無しに攻撃してくるだろうから。
ちゃんと、俺からも攻撃出来る練習もしておかないとダメなんだ。
「じゃあ、攻撃、してみ……ます……」
「えぇ。でも、気をつけてね。こっちからも攻撃するって事は、フィーに見つかってしまう危険性も高くなるからね」
「はい、気をつけ……ます」
魔法陣は、自分よりも離れ過ぎている場所には形成出来ない。
それは魔法陣が自分の想像した光景と現実を繋ぐ、道のような役割をしているものだからだ。
どんな現象を起こす、どういう魔法なのかというのを伝えるまでの道のりが、長くなればなるほど失敗してしまう。
転移魔法の≪アポート≫は、遠くに魔法陣を形成して発動するものだけど、あれは空間移動を利用しているからこそ、遠い場所と自分の手元がとても近くで繋がっているという事になる。
つまり、近くに魔法陣を形成してるのと同じだ。
もちろんそれは想像した光景で、ちゃんと空間を繋げる事が出来ているからこそ出来る事なんだけど。
そんな凄い事まで出来てしまうフィールさんなら、今の俺の移動範囲内のどこにでも魔法陣を形成出来るだろう。
でも、俺には無理だ。
そしてそれはフィールさんだって当然分かってる。
だから今の俺の限界の遠さで魔法陣を形成しても、大体どの辺りに俺がいるのかというのはバレてしまう。
となると、出来るだけフィールさんの死角になる位置に、魔法陣を形成しないと……
「あの……何の魔法で、攻撃したら、いいで……すか?」
「それはカイが決めればいいわ。私はただの、よく喋る荷物なんだから」
「えっと……アキナ様を、荷物……とは、思いません……でも、ちゃんと、自分で考え……ますね」
「えぇ。それがいいわ」
さっきからアキナ様にアドバイスをもらっていたので、普通に聞いてしまったけど、これは俺の練習なんだから、俺が自分で考えないと意味がない。
自分でも気づいてないうちに、俺はアキナ様に甘え過ぎていたみたいだ……
何の魔法で攻撃するかは、ちゃんと自分で考えないと……
フィールさんに気づかれないように、魔法で攻撃するなんて……
普通に発動する魔法では、絶対にフィールさんに気づかれてしまうだろう。
だったら複合魔法で、気づかれないように攻撃するには……
あっ! 俺の≪フレイムボール≫だったら、弾むし、弾んだ先でフィールさんにあたるように狙えば、どこから攻撃したのかも分かりにくいはずだ。
つまり、今の状況で使うのにピッタリの魔法って事だ!
俺が確実に魔法を失敗せずに発動出来る、一番遠い距離で、フィールさんの死角となる位置に魔法陣を形成する。
そして、
「≪フレイム、ボール≫っ!」
と、なんとか≪フレイムボール≫の発動に成功した。
どこに向かって弾ませたらフィールさんの方へいくのかというのも考えて、飛ばす位置を決める。
多少ズレていても、フィールさんの気を逸らすくらいの事は出来るはずだ! と思って、飛ばそうとしたのに……俺の≪フレイムボール≫は、くるっと振り返ったフィールさんに、≪アクア≫をかけられて消されてしまった……
「ふふっ、流石フィーね。ちゃんと警戒していたのね」
楽しそうに笑うアキナ様。
フィールさんは俺が攻撃してくる可能性まで、最初から考えていたんだろう。
何事もなかったかのように、また≪フレイム≫をたくさん放ってきている……
しかも、さっきよりも俺の近くになってきた。
今の≪フレイムボール≫の魔法陣で、俺のいる大体の場所が分かったんだろう。
そしてついに、俺の正面に向かってフィールさんの≪フレイム≫が飛んできてしまった……
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