1330
フィール視点です。
急に現れたアキナ様に驚き、緊張してしまっている様子の妖精種の男性。
そしてそんな彼を見て、自分が恐れられているのだという誤解をされているアキナ様。
この誤解は早急に解かないといけない。
「早速ではありますがアキナ様、彼に名前をつけてあげてくれませんか?」
「名前?」
「はい。実は彼、まだ名前がないんです。ですから是非、アキナ様につけていただきたくて!」
「お願いします!」
「私が付けるの?」
「い、いけませんか? 嫌ですか? あっ、面倒ですよね!?」
「あなたは嫌じゃないの?」
「僕は嫌じゃないです! フィールさんにアキナ様に名付け親になっていただくというご提案をいただいた時から、ずっと楽しみにしていました!」
「そう……」
これでとりあえずは、恐れられているという誤解は解けたはずだ。
恐ろしい相手にお願いなんて出来ないし、そんな相手に名付けてもらう事を楽しみになんてする訳がないんだから。
「うーん? そうねぇ……ちょっと≪アプレイザル≫を使ってもいい?」
「え、ダメですよ!」
「でも、この子の事をちゃんと知らないと、名前が付けられないわ」
「それは……」
「≪アプレイザル≫くらいならすぐに治るから!」
「ちゃんと安静にして下さいますか?」
「えぇ!」
「それなら……」
アキナ様ならいつものように直感で付けて下さるかと思っていたけど、彼の名前にはかなり悩んでおられる。
一生のものになるからこそ、しっかりと考えて付けてあげたいという事なんだろう。
名前に当人の育った時期や環境を組み入れるというのはよくある事だから、彼の事を知りたいんだろうけど、でもまさか≪アプレイザル≫を使いたいとまで仰られるなんて……
「じゃあいくわね、≪アプレイザル≫……んっ」
「アキナ様!」
「だ、大丈夫よ……ありがとう、カイ」
「はい……」
アキナ様はずっとカイに抱えられた状態のままなので、倒れられるという事はないけど、やっぱり少し顔色は悪くなられたように見える。
それに≪アプレイザル≫を使われたんだから、彼が魔術師協会で育てられたのだという事もアキナ様は分かったはずだ。
それはあまり気分の良い事ではないから……
「んー、うん! あなたの名前は、"キロロ"ね!」
「キ、キロロですか?」
「嫌だった?」
「いえ! 面白い響きでいいと思います!」
「因みですけどアキナ様?、キロロにした理由はなんですか?」
「さっきからずっと、落ちつきなくキョロキョロしてたから」
「……結局安直」
≪アプレイザル≫を使われたのに、結局は見た目と行動で決められたみたいだ。
まぁ産まれた土地の要素なんて名前に取り入れたくはないだろうし。
「お、落ちつきなかったですか!? 申し訳ございません……」
「謝る事なんてないわ。周りを見渡せるというのは、それだけ周りへの興味を持てているという事なのよ? それは、楽しい事もたくさん見つけられるという、とても素晴らしい事でもあるんだから!」
「は、はいっ!」
落ち着きなくキョロキョロしていたからとして付けられた名前だったら、どう喜んでいいのかもよく分からなかっただろうけど、こう言われると違うだろうな。
確かにこの魔力樹に案内してくるまでの間と、ずっとキョロキョロと辺りを観察していたし、楽しい事を見つけるのは得意そうだ。
「これからもたくさんの事に興味を持って、色々挑戦していって頂戴ね! キロロ・パックル!」
「パックル?」
「パックルはあなたのファミリーネームよ。あなたのお母様の名前は、ロロナ・パックルだから」
「僕の、お母様……」
「そう、お母様」
やっぱり、アキナ様は流石だな。
名付けにおいて、≪アプレイザル≫を使われた意味がなかったと勝手に思ってしまっていたけど、そんな事はなかった。
キロロ・パックル……私もとても素敵な名前だと思う。
「改めて、これからよろしくね。キロロ」
「よろしくお願いしますね、キロロさん!」
「はい! よろしくお願いします!」
キロロはとても嬉しそうに笑ってくれた。
この喜びは、自分の名前を着けてもらえたという事だけでなく、今まで何も分からなかった自分の家族という存在について知り得た事も大きいだろう。
ただ、その嬉しそうなキロロを見ながら笑っておられるアキナ様の事は心配になる。
ベンジャミンさんがリクシス様に仕えて何年かなんて事までをご存知だったんだから、アキナ様の≪アプレイザル≫でなら、相当に色んな情報が分かっているはずだ。
そこにはきっと、両親の名前どころではなく、もっとキロロの為になるような情報も沢山あるだろう。
カイやココアのように、自身の記憶のない人にだって教えられるのに、教えてはおられない。
それはアキナ様の特殊な事情に関わる事だからと私達は分かって受け入れているけど、アキナ様は受け入れてはおられない。
だからそんなご自身を嫌われているんだ……
今回のキロロの事でもまた、知っているのに教えないという非道な事をしているのだとして、ご自身を責めておられるんだろうな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




