118 悪夢
カイ視点です。
「ふぁ~、フィー、カイ、おやすみぃー」
「「おやすみなさいませ」」
アキナ様はベッドに倒れ込むと、すぐに寝てしまわれた。
フィールさんが布団をかけ直している。
「私達も寝ましょうか」
「はい、おやすみなさい。フィールさん」
「おやすみ、カイ」
俺も布団に入って目を閉じる……
この幸せは現実で、夢じゃない……
俺はこれからアキナ様の役に立つために頑張っていくんだ!
アキナ様は空中移動がしたいみたいだし、早くアキナ様を抱えて飛べるようにならないといけないな……
そんな事を考えていると、だんだんと眠くなってきた……
ふかふかで、温かい。
とても寝心地のいいベッド……
昨日まではもっと固くて、冷たくて……
「また生えてきたじゃないか」
「えっ……ご、ご主人様……あの……」
ご主人様が来た。
ご主人様はいつも来るわけじゃない。
俺の羽が生えてきた位に来るんだ。
「ぎゃぁぁぁああ! いっ、痛い……いだぃ……です……」
「カイ! うるさいぞ」
「もっ、申し訳……ございません……」
「全く、私の耳を壊す気か」
「……」
「ほら、≪ヒール≫」
「ありがとう……ございます……」
今日も羽をとられた……
でもこれが俺の仕事だから……
……部屋に置いてある魔法の本。
この魔法が覚えれれば、俺はご主人様に羽をとられる以外の仕事を、させてもらえる……?
「カイ、また生えてきたじゃないか」
「あの、ご主人様っ! ≪フレイム≫が出来るようになりました!」
「それがなんだ。ほら早く翼を広げろ」
「はい……あぁぁぁああ!」
「ったく、≪フレイム≫ごときで私を倒せるとでも思ったか」
……倒す?
……ご主人様を?
ご、誤解です……俺は……
俺はただ、羽以外でご主人様の役に立ちたかっただけなのに……
「カイっ! なんだこの羽は!」
「申し訳ございません……」
成長につれ、俺の羽は段々と固くなっていった。
俺の使い道がなくなったんだ……
そうして俺は捨てられた。
それからは使えない、いらない、価値がない。
そんな事ばかり言われる日々……
そんなだったのに……
「私はこの子がいいのっ!」
そう言って、俺を買ってくれたとても可愛い女の子。
新しいご主人様になったアキナ様が笑っている。
俺はこれからこの方の為に……
「絶対に飛べるわ。だから、私を抱えて飛んでね」
俺の翼を治してくれたアキナ様。
あぁ、本当に翼が動く……
羽がまた生えてきた……
生えてきた? 生えてきた、生えてきた……
頭の奥に響くように聞こえる……
「また生えてきたじゃないか」
と。
「うわぁぁああああぁぁっ! ち、違うんですっ! 申し訳ございませんっ! 静かにしますっ!」
「カイ?」
「あぁ……あ、あの……」
「カイ、大丈夫?」
「あ、あ……アキナ様……?」
俺の名前を呼ぶ、優しい声が聞こえる……
恐る恐る目を開けると、布団を被って蹲る俺を、アキナ様が撫でてくれていた。
「カイ、悪い夢でも見た?」
アキナ様の後ろから、フィールさんも心配してくれている……
さっきのご主人様は、夢か……
「お、俺は……その……」
「あのね、カイ。私もフィーも女の子なの。夜更かしは美容の大敵なのよ」
「申し訳ございません……俺が大きな声を出したせいで……」
俺がうるさかったせいで、寝ていたアキナ様とフィールさんを起こしてしまったみたいだ。
こんな夜中にアキナ様の眠りを妨げるだなんて、許される事ではないのに……
それでもアキナ様は、俺の心配をして撫でてくれている……
「少しは落ち着いた? なら、カイも早く寝ましょう」
「いえ、俺はもう寝ません。またアキナ様を起こしてしまうかもしれませんから」
「それだとカイが休めないわ。私とフィーも心配で、寝れなくなっちゃうの。美容に悪いの」
「アキナ様はまだお若いんですから、そんなに美容に敏感にならなくても……アキナ様は十分に可愛いですよ。ねっ、カイ」
「えっ、はい。アキナ様は凄く可愛いです」
「そう? ありがとう」
えっと……今、何の話なんだっけ?
俺が寝るって話から、アキナ様が可愛い話に変わってる?
「さぁ、もう一度寝直しましょうか」
「で、ですが……」
「起きないようにするだけなら、≪スリープ≫を使えばいいんだけど、あれは結局悪夢を見ることに変わりはないわ」
≪スリープ≫?
魔法で俺を眠らせるって事か?
「だからね、これならきっと怖い夢は見ないから」
「アキナ様!?」
アキナ様はそう言いながら、俺と同じベッドに入ってこられた。
そしてそのまま、俺を抱き締めてくれた。
「こういう時は近くで一緒に寝ればいいのよ。そうしたら、怖い夢も見ないわ」
「あ、あの……」
「フィーはそっち側ね。あ、ちょっと寝にくいかな?」
「アキナ様、このベッドの大きさでは、さすがに3人は寝れませんよ」
「そうね……ごめんねカイ。私だけで我慢してね」
「えっ、え?」
「さ、一緒に寝ましょう」
俺の意見は全く聞かれず、何故かアキナ様が一緒に寝て下さる事になったみたいだ……
それも俺を抱き締めながら、頭を撫でてくれている。
「フィー、カイに≪スリープ≫をかけてあげて」
「えっと……」
「これでもう、きっと大丈夫よ。だから安心してね。おやすみ、カイ」
「……おやすみなさいませ、アキナ様」
俺はアキナ様に抱き締められ、頭を撫でられながら、フィールさんの≪スリープ≫で寝かされた。
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