1303
フィール視点です。
「ふふっ。今頃ミララに攻撃をしたという魔術師は、その酬いを受けているでしょうね。自身に課された呪いによって」
冷たく笑いながらそう仰られたアキナ様。
その笑顔を悲しいと思うけど、これで私の疑問は解決した。
あの耳飾りに施されていた術式に、呪いに関する事があったように見えたのは、間違いではなかったんだ。
「アキナ様? 呪いって何の事ですか?」
「あぁ、改めてちゃんと説明するとね、その耳飾りの魔力封じの効果というのは、呪いなのよ」
「呪い……」
「呪いというのは、邪気が変異した事で生まれるエネルギー体よ。つまりね、ミララが結界の発動するような魔法攻撃を受けた場合、耳飾りは魔法を反転させて、その魔力の持ち主の邪気を変異させるのよ」
「……その呪いの効果が、魔力封じなんですか?」
「えぇ。魔力封じと、物理攻撃の跳ね返りね。だからその魔術師は、もう魔力を使えない上に、物理攻撃をすると全て自分に返ってきてしまう状態になっているのよ。呪いを解かない限りは、永遠にね」
……そういう事だったのか。
いくらアキナ様でも、永遠に魔力封じがされるようにするなんて事は出来ないはずだ。
常に相手の魔力を上回る魔力で押さえつけていないといけないんだから。
でも、魔力で押さえつけて魔力封じをしている訳ではなく、相手の魔力を変異させるという、呪いの効果によって魔力封じが成されている。
だから呪いが解けない限りは、永遠の魔力封じとなるんだ。
それに物理攻撃の跳ね返りだなんて……
魔力が使えない事に腹を立て、人を殴れば自分が殴られ、刃物で斬りつければ自分が斬られる……
あの時、呪いを受けた魔術師は、ミララから短剣を奪って傷つけた事で跳ね返りが起きていたという事だったんだ。
そしてミララから短剣が盗まれたと分かったアキナ様は、その時点であの魔術師がミララを斬りつけようとして自分が斬られた事も分かっておられたんだろう。
ただの反転魔法じゃない事は分かっていたけど、まさか呪いをこんな風に使えるだなんて……
流石だという一言では片付けていけない恐ろしさがある……
「じゃあこの耳飾り、人を呪える魔道具だったんですね……」
「ごめんね? そんな気味の悪いもの、着けていたくはないでしょう? 本当は話さないつもりだったのに……」
アキナ様は悲しそうにそう仰られた。
確かに人を呪えるような気味の悪いものなんて、誰も着けていたくはないだろう。
でもアキナ様が施されたこの呪いは悪意ある攻撃ではないし、そもそもミララを殺そうとしない限りは発動しない。
だから呪いの道具だとして恐れる必要もない。
「はぁ、何度も言ってますけど、私は効果を気にして身に着けてる訳じゃないんですって。アキナ様が下さった事が嬉しいから着けてるんです!」
「ん? じゃあ、これからも変わらず着けてくれるの?」
「もちろんです。呪える魔道具だろうと、呪われた魔道具だろうと、アキナ様が下さるものなら着けますよ」
「呪われた魔道具は触っちゃダメよ」
「分かってますよ」
ミララは冗談を言うようにそう言っているけど、これが冗談ではなく本気なのだという事は分かる。
アキナ様が私達に身に着けていてほしいと下さったものなんだったら、例え呪われた道具でも喜んで身につけたいと思う。
私もカイも、その気持ちは同じだ。
もちろんアキナ様が私達にそんなものを渡して来られる訳はないけど。
「おい! 当たり前だけど、その呪いがミララに跳ね返る事はないんだろうな?」
「ないわ」
「絶対に?」
「絶対に」
「ならいい」
「いいの?」
「いい。ミララはそれ、気に入ってるんだから」
「ふーん……」
フェルルはアキナ様に確認だけして、離れていった。
そんなフェルルをアキナ様は不思議そうに見つめておられた。
そんな魔道具をミララに渡していたなんて! と、以前のフェルルなら激昂していた事は間違いないだろうし、今のフェルルが理解出来なかったんだろう。
もうフェルルが、アキナ様の事を完全に信頼しているのだという事にも、アキナ様は気付いておられないから……
「あのー? 僕はまだよく分かっていないんですけど、ミララさんがその耳飾りをしている時、僕との手合わせはしても大丈夫なんですよね?」
「あら、ミララはジェイクと手合わせをしていたのね。大丈夫よ、ジェイクに呪いが発動したりはしないわ」
「呪い……というか、そのミララさんを守る為の効果が発動されるのは、ミララさんの結界が発動する場合のみだけなんですか? 普通に攻撃魔法とか、物理攻撃をされたとしても、何も発動してくれないんですか?」
「あぁ、悪意ある攻撃の場合は、単純な反転魔法が発動するわ」
「そうなんですね! それならよかったです!」
「ジェイクがミララに悪意なんて持つ訳がないからね、あなた達の手合わせ中には反転魔法も発動しないわよ。だからこそ、ちゃんと気をつけて手合わせしてね?」
「はい、もちろんです!」
ジェイクが心配していたのは、自分との手合わせ中に自分にも呪いがかかってしまうのかではなく、ミララが結界が発動されない程度に攻撃をされた場合の事を気にしていたみたいだ。
そして、ちゃんと軽度の攻撃にも対策がされていた事が分かり、安心している。
私達はもちろん、フェルルもジェイクも皆がアキナ様を信頼している。
呪いなんてものを利用していようと、その思いは変わらない。
でも、当のアキナ様はその事には気付かれていない。
今回の事で分かった、アキナ様がこの呪いの事実をミララに話さなかったという事がその証拠だ。
アキナ様にとっての私達は、まだアキナ様を恐れる存在のままなんだな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




