12 風呂
倒れてしまわれたアキナ様……
とても苦しそうに息をしている……
私は急いで駆け寄り、アキナ様を抱き上げて、ベットの上に寝かせた。
「うげ……」
「大丈夫ですか? アキナ様?」
「大、丈夫……では、ない……けど……ほら、さっき言った、でしょ? 魔法使うと、体調……不良に、なるって……」
「あぁ……」
とても苦しそうで、気分が悪そうなアキナ様。
それでも声を絞りだすように説明して下さった。
確かにさっき、魔法を使うと尋常じゃない体調不良になると仰っていたけど、こういうことだったのか……
アキナ様は、元々の奴隷印を解除し、新しく紅血奴隷印を私に刻んだ。
これはつまり、契約の解除魔法と、契約魔法の両方を同時に発動したという事になる。
それに奴隷印を刻まれているというのに、痛みがあの程度なのはどう考えてもおかしい。
おそらくアキナ様は契約魔法と平行して、状態魔法も使っていたんだろう。
私が感じる痛みが少なくすむように……
「フィー、どう? 魔法は……使えそう?」
「え……あ、はい」
アキナ様が倒れた事に驚いて、自分の変化に気がついていなかった。
体を縛られているような感覚もなくなり、自分の魔力をちゃんと感じる。
これなら魔法は使えそうだ。
「た、試しに……回復魔法、使って……」
「は、はい。≪ヒーリング≫」
私はアキナ様に魔法陣を形成し、≪ヒーリング≫を使ってみた。
≪ヒーリング≫は回復魔法の一種で、怪我を治せるだけでなく、体の体調の悪さや、毒物による状態異常を治すことができる魔法だ。
酷い大怪我や病気などは治せないけど、普通の体調不良くらいなら治す事が出来る。
今までは特殊奴隷印で魔力が押さえられていたので、≪ヒーリング≫を使うことは出来なかった。
でも今は、私の形成した魔法陣もちゃんと光って、≪ヒーリング≫を発動することが出来た。
特殊奴隷印による縛りはもう、本当になくなったみたいだ。
それなのに、≪ヒーリング≫をかけてもアキナ様は変わらずぐったりとしていて、回復した様子はない……
「も、申し訳ございません。私の魔法では力不足のようで……」
「ち、ちがうわよっ!」
「え?」
「私の……体調不良は、魔法で治るもんじゃ……ない、のっ! 私が、試すように言ったのは、私に……じゃなくて、フィー自身に回復魔法を、使って……って、意味よ」
「え? 私に……ですか?」
「そうよ……」
とても苦しそうなのに、必死に怒って下さるアキナ様。
まさか私自身に使えという意味だったとは……
「≪ヒーリング≫」
私は言われた通りに、自分に回復魔法をつかった。
身体中の怪我が治っていくのを感じる。
≪ヒーリング≫はあの特殊奴隷印に魔力を抑えられていて使えなかったとはいえ、≪ヒール≫くらいは使えた。
だから怪我を自分で治す事は出来たけど、治すと生意気だの、魔力はご主人様のためにとっておけだのと言われ、余計に傷つけられる事が多かった。
それが面倒なので、≪ヒール≫も使っていなかった。
私の怪我はそんな理由で残っていただけのものだったのに、アキナ様は心配してくれていたんだな……
「ちゃんと、治った……みたいね」
「はい……ですが、アキナ様を治す事ができません……」
「だから、私のは……魔法じゃ、治らないの……」
「で、では私はどうすれば……」
「とりあえず……フィーは、お風呂に入って、来るといいわ……」
「お風呂ですか?」
何を言われるかと思えば、まさかのお風呂……
「で、出たら……そこのそれ……着て、帽子かぶって、紅茶……買ってきて……お金は、適当に持って、行って……」
「紅茶ですか?」
「魔神種って、バレないよう……にね。あと、奴隷印……も、隠してね……」
「えっと、アキナ様は?」
「私は、寝る……」
そう言ってアキナ様は目を閉じて、本当に寝てしまわれた。
私はアキナ様に布団をかけて、言われた通りにお風呂に入る。
ちゃんとお風呂に入れるのなんて、いつぶりだろうか……
奴隷商達の所にいた時は水浴びとかだったし、レンタルされた先の家で入った事もあるけど……別に今思い出す必要はないな。
せっかくのお風呂なんだから、嫌な事は忘れよう。
お風呂から出てきて、アキナ様を起こさないように着替えを済ませる。
首元まで隠せる服をきて、奴隷印を隠す。
帽子を被り、角も隠した。
鏡で自分の姿を確認すると、どう見ても人類種だ。
それも、お金に余裕のある家の娘に見える。
これなら魔神種と気付かれる事なく、紅茶を買えるだろう。
一度、寝ているアキナ様の方を確認しておく……
年相応で、可愛い子供にしか見えないな。
ん? 今何か、アキナ様の目元が光った気がした。
涙……? アキナ様が泣いている……
この涙は体調不良の苦しさからきているのか、将又怖い夢でも見ているからなのか……?
私が目元の涙を拭うと、
「……ズリ……さま……」
と、アキナ様は呟いていた。
誰かの名のようにも聞こえたけど、何なのかは分からない。
ただ、出来る事ならアキナ様には笑っていて欲しいと思った。
私の為に戦い、私の為にこんなに苦しんで……
私に笑いかけ、優しくして下さり、体を気遣い、お風呂も自由に入らせてもらった。
さっきは奴隷から解放されなかった事に対し、勝手に失望とかしてしまったけど、私は奴隷ではあるにしろ地獄からは解放された。
全てアキナ様のお陰だ。
転移魔法の事だって、使えないと私が言った時、怒ったり癇癪を起こす事もなかった。
覚えればいいと、私が教えると言って下さったんだ。
まだ不安はあるけど、最初から無理だと諦めるのは性に合わない。
アキナ様の期待に応えれるように、頑張ってみよう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




